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いま日産に何が起きているのか?「不健全な経営」から「ファンが待ち望んでいた自動車メーカー」へ。「合理性」から「非合理性」へのシフトとは

日産GT-R 50 バイ イタルデザインのテールランプ

| 日産はイヴァン・エスピノーザCEOのもと、新しい計画とともに新次元へと向かう |

何よりも「心躍る」クルマの開発にシフトしたことは高く評価したい

さて、日産が2026年4月に長期ビジョンを発表していますが、これはぼくの中だと「今までの日産の計画の中でもっとも響く」もの。

日産はこれまでにも「The Arc(2021年)」「NISSAN Ambition 2030(2024年)」といった計画を発表しており、しかしこれらの計画はいずれも「消費者不在」「あくまでも日産の都合による、そして消費者に選択肢を押し付ける計画」といった印象が拭えない内容であったと捉えています。

さらに新CEOであるイヴァン・エスピノーサ氏のもとでは「Re:Nissan(2025年)」が発表済みではありますが、これについては「おおまかな方針」にとどまり、しかし今回発表された「長期ビジョン」はその本命となる「実際の製品展開における具体的な計画」というわけですね。

日産のエンブレム

この記事の要約

  • これまでの日産は「不健全な経営」が指摘され、安易な販売手法に頼っていた
  • 日産「長期ビジョン」によってこれまでの「ビジネスライク」な実利主義から「長期にわたって愛される日産ブランド」づくりへとシフト
  • 日産は「消費者に寄り添う」自動車メーカーへと変化し、消費者に多様な選択肢を提供

なぜ今回の日産「長期ビジョン」は高く評価できるのか

今回発表された日産の長期ビジョンにつき、ぼくが高く評価しているのは「非常に現実的で、消費者に愛されるための企業へと変革するための具体的な内容を含んでいるから」。

この長期ビジョンでは「スカイライン」「エクステラ」の復活が明示され、メディアとのインタビューではシルビアやR36 GT-Rの復活も示唆されていますが、ぼくがこの計画を評価するのは単に「スカイラインやシルビアが復活するから」ではなく、その背後にある「真意」です。

これまでの日産はどういった会社だったのか

これについては順を追って説明する必要があり、まずこれまでの日産をひとことで表現するならば「不健全」。

時計の針をもどしてゆくと、カルロス・ゴーン時代(2001年にCEOに就任)にまでその悪しき慣習を遡ることができると考えているのですが、当時の傾向は「コストカット」に集約されるのではと考えています。

従業員をリストラし、サプライヤーに対しては納入価格の容赦ない値切りを行うなど(そのため、一時を境として、日産の塗料サプライヤーが入れ替わり、カラー構成が一新されている)、とにかくコストを削って削って削りまくるという手法ですね。

一方で新規開発への投資を抑え、車両そのものの製造コストを削減し(日産タイマーという都市伝説もあながち”伝説”というわけではない)、各セグメントごとに主力車種のみを残して「モデルラインアップを大きく削減」するといった手段をも採用しています。

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たとえばコンパクトカーだとノート、ミニバンだとエルグランドとセレナ、SUVだとエクストレイル、セダンだとスカイライン、スポーツカーだとフェアレディZとGT-Rといった具合に「非常に絞られ」、ここは多様な選択肢を提供するトヨタとは真逆の戦略ということに。

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ただしカルロス・ゴーン時代に評価できるのはR35 GT-Rの投入で、これは「せっかくファンが求める車種を持っているのだから、それを復活させない手はない」という理由から。

かくしてGT-Rは当時の「Nissan Revival Plan」に基づいて2007年に発売されるのですが、このリバイバルプランは以下の思想に基づいています。

  • ブランドの再生
  • 技術力のアピール
  • 世界市場での日産の存在感回復
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Image:NISSAN

実際のところ、このR35 GT-Rは当時ぶっちぎりの性能によって「すべてのスポーツカーやスーパーカーを過去のものに」してしまい、「この1台だけで」当時ジリ貧にあった日産のイメージを大きく変革したことは間違いなく、見事目標を達成したのだとも考えていいのかも。

さらにカルロス・ゴーンは自らステアリングホイールを握ってスポーツカーを走らせたりといった事実も報じられ(当時乗っていたのはポルシェ911GT2 RSだった)、とにもかくにも「クルマ好きが日産のCEOになったことで日産は楽しいクルマを作るようになる」と思わせたのも当時の状況です。

しかし別の観点から見るならば、日産はイメージの向上を「GT-Rのみに頼ってしまい(というか、当初からその計画だったのだと思われる)」、一方ではどんどん車種を削ることとなり、さらにR35 GT-Rについても改良は続けたものの後継モデルが登場せず老朽化をたどる一途となってしまうわけですね。

日産GT-Rコンセプトのテールランプ

つまりGT-Rは「コストカットから目をそらすためのスケープゴート」的な役割を演じさせられたのだとも考えられ、さらに日産は「限られた車種を効率よく販売するため、希望小売価格を引き下げ(当時、北米ではヒョンデよりも安価な、”北米でもっとも安いクルマ”を売るというレッテルを貼られていた)、そして大幅な値引きとともに法人向けのフリート販売を行うことで当座の現金を獲得するという、「商品力ではなく、価格と営業力でゴリ押しする」という不健全な道を突き進むことに。

そしてこういった方針は自動車メーカーとしての進化を停止させることとなり、ついにはその本文を見失なってしまったものだとも考えられますが、実際にその後の日産の転落ぶりは誰もが知るとおりです。

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「コストカット」「あるものでなんとかする」のはけして悪いことではなく、しかhし未来へと繋がる投資を行ってこなかったのが当時の日産ということになり、唯一継続して投資を行った「電動化」においても優位性を発揮できず、「EVの先駆者」ではあったもののテスラにお株を奪われてしまい、「計算違い」よってさらに状況が悪くなってしまったのが少し前の日産ということになりそうです。

日産GT-R 50 バイ イタルデザインのヘッドライト

日産の新しい「長期ビジョン」はこれまでの計画と何が違うのか

そこで今回発表された「長期ビジョン」について、これまでの計画と何が違うのかを考えてみると、まずひとつは「電動化」についての姿勢です。

これまでの日産の計画はいずれも「電動化」をその計画の中心に据えていたものの、今回の長期ビジョンでは「そうではなく」、電動化については既存技術であるe-Powerそしてプラグインハイブリッドへと注力するとアナウンス。

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そしてここからが本題となるのですが、日産は今後のモデル展開を以下の4つに分類しており、これはいままでの日産とは大きく異なるところです。

  • ハートビートモデル:日産らしさや歴史を象徴(スカイライン、フェアレディZ、エクステラなど)
  • コアモデル:規模と事業基盤を支える(エクストレイル、ノートなど)
  • 成長モデル:新規需要を開拓(エルグランド、サクラなど)
  • パートナーシップモデル:協業により市場をカバー

これまでの日産だと「新規開拓」「ブランディング」よりも、いま目の前で「顕在化している」市場をターゲットとして「いかに安く商品を提供し、いかに数多くのクルマを販売するか」を追求していたのだとも捉えていますが、新しい日産は「いかに新しいファンを獲得するか、いかにこれまでの日産を支持してくれた顧客を裏切らず、かつ期待を超えるような製品を提供するか」へと考え方をシフトさせているかのように思われ、これはつまり「合理性から非合理性へのシフト」であるとも考えられます。

新型「日産スカイライン」のプレビュー

Image:NISSAN

そしてその中心となるのが「ハートビートモデル」であり、この中に「スカイラインの復活」「エクステラの賦活」が含まれていて、さらには「R36 GT-R」「新型シルビア」へと話がつながってくることになりますが、これらはいずれも「業績を直接回復させることができるような」大きな利益を生むモデルではなく、しかし人々が「日産」の名を楽しそうに語るようになるのに必須ともいえるクルマたち。

なお、こういった手法はすでにトヨタが「大きな儲けにはならずとも、大きな話題を呼ぶことができる」GR(Gazoo Racing)各モデルの投入を通じて手本を見せており、日産はこの手法に倣うのだと考えてよく、しかし日産にはGRのように「新しいモデルを投入する必要はなく」、すでに「エクステラ」「シルビア」といった財産が存在しているというわけですね。

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つまるところ、日産はこれまでの「コストカット、節約、あるものでなんとかして新しい投資を抑える、今すぐお金を稼ぐことができる方法を考える」戦略から、「コストを投じてでも将来の資産となるものを作り上げ、今すぐお金にならなくとも、未来のために盤石のブランド体制構築を図る」という方向へと転じたのだとも考えられます。※ここ最近の日産の価値はある意味でGT-Rによって担保されていると考えることもできるが、そのGT-Rも先人が苦労して開発したクルマであり、その苦労があるからこそ今がある。よって未来のためにはいま苦労してでも将来の財産を作らねばならない

たとえばの話ではありますが、人間であっても「節約、節約、節約」では心が貧しくなるのと同様、これまでの日産は「心が貧しく」、しかしこれからの日産は「ボロを着ていても心は錦」といったところなのかもしれません。

日産GT-Rコンセプト

ただ、ちょっと気になるのは「そのコストをどこから捻出するのか」、そして「現在の日産がトヨタと同様の計画に耐えうるだけの体力を維持できるのか」。

これについては、工場や本社売却、そして不採算車種の整理によって「なんとか」資金繰りを行うのだと思われます。

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