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| ポルシェの真髄は「パワーに頼らない効率性」にある |
やはりポルシェはどこまで行っても「ポルシェ」であった
驚異的なハイパフォーマンスカーが次々と誕生する昨今の自動車業界において、スペック上の「馬力」だけでは測れない真のファクターが存在し、それを象徴する劇的なドラマが「アメリカの伝統あるサーキット、ミシュラン・レースウェイ・ロード・アトランタ」で巻き起こったというのが今回のニュース。
そのドラマの主人公となるのがポルシェ(Porsche)であり、今回はモータースポーツにおけるパートナーそして子会社であるマンタイ・レーシング(Manthey Racing)のノウハウを注入したマシン群を米国へと投入。
なんと7年前のモデルである「911 GT2 RS(991.2世代)」を用いて1,000馬力オーバーを誇る最新の怪物「シボレー・コルベットZR1」が持っていた市販車最速ラップ記録をあっさりと塗り替えることに成功しています。
歴史的タイムアタックの要約
- 7年前の旧型が最新型を凌駕: 2019年式の911 GT2 RS(マンタイ・キット装着車)が「1分22秒649」を記録。最新のコルベットZR1を0.2秒上回り、ロード・アトランタの市販車最速王座を奪還
- 圧倒的な馬力差を逆転: コルベットZR1の「1,064馬力」に対し、911 GT2 RSは「690馬力」。374馬力ものパワーディフィシット(力不足)を、高度なエアロダイナミクスとシャシー性能で完全にカバー
- GT3兄弟もレコードを連発: 自然吸気エンジン(NA)最速となる「911 GT3 RS(992.1)」や、最新の「911 GT3(992.2)」も同コースで異次元のタイムを記録

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米独ハイパフォーマンスカーによる「ロード・アトランタ」最速ラップ戦争
今回のタイムアタックの舞台となったのは、アメリカ・ジョージア州に位置する名門コース「ロード・アトランタ」。
アップダウンが激しく、マシンの総合的なバランスが試されるため、この高速サーキットはアメリカにおけるスポーツカー開発の重要な聖地となっています。
まず、ことの発端は2025年初頭、シボレーが新型「コルベットZR1(C8世代)」のプロモーションとして全米5箇所の主要サーキットでラップレコードを塗り替えるツアーを敢行したことに始まっており、このコルベットZR1はロード・アトランタにおいて、GMの開発エンジニアであるクリス・バーバー氏のドライブにより1分22秒85という驚異的な市販車レコードを樹立することとなり、それまでポルシェが持っていた記録を2秒以上も縮め、ミッドシップ化と1,000馬力超えの恩恵を世界に見せつけたというわけですね。
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しかし、ポルシェはこの挑発を黙って見ていたわけではなく(やられたら”やり返す”のがポルシェ流である)、元ファクトリーレーシングドライバーのヨルグ・ベルグマイスター氏を起用してマンタイ・キット(Manthey Kit)と公道走行可能な「ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2 R N0」タイヤを装着した2019年式の「911 GT2 RS」をコースへと持ち込むことに。
結果、1分22秒649を叩き出し、わずか0.2秒差ながらコルベットの手から見事に王座を奪い返したというのが今回のストーリーです。

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なぜ374馬力も劣る「7年前のポルシェ」が最新のコルベットに勝てたのか?
このリザルトが世界中の自動車愛好家に衝撃を与えている理由は、両車の圧倒的なスペックの差、そして「世代の差」にあります。
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スペック比較:ポルシェ 911 GT2 RS(MR) vs シボレー コルベット ZR1
| ポルシェ 911 GT2 RS(2019年式+マンタイ) | シボレー コルベット ZR1(2025年式) | |
| エンジン形式 | 3.8L 水平対向6気筒 ツインターボ | 5.5L V型8気筒 ツインターボ(LT7) |
| 駆動方式 | リアエンジン・後輪駆動(RR) | ミッドシップ・後輪駆動(MR) |
| 最高出力 | 690 hp(700 PS) | 1,064 hp(1,079 PS) |
| 最大トルク | 750 Nm | 1,123 Nm |
| ラップタイム | 1分22秒649(新・市販車最速) | 1分22秒850 |
| ドライバー | ヨルグ・ベルグマイスター(プロレーサー) | クリス・バーバー(GM開発エンジニア) |
最新のコルベットZR1は、V8ツインターボから1,064馬力という文字通りのハイパーカー級の出力を誇り、直線スピードではポルシェを圧倒します。
対する911 GT2 RSは690馬力。この「374馬力」という、スポーツカーにおいては埋めがたいはずの差をひっくり返した鍵が「マンタイ・レーシングが手がけた足回りと空力テクノロジー(マンタイ・キット)」であり、このマンタイ・キットは、ニュルブルクリンクでのノウハウをベースに開発された、「車高調整式サスペンション、強化ブレーキパッド、そして何よりもダウンフォースを爆発的に高めるカーボン製エアロパーツ(リアウィング、ディフューザー、フラップ等)」にて構成されています。
ドライバーのベルグマイスター氏が「10年近く前の基本設計でありながら、このフラット6のパワーデリバリーは今でもスリリング。シャシーの改良とダウンフォースの増加によって、コーナーの奥深くまですさまじい速度を維持したまま進入でき、立ち上がりも早くアクセルを踏み込めた」と語る通り、コーナリングセクションでの圧倒的な旋回速度が、コルベットの直線でのアドバンテージを完全に削ぎ落とした形となったわけですね。
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GT3兄弟も躍動。NA最速記録と最新992.2世代の実力
ポルシェが今回ロード・アトランタに持ち込んだのは991型GT2 RSだけではなく、現行の992世代をベースにしたGT3シリーズの2台(いずれもマンタイ・キット装着車)においても信じられないタイムを記録しています。
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1. 911 GT3 RS(992.1世代)が「NA市販車最速」を達成
今年初めにニュルブルクリンクでもコルベット勢を震撼させた、最大2,200ポンド(約1,000kg)ものダウンフォースを発生するモンスターNA「911 GT3 RS(992.1)」。
最高出力518馬力でありながら、ロード・アトランタを1分23秒932で周回し、これは同サーキットにおける「自然吸気(NA)の市販車として歴代最速」の記録となり、GTレースカーに匹敵するコーナリングスピードがこのタイムを支えているわけですね。
ただ、自然吸気という(ターボエンジンに対する)ビハインドは埋めようがなく、この911GT3 RSをもってしても「ニュルブルクリンクでは5位に入ることが難しい」という現実もあり、コースによっては「パワーが重要」ということもわかります。
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2. フェイスリフト直後の最新型「911 GT3(992.2世代)」の実力
さらに、最新のマイナーチェンジ版(992.2世代)の「911 GT3」に早くもマンタイ・キットを組み込んだ車両では1分24秒639をマーク。
これは、数年前に先代(992.1)の標準仕様のGT3が記録していた1分26秒46というタイムから、実に1.8秒もの短縮を達成しており、ベースマシンの進化とキットの熟成度を証明しているかのようですね。
泥沼化する米独ラップタイム戦争の行方
ここで、今回のニュースを一歩深く読み解くための重要なポイントがあり、それは両陣営の「ドライバーの属性」と「今後の伸び代」。
今回のタイムアタックを冷静に分析すると、シボレー側は「プロのレーシングドライバー」ではなく、あくまで「自社の優秀な開発エンジニア」をステアリングに座らせてタイムを出しています。
一方、ポルシェ側はニュルブルクリンクをはじめ、世界中のサーキットを知り尽くした「本物のトッププロ」であるヨルグ・ベルグマイスター氏を起用することに。
つまり、シボレー側には「もしプロのドライバーを雇ってアタックさせれば、さらにタイムが縮まり、ポルシェを再逆転できる可能性」が残されていて、しかし、ポルシェ側の不気味なところは、今回最速を記録したのが「すでに生産終了している一世代前のモデル(991.2)」であるという点です。
現在、ポルシェファンが首を長くして待っている現行992世代の「911 GT2 RS」は、次世代のハイブリッドパワートレインを搭載し、750馬力〜800馬力オーバーになると噂されていますが、新型GT2 RSが誕生し、さらにそこへマンタイ・キットが装着された時、一体どれほどのタイムが叩き出されるのか、想像するだけでも鳥肌が立とうというもの。
ニュルブルクリンクのみならず、アメリカの地でも勃発した「ポルシェ vs コルベット」の意地とプライドをかけたタイム戦争は、まだ「はじまったばかり」に過ぎず、今後の果てしなき戦いには「要注目」でもありますね。
結論
スペックシートの馬力やトルクの数値だけを見れば、1,064馬力のシボレー・コルベットZR1の圧勝に思えた今回の勝負。
しかし、ポルシェとマンタイ・レーシングが証明したのは、自動車の速さとは「パワー・空力・シャシー・そしてドライバーのシンクロニシティ(調和)」によって生み出される芸術であるという事実です。

Image:Manthey racing
7年前の車であっても、適切なアップデートと超一流のセットアップさえ施せば、最新の倍近いパワーを持つ怪物をも凌駕できる──。このタイムアタックは、ポルシェの伝統的なモータースポーツへの執念、そしてポルシェの「効率化」に対する思想が生んだ「ひとつの金字塔」。
アメリカの絶対王者がこのまま引き下がるはずはなく、遠くない未来、シボレーによる「プロドライバーを起用したリベンジマッチ」や、ニュルブルクリンクでの直接対決が期待され、クルマ好きにとってこれほどエキサイティングな時代は過去になく、今後の両社の動向から一瞬たりとも目が離せないという状況です。
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参照:Porsche











