【フィアット500Xってどんな車?】
「500」と名がつく通りフィアット500とよく似た外観を持ちますが、実際にはジープ・レネゲードの兄弟車となり、工場もレネゲードと同じイタリア・メルフィ工場で製造。
特にフィアット500の4WDバージョンではトランスミッション、4WDシステムもレネゲードと同じものとなります。
グレードはFFが「ポップスター(2,682,000円)」「ポップスター・プラス(3,078,000円)」、4WDが「クロスプラス(3,348,000円)」となり、FFは1.4L/130馬力エンジンと6速ツインクラッチ、4WDは1.4L/170馬力エンジンと9速オートマティック・トランスミッションを搭載。
長さ4250、幅1795、高さ1610ミリと比較的コンパクトなサイズで、このサイズだとミニ・クロスオーバー(4175/1790/1550)が近いですが、ミニ・クロスオーバーは4WDになると価格が362万円と結構高価に。
一方500Xはポップスター・プラス以上だと標準でレザーシートが付いてくる上、レーンデパーチャー・ウォーニング、ブラインドスポットモニター、全面衝突警報といった安全装備、ドライブモードセレクター(スポーツ、トラクション、オートの3種類)や電動式パーキングブレーキなどを装備。
カーナビこそは付属しませんが、それはミニ・クロスオーバーも同じ。
燃費だとミニ・クロスオーバーはリッター15.6キロ、フィアット500Xはリッター13キロとミニ・クロスオーバーの方に分があり、燃費はイタリア車がいつも不利な分野でもありますね。
国産車だとマツダCX-3がフィアット500Xに意外に価格/装備/サイズが近く、もしかすると欧州では直接のライバルになるのかもしれません。
なおマツダCX-3のサイズは長さ4275、幅1765、高さ1550ミリ。
装備を考えるとマツダCX-3 XDツーリングあたりが500Xと近いようですが、2WDで2,592,000円、4WDで2,818,800円。
総合的に考えるとCX-3の方が割安ではありますが、レザーシート分を考慮すると、やはりフィアット500Xの方がお得感が強くなりますね(燃費性能ではCX−3の方が圧倒的優位。ミニ・クロスオーバー共々ディーゼルなのでガソリンエンジンの500Xが不利なのは仕方のないところですが)。
他に競合しそうなのは、デザイン的系統は全く異なるもののホンダ・ヴェゼル。
ガソリン車である程度装備が充実しているのは「X ホンダ・センシング」ですが、4WDだと2,336,000円。
こちらもナビは標準装備ではなく、シートもレザーではないので、仮にレザーシートを選ぶとフィアット500X「ポップスター・プラス」に価格は近くなります(ただしそれでもヴェゼルの価格的優位性はあり、ヴェゼルが売れているのも頷ける)。
【外観・内装について】
とにかくそのような感じで考えれば考えるほどお買い得なんじゃないかと思えるのがフィアット500Xですが、外観についてはその名称の通り500がそのまま大きくなったようなイメージで、今回試乗した「クロスプラス」は専用のワイルドな前後バンパーが装備されます。
これがなかなか格好良く、マットグレーのアンダーガード風のパーツがいい雰囲気を出していますね。
諸元表を見ると車高が1.5センチ挙げられており、これもオフロードテイストを演出するのに一役買っている模様。
加えて、これもフィアット500譲りですが、各種オプションが豊富なのも良いところ。
ドアミラーやボディストライプ、ホイールのカラーまで選べるため、かなりの範囲で「自分仕様」に車をカスタムすることが可能です。
ドイツ車は一般に外装デザインが完成しており、そこから手を加えるのは非常に難しいように思いますが、イタリア車は自分で手を入れることができる部分が多く、カスタムのしがいがあるようにも感じますね。
正確に言うならばドイツ車はカスタムの幅はあるものの、カスタムの方向性がほぼ同じになってしまうんじゃないか(アウディ、メルセデス・ベンツは特に)と考えています。
イタリア車だとポップでもシックでもレーシーでもOKですが、ドイツ車はそうはゆかないんじゃないか、ということです。
内装については外装のポップさに対して「シック」とも言えるテイストを持っており、これはおそらくヴィンテージ風のレザーシートのせいかもしれません。
この「ヴィンテージ風」は最近のちょっとした流行で、ランボルギーニも最近はそのカスタマイズ・プログラム「アド・ペルソナム」でヴィンテージ風のレザーを公開していますし、バイクにおいてもスクランブラー人気以降、ヴィンテージ風のシートもちらほら見られるように。
なお、このシートはかなり座り心地が良く、体が沈み込むように設計されているのでスポーツカーのように比較的重心が低く安定した印象があり、SUVによくあるアップライトなポジションとはちょっと異なります。
シート位置が低いのかダッシュボードがちょっと高めに見えるのも特徴で、運転する姿勢や視界としてはスポーツカー的ですね。
塗装された樹脂パーツ、アルミ風パーツ等様々な素材のパーツが使用され、メーターは一部液晶となるなど近代的な印象で、こういったデザインや素材の上手な使い方はイタリアのメーカーが最も得意とするところだと思います。
【実際に運転した印象】
エンジンスタートは本来であればキーシリンダーが位置するであろうステアリングコラム右下にあるプッシュボタンを押して行います(スマートキー採用)。
車の性格もあり始動時のサウンド、震動はかなり抑えられており非常に静粛性が高いことがわかりますね。
さっそく車をスタートさせますが、ちょっと走っただけでも伝わってくるのは足回りの素晴らしさ。
(イタリア車なのに)ドイツ車的な堅牢さを感じさせながらもしっとりした印象があり、かなり「上質」と言えるでしょう。※FCAはクライスラー時代にダイムラーとの提携を通じて大きく技術が進歩したのかもしれない
ロールは少なく粘りを感じさせる設定で、これは長時間運転しても疲れにくいのでは、と感じます。
足まわりとシートの柔らかさとのバランスも秀逸で、シートは柔らかく体を包み込み、足回りはしっかりと車体を支える感じ。
エンジンは1.4Lということもありパワフルとまでは行きませんが、通常走行の範囲では全く問題はなく、むしろターボの豊かなトルクを感じさせる余裕のある走りですね。
ハンドリングも素晴らしく、ステアリングホイールは太く小径でレザーの質感も高く、適度に重い操作感を持っています。
近年のドイツ車のステアリングがどんどん軽い操作感へと変更されている中、こういった「落ち着いた、いかにも欧州車っぽい」パワーステアリングの設定は好感が持て、「いかにも自動車を運転している」という満足感も与えてくれるのでは、と感じるところ。
このあたりイタリアの自動車メーカーは車を「単なる移動の手段」ではなく「どうすれば車が楽しくなるか」ということを第一義に考えているのだろうということが伝わってくる部分ですね。
ブレーキのタッチもごくごく自然で、全体的に不安感がなく、安心して乗れる車といった印象があります。
【総括】
意外とこの「安心して乗れる」というのは重要で、そしてこの要件を満たす車は少なく、多くの場合はカーブで大きく車体が傾いたり、ボディの歪みを感じたり、レーンチェンジでゆり戻しを感じたり、サスペンションが震動を吸収しきれずに揺れが収まらなかったり、ステアリングが過剰に切れたり切れなかったり、ブレーキが効きすぎたり逆に効かなかったりするのですが、このフィアット500Xに関してはそういったことはなく非常にバランスが取れた車と言え、そして価格を考えると「かなりお買い得」と言えるでしょう。
見た目やオプション、運転した印象を総合すると「楽しい」の一言に尽きる車で、その価格を考えると国産車に対してもかなりな競争力を持っており、外観は好き嫌いが分かれるかもしれませんが「4WDやSUVを検討するならば」必ず購入検討対象に入れるべき車であり、逆に選ばない理由はないんじゃないかと思えるほどの強力なコストパフォーマンスを持っている車と言えますね。
ぼくは試乗を行う際、常に「購入すること」を前提に試乗を行いますが、それつまり車の性能だけではなく「価格」「他の車と比較した時の優位性」を考慮している、ということになります。
その上でその車の判断をしているわけですが、フィアット500Xはおそらくリセールも悪くないと考えられ(これが中古になると相当にコストパフォーマンスが高くなり、同じ性能を持つ中古車との価格差を考慮すると売却金額が大きく下がるとは考え難い)、総合的に考えても「買い」と言える車ではないかと断言できます。
ぼくは今までの試乗経験からするとフィアット/アルファロメオの車に対して好印象を抱く傾向にあるようですが、その割に今までそれらを購入したことはなく、いずれはこれらの車を手に入れなければならない、と考えています。
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