| はじめはボクもそう考えてきたが、この変化は起こるべくして起こるもので、単に社会構造が変わるだけに過ぎない |
そしてあるものはその利益を享受し、またあるものは淘汰される
スコットランドのグラスゴーで開催されたCOP26では、世界各国の首脳が集まり、地球が気候の大変動を回避するための計画を策定しようとしていますが、電気自動車はその計画にて重要なポジションを占めています。
もちろんガソリン/ディーゼル車を電気自動車に置き換えることで排出されるCO2を最小化しようということが狙いとなりますが、ここには様々な問題がある、という指摘も。
ちなみにボルボはつい先日、自社の車両を使用した実験で「EVはそんなにエコではない」という衝撃的な結果を発表していますが、そのほかにも「大量の電気自動車を走らせる電力をどうやって賄うのか」「電池の材料となるリチウムやコバルトは、チリなどの鉱山で採掘されるため、環境への負荷が大きい」など様々な問題があるもよう。
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やはり問題は「雇用」
今回ブルームバーグは「The Coming Electric Car Disruption That Nobody's Talking About(エレクトリックカーがもたらす混乱については誰も話していない)」という記事を公開しており、これは電気自動車が大量に普及した場合の広範な影響を調査し、主には自動車産業の周辺部門が余剰になる可能性にスポットライトを当てたものです。
電気自動車の利点は、そのシンプルさにあるとよく言われ、一般的な電気自動車は同等のガソリン/ディーゼル車に比べて可動部品がはるかに少ないため(60%くらいだと言われる)、信頼性が高く、そして点検にかかるコストが小さいと言われます。
これは電気自動車のオーナーにとっては、ディーラーや整備工場に行く機会(と支出)が減るのでありがたいことですが、ディーラーや整備工場で働く人たちにとっては、需要の低迷でほぼ確実に収入が減る、ということに。
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次に、「サプライヤー」に視点を移すと、エンジン本体のパーツを製造する工場はもちろん、エンジンに必要な点火系、オルタネーター、エアフィルター、触媒などを製造している中小企業はその需要を失い、失業者を出すばかりか倒産の危機を迎える可能性も。
米自動車機器製造者協会によれば、米国の自動車部品産業は現在約500万人を雇用し、米国のGDPの2.5%を占めているものの、そのうちの数十万人の雇用が失われる可能性が指摘されています。
日本でもトヨタ自動車の豊田章男社長が同様の指摘を行っており、「日本自動車工業会(JAMA)の会長として」、協会に属する多くの企業の中には”急速な電動化に対応できず、企業としての強みを失い、存続ができなくなる”と発言したのが記憶に新しいところですね。
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さらにブルームバーグは「ガソリン/充電スタンド」問題も提起しており、ガソリン車が減り、そしてEVを自宅で充電できるようになり、バッテリー技術の向上によってEVが1回の充電で300マイル以上走行できるようになれば、ガソリンスタンドはもちろん充電スタンドに行く必要もなくなる、とも(日本ではそうでもないが、欧米のガソリンスタンドでは、併設の売店による売上と利益が大きく、それがスタンドを助けているようだ)。
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そして今後、バッテリーや充電システムの進歩によって充電の規格も変化してくるものと思われ、現在がんばって建設中の急速充電スタンドも「そのうち時代遅れで使い物にならない」時代が来るかもしれず、大量に廃棄したりといった必要性が出てくるのかもしれません。
もちろん、バッテリー製造やその工場の建設、充電器の設置やそれに関わるパーツ生産・設置のための需要も生じることにはなりますが、「失われる雇用」をカバーするには不十分だとする見方も多く、トータルで考えると「急激なエレクトリック化」は雇用の喪失に繋がるとも考えられているようです。
産業構造はいつかは変わる
ただ、こういった変化は過去に何度もあり、乗り物だと「馬」から「自動車」に切り替わったり、Youtubeはじめ動画のネット配信が既存TV番組を駆逐してしまったり、レコードからCDに、そして現在音楽は「データ」になってしまったり、日本に限ってだと、ほとんどの家電メーカーが白物家電やテレビ製造を切り捨てたり、PCやスマートフォンから撤退したりと「それまでの基幹商品」を失ってしまうケースが多々あって、しかしそれでも、そのたびに各企業とも「なんとか」生き延びているのが現状であって、それを考えると今回問題視されている「EV化の波による大量失業」もなんとかなるのかも。
加えて、自動車産業のみではなく、世の中全体の産業に目を移すと、これまでになかった産業が出てきたり、それによって様々な職種が新たに誕生したりしているので、なんだかんだで雇用のバランスが取れるんじゃないかと思うこともあるわけですね(現実的に、労働市場的には慢性的な人手不足でもある)。
もちろんこういった変化は一夜にして起こるものではなく、しかし確実にやって来ることになり、そして技術革新は常に雇用の創出と消滅を繰り返し、ある者には素晴らしい機会を与えま、ある者には悲惨な状況をもたらしてきたので、それがまた繰り返されるだけだとも考えられます(そしてぼくらは、その波に乗るしかない)。
結局のところ、だれもが永遠の春を謳歌することはできず、(人が年を取るように)いつか必ず終わりがやってくる、ということなのかもしれません。
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参照:Bloomberg