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アメリカの関税強化が新車・中古車価格に大打撃。自動車業界に広がる“ステルス値上げ”の波、そして「中古車高騰」など世界に及ぼす影響とは

トヨタ

| 価格据え置きの裏で進む「インセンティブ削減」と「在庫プレミアム販売」 |

アメリカの関税強化は「アメリカ国内の問題」だけにとどまらない

アメリカ政府が発動した関税強化政策により、自動車業界が大きな揺れに直面しています。

表面上は価格据え置きの車種も多いものの、販売インセンティブの削減や低金利ローンの終了など、見えない形での値上げがすでに始まっており、それらは消費者に対する「しわ寄せ」となって家計を直撃することに。

在庫バランス崩壊寸前?「今あるクルマ」と「これからのクルマ」で価格に差

現在自動車ディーラーが現在抱えている在庫車両は、まだ関税導入前に仕入れた比較的安価な車両が中心ですが、今年後半から入荷する新車には最大25%の関税が加算されるため、価格は大幅上昇が避けられません。

ディーラーの戦略

そこで「仕入れ価格が上昇する」問題に対してディーラーがどういった対策を取るのかというと・・・。

  • 今ある在庫をプレミアム価格で販売し、後に入荷する高価格仕入れ車両とのコストを相殺
  • 安価なグレードのモデルをラインナップから意図的に外す例も(例:ダッジ・チャージャー)

車価格はじわじわ上昇、インセンティブは急減少

そしてアメリカ国内の自動車販売現場においては実際に以下の例も報告されています。

  • 4月の新車平均価格は前月比2.5%増(過去5年で最大の上昇幅)
  • インセンティブ(値引きや特別ローン)は平均10% → 6.7%に減少
  • ゼロ金利ローンはほぼ消滅状態(金利分を値上げと相殺)

「価格は据え置き」でも実質値上げ

こういった例を見るに、つまるところメーカー(あるいはインポーター、ディーラー)は表面上の価格を据え置きつつ、裏ではインセンティブを削減し、ローン金利を引き上げ、購入総額が上昇する構造へと移行しているといった状況となっています。

これは「見た目の価格を上げるとクルマが売れなくなる」ため、値上げをせずに利益を確保するための行動でもありますが、これらであっても「コスト上昇」を吸収できるわけではなく、メーカー、インポーター、ディーラーそれぞれの間でも「上がったコストの吸収を分担」しているものと思われ、しかし今後(低関税時代の在庫車がすべてなくなってしまうと)さらなるコスト上昇も見込まれ、そうなるともう「いよいよ値上げを行う」しかないのかも。

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影響は輸入車だけじゃない?アメリカ国内生産車にも「コスト分散」の波

そして「25%の関税が課された輸入車をそのまま25%値上げ」すると当然売れなくなってしまうため、各自動車メーカーは米国にて生産を行っている車種(これらには当然関税がかからない)に対してもコストの負担を要求することになり、米国生産車についても値上げを免れることはできないと見られています。

加えて生産が米国であっても、それらに使用するパーツやコンポーネントが海外からの輸入であれば、これらにも関税がかかるため、車両トータルでの生産コストが上がってしまい、「どうやっても」これから製造される新車の価格が上昇してしまう要素が揃っているわけですね。※USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)内でも関税がかかり、部品調達構造が複雑化するためにやはりコストが増加する

  • 輸入車だけでなく、一部の米国製車両も価格調整の対象
  • 製造コストの増加を補うため、全体的に価格が均等に引き上げられる可能性
  • 一部メーカーは完全北米生産に切り替えるなど対応中
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参考までに、「日本の自動車メーカー」といえども実際には海外販売比率が高く、トヨタ、ホンダ、日産では以下の通り。

  • トヨタ自動車: 84% (会社四季報 2025年1集新春号より)
  • ホンダ (本田技研工業): 87% (会社四季報 2025年1集新春号より)
  • 日産自動車: 85% (会社四季報 2025年1集新春号より)

そして北米市場はトヨタだと(利益ベースで)39.8%、ホンダでは46.3%を占めるに至っており、北米市場で利益を失うとなると会社としては「致命的」で、よってこれをカバーするために日本市場含む他市場での値上げが行われるであろうことも想像に固くないところです。

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関税導入後、販売・生産台数も大幅減の予測

そして値上げを行うと当然「売れる台数が減るので」生産も抑えねばならず、現時点では以下のように予想がなされています。

指標予測される影響
アメリカでの新車販売最大110万台減(約8%)
メキシコ・カナダでの生産最大50%減の可能性も

中古市場もこの影響を逃れることはできない

そしてこの「あおり」を食らってしまうのが中古市場。

コロナ禍の際にはサプライヤーや自動車組立工場が「ロックダウン」されたために生産が滞り、その結果として市場に供給される新車の台数が極端に減少していますが、今回の「関税導入」においても同様の状況が生じるものと見られており、結果的に「中古車に人気が集まる」と予想されています。

そして今回は「新車価格が高くなっているので」中古車相場もそれにつられて値上がりすることが考えられ、ここに「旺盛な需要」が加われば中古車市場が特需に沸く可能性も。

そうなると現在の円安を背景に多くのバイヤーが「日本の中古車を」買い漁る可能性も否定できず、これにつられて日本の中古相場も全般的に引き上げられるのかもしれません。

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参考までにですが、ぼくが「左ハンドルを選択できるクルマでは左ハンドルを選ぶ」のはここに理由があり、つまるところ「全世界レベルでの流通を考えるならば、左ハンドルのほうが流通しやすく、価値が高いから(世界中でどのような状況に陥ろうとも、左ハンドル市場のいずれかは活性化する)」。

世間では「日本で乗るなら右ハンドル論」が強く、なにかと左ハンドルが否定されることが多々あり、ぼくもそういった論争とは無縁ではありませんが(好むと好まざると”巻き込まれる”ことがある)、その際には「だって左ハンドルのほうが高く売れるから」と言えばその場がだいたい一発で収まります(ちょっと雰囲気は悪くなるけれど)。

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JUN

2013年より当ブログを運営中。 国産スポーツカー、ポルシェ、ランボルギーニ、フェラーリ等を乗り継ぎ現在に至ります。 単なる情報の記載にとどまらず、なにかしら自分の意見を添え、加えてクルマにまつわる関連情報(保険やメンテナンスなど)を提供するなど「カーライフを豊かにする」情報発信を心がけています。 いくつかのカーメディアにも寄稿中。

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