| 「レストアしない」のはレストアによってそのオリジナリティが失われるから |
ポルシェミュージアムには640台もの「未レストア」車両があるそうですが、その中でレーシングカーは3台のみ。
そしてその3台のうちの一台がこの「910/8ベルクスパイダー(シャシーナンバー031)」。
この910/8ベルクスパイダーについては、これまでポルシェミュージアムに展示されたことはなかったそうですが、今回ついに「はじめて」一般向けに公開されることに。
910/8ベルクスパイダーはスチール製スペースフレームに樹脂製のボディを持ち、重量わずか450キロ、そして水平対向8気筒エンジン(275PS)をミッドマウントし、0−100キロ加速は3秒程度。
この「450キロ」は異常とも言える数字ですが、これはチタンやマグネシウム、アルミや樹脂など、部位によって最適な軽量化を追求したため。
なお、ベルクスパイダーには「909」も存在し、これはポルシェ910をベースに製作したもので、重量は更に軽い384キロ(出力は910/8と同じ275PS)。
パワーウエイトレシオはなんと1.39で、マクラーレン・セナの1.52を軽く超えた数字です。
なお、ポルシェはこの910/8ベルクスパイダーをレストアしないと決めており、なぜならば「レストアすることでそのオリジナリティが失われるから」。
たしかにレストアを嫌うユーザーも多く、「世界に一台」というレベルの希少車であれば「レストアしないほうが」価値が高いとされるほどです。
よってポルシェもこの910/8ベルクスパイダーについては外観を保つための「最低限」の補修しか行っておらず、サビや破損を直す程度にとどめているそうですが、同時にこのクルマのエンジンに二度と火が入ることはなく、そして再び路上を走ることもないわけですね。
なおステアリングホイールは肉抜きだらけで軽量化を意識したこともわかります。
ポルシェはレーシングカーにおいては「キーとキーシリンダーすら」軽量化の対象とし、とにかく重量を削りまくったことでも知られます。
今回の修復作業において、実際にポルシェ自身も「走行が可能なコンディションに戻す意図はない」としていますが、それは「すでにこのクルマはミッションを果たしたから」。
そのミッションとは1967年のヨーロピアン・ヒルクライム・チャンピオンシップにて優勝を収めたことで、すでに「ほかのどのクルマよりも速く走れるということを証明済」。
よってもう一度その性能を証明する必要はなく、作られた当時のままの姿を保つことがポルシェにとっての責務である、ということのようです。
そして今回の展示期間が終了した後はまた「倉庫に収められる」ことになり、もしかすると二度とお目にかかることはできなくなるのかもしれません。
こちらは当時のポルシェに特徴的であった「センターに冷却ファンのあるエンジン」。
これはポルシェのヘリテージとして918スパイダーにも継承されていますが、このファンによって冷却されることで熱収縮の問題が生じ、それを解決するために考え出されたボルトの話も公開されていますね。
スペースフレームはかなり細く、そして複雑な形状を持つようですね。