| どうやら今後、「排気量当たりの馬力上限規制」が導入されるようだ |
ポルシェが「今後、大排気量へ移行するかもしれない」というコメントを発し周囲を驚かせることに。
ポルシェはこれまでにも何度か(排気量の)ダウンサイジングを行っており、歴史上最も大きな変化は991から991.2へと移行する際の「3リッターターボ化」。
これはもちろん環境規制に対応するためで、ポルシェはかねてより「燃費改善の無いパワーアップは行わない」とコメントしており、燃費改善とパワーアップを同時に成し遂げることができるのが”ターボ化”だったわけですね。
そして、厳しい環境規制下においては「自然吸気エンジンではこれ以上パワーアップすることが難しい」と判断したのだとも考えられます。
ユーロ7では「リッターあたり馬力規制」がある
そして今回の「大排気量化するかも」発言ですが、これは2026年に導入されるユーロ7環境規制に対応するためのようですね。
え?排気量上げたら環境規制をパスできなくなるんじゃないの?と思ってしまいますが、ポルシェの911含むスポーツカー開発責任者、フランク・シュテファン・ヴァリザー氏によれば、「ユーロ7には、排気量あたりのパワー上限が決められる」とのこと。※現在の規制はユーロ6。ユーロ7はもっと早く導入される計画だと認識していたが、先送りになったようだ
現時点でその排気量あたりの制限はわからないものの、現行モデルだと911ターボSでは「リッターあたり171馬力」、911カレラSでは「150馬力」。※フェラーリF8トリブートはリッターあたり185馬力
つまりポルシェはリッターあたりの出力をもっと上げたいと考えていて、しかしユーロ7で決められる制限では「足りない」ということになりそうです(もしくは、排気量を上げないと現在の出力すら維持できなくなるか)。
そしてフランク・シュテファン・ヴァリザー氏いわく、「スポーツカーメーカーがユーロ7に対応する手段は2つしか無い。馬力を妥協するか、もしくは排気量をアップするかだ」。
なお、ガソリンエンジンにはおおよその「1気筒あたり排気量」上限が決まっていて、これは規制ではなく「効率性」の観点から。
ガソリンエンジン(レシプロエンジン)は、その気筒あたり排気量が小さいと駆動ロスが大きく、逆に気筒あたり排気量が大きいと発熱や耐久性に問題が出るといい、一般には1気筒あたり400~600ccあたりが適正だとされています。
ちなみにかつてポルシェが(944S2に)使用していた「4気筒3リッターエンジン」は当時「1気筒あたり世界最大排気量(750cc)」と言われていましたね。
よって4気筒エンジンを「4リッター」にするわけにもゆかず、フランク・シュテファン・ヴァリザー氏は「現在ダウンサイジングを進めているブランドも、4気筒から6気筒、6気筒から8気筒という、アップサイジングの流れが起きる」と述べており、そしてポルシェは「911は最後まで水平対向6気筒で行く」と決めているそうなので、排気量アップはあっても「8気筒化」はない模様。
加えて大排気量化を行うと当然CO2排出量が多くなるので、「現在の容量の数倍もの触媒が必要になる」というコメントも発しています。
なお、「もし排気量アップするならば、現行エンジンのボアアップではなく新設計となる」そうですが、あと15年くらいしか寿命がないと思われるガソリンエンジンに対して、ポルシェはまだコストを投じる予定を持っていると考えられ、それだけの価値が911にはある、ということになりそう。
911カレラは「自然吸気」には戻らない
そしてフランク・シュテファン・ヴァリザー氏は「911カレラが自然吸気エンジンに戻ることはない」とも語っており、これはパワーの観点というよりは「排ガス規制」によるもの。
現在世界最も厳しい規制を敷くのは欧州であり、これに対応するにはターボエンジン以外のソリューションはない、と述べています(オーストラリアや、アメリカの規制内容であれば、自然吸気エンジンであっても、ポルシェの求めるパワーを実現できるらしい)。
ただ、ポルシェは現時点でも911GT3/911GT3 RS、718ケイマン/ボクスター”GTS4.0”には自然吸気エンジンを用意しており、可能な限りはこれを継続する、とも。
なお、欧州ではメーカーあたりの「平均CO2排出量」が決められていますが、おそらく自然吸気エンジンはこの平均値を下げることになり、それを適正値に戻すためにも(数が出る911カレラには)ターボエンジンが必要なのかもしれません。
加えてカイエンやパナメーラのハイブリッドモデル、タイカン、そして近いうちに発表されると言われるマカンのエレクトリックバージョンもCO2排出量引き下げに大きく貢献すると思われ、これらのおかげで「GT系が自然吸気エンジンのまま存続できる」のかも。
カイエンやパナメーラ、マカンはピュアなポルシェファンからすると異質な存在かもしれませんが、今となっては「それらのおかげで」ポルシェのスポーツモデルが生き残ることができている、ということにもなりそうですね。
参照:Wheels, Autoblog