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| ポルシェにとって911「タルガ」は特別な存在である |
そしてある意味での「ポルシェの頂点」としての存在でもあると考えていい
さて、ポルシェ911の特徴的なボディバリエーションのひとつが「タルガ」。
これはいわゆる「タルガトップ」を備えるもので、このタルガトップとは一般に「取り外し可能なルーフトップ」を指すことが多く、シボレー・コルベット、そしてかつてはフェラーリも一部モデルでこれを採用したことも。
ただ、この「タルガ」という名称はポルシェが最初にこの「着脱可能なルーフ」を持つクルマに対して与えたもので、つまり正確には「タルガトップ」というのはポルシェにおける特定のボディ形状を持つクルマということになりそうです(ただ、商標が取得されているわけではないようで、一般化した名称であると認識できる)。
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ポルシェ911「タルガ」はどうやって誕生したのか
そこでこのポルシェ911「タルガ」誕生の経緯について掘り下げてみると、ポルシェは901(のちに解明されて911になる)の設計当初からオープンモデルを導入する計画を持っており、すでに1962年にはボディ製造を委託していたカルマン社とロイター社との協議を行っています。
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この協議は「クーペ版の911の生産によって工場のキャパシティが圧迫されていたため」しばらく棚上げになっていたものの、「通常のソフトトップを備えるオープン」「シンプルなロードスター」「固定式ロールバーを持つ構造」の3つが検討され、しかし1960年代なかばに(主要市場である)北米においてオープンモデルに関する基準が厳格になったこと、そして技術的にも合理的であったことから「固定式ロールバーを持つ構造」が採用されることに。
かくして1965年のフランクフルト・モーターショーにてデビューしたのが「911タルガ」で、1967年からは「912タルガ」も追加されています。
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意外とポルシェは「現場のインスピレーション」を重んじる
この「タルガ」という名前につき、当時セールスマネージャーを努めていたハラルド・ヴァーグナーが採用したものだといい(発売直前に取り入れられたようだ)、この由来はポルシェが活躍したことで知られる公道レース、「タルガ・フローリオ」から。
ちなみにこの「タルガ・フローリオ」は「フローリオ家の盾」という意味で、優勝者には(主催者である)フローリオ家からありがたい「盾(トロフィーの代わり)が授与される」ということからその名称が用いられています。
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そしてこの「タルガ」は「盾」のほか「プレート」、自動車業界では「ナンバープレート」の意味があるそうですが、ポルシェではこれまでにも「ダックテール」「タータンチェック」「ピンクピッグ」など、現場のふとした思いつきから採用された名称や意匠が少なくはなく、このあたり「合理性と計画性を重んじる」ポルシェらしからぬユニークなエピソードかもしれません。
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ポルシェ911タルガは「クーペとオープンモデルの利点を併せ持つ」クルマ
当時の911タルガは「タルガトップ装着状態」「タルガトップ取り外し状態」「リアウインドウ装着状態」「リアウインドウ取り外し状態(ジッパー式。1969年にはパノラマウインドウに変更)」という4つのボディ形状を楽しめるクルマ、そしてクーペの安全性とオープンの開放感とを併せ持つクルマとしてリリースされていますが、この構造はのちの914にも導入され、924でも検討がなされたほか、カレラGTにも採用されています。
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この「タルガトップ」は911の最初の3世代まで継続され、つまりは964までがこの「タルガバー+着脱式ルーフ」を持つことに。
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ただし1995年に登場した993世代では「タルガバー」は廃止されてガラスルーフが前後にスライドするという構造を採用し、その外観が「クーペ同様」へと変更され・・・。
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996世代でも同様ですね。
この理由はいまでも「ナゾ」ではあるものの、安全性、空力、そして手動による「脱着」操作がセレブ的ではない(収納場所にも困る)など、いろいろな要素が加味されたのかもしれません。
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しかし2014年にはこの「タルガバー」が第7世代の「991」型911とともに復活。
ただしそれまでの「タルガバー+脱着しルーフ」ではなく、外観こそ「クラシカルなタルガバー+パノラマウインドウ」を備えるも、その開閉はボタン一つの全自動にて行われ、「タルガトップとリアウインドウがガバっと動く」というスペクタクルなもの。
これは992世代でも同じ構造を採用しており、こんな感じで動作します。
この一連の動作は見事としかいいようがなく、この機構のため911タルガは非常に高価なクルマとなっているのですが、そのぶん「エレガントさを求め、コストを厭わない」リッチな人々のためのバリエーションとして存在しており、よって「911タルガに乗っている人は、本物を理解し、それだけのお金を支払うことができる、大変裕福な人」ということに。
現代のポルシェ911タルガはある意味では「もっともポルシェらしい」クルマである
つまるところ、現代の911タルガは「初代911タルガの魂を宿しつつ、クーペとオープン両方の利点を持つという特徴も継承し、しかしボディ形状の変更はオーナーの手を煩わせることなくボタン一つで行うことができ」、それを実現するためにポルシェはエンジニアリングを極めることになったという特別なクルマ。
よって911タルガはポルシェの歴史、思想、そして技術、さらには芸術性が凝縮された1台ということになりますが、ポルシェがつい最近建設を発表したタワーマンションにも「911タルガ同様の機構が採用されていたり(たぶんバルコニーのウインドウが自動でガバっと動くのだと思う)、ポルシェデザインがあたらしく「911タルガをイメージした」ラゲッジシリーズを発売したことからも、いかにポルシェが「911タルガをリスペクトしているか」がわかろうというものですね。
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余談ではあるものの、ポルシェが最初に「輸出」を行った国はオランダで、オランダ警察では当時911タルガをパトカーとして導入しているのですが、その理由は「パトロール時にタルガトップを外して走行し、違反車両を見つけると、ルーフの上から”停止サイン”を出して違反車両のドライバーにそれを示すことができたから」。
これはこれで「タルガトップの思わぬメリット」であるとも言えそうですね。
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