
Image:Porsche
| 忘れられたポルシェの遺産、「シュミット・カー」が蘇る |
採算度外視で作られた、まさに「個人コレクターならではの情熱の結晶」
ポルシェ356 Aクーペといえばポルシェの初期を代表する名車ですが、その一台を“偶然”購入したオランダのヘンク・スピン氏は、10年にわたるレストア作業の末、驚くべき事実へとたどり着くことに。
その「事実」とは、この個体が”世界に1台しか存在しないワンオフモデルであった”ということで、1958年にラインハルト・シュミットという人物の特別注文によって作られた、世界に1台だけの“ファクトリー・ワンオフ”だったのだそう。
なお、ときおり「たまたま入手した個体が、歴史的に大きな価値を持つクルマであった」という事実が判明していますが、今回の例もその中の一つということになりますね。
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きっかけは「何かが違う」から始まった
ヘンク・スピン氏は米アリゾナのレストア業者からボロボロの356を購入し、自らの工房で再生を開始することになるのですが、しかし内装やパーツ構成が標準仕様と大きく異なることに違和感を持ち、ポルシェのアーカイブを利用して調査を開始。
手がかりは製造元レウター社の記録に残された“読めない走り書き”。それをきっかけに、この車が「シュミット・カー」であることが判明します。
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「シュミット・カー」とは? ポルシェとVWに深く関わった男の夢
この「シュミット・カー」について説明しておくと、これは1950年代に自動車部品メーカーATEに勤めていたシュミット氏(ポルシェやVWと強い関係を持っていた)がテスト目的で発注した8台の特注ポルシェを指しており、その中の1台がこの356。
そしてこの356には「ポルシェの未来を先取りするような装備」がふんだんに盛り込まれていた、という記録が残っています。
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搭載された“当時存在しなかった”数々の特別装備
この356には以下のような驚くべき仕様が含まれていて、特筆すべきはやはり「自動車電話」かもしれません(一般にこれが普及したのは1980年代だと思われる)。
- ポルツェリンホワイトの外装 × アセラレッドの内装
- 車載電話(当時価格5,000ドイツマルク)
- 特注の計器類(タコメーター、クロックなど)
- 電動ウォッシャーポンプ
- 反転灯、ドアスピーカー、リバースランプ
- 脱着式ラリーライト、ジャンガンス社製時計
- 試作車番号「Versuchswagen 145」のプレート
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そしてこの「受話器」が当時を物語るかのようですね。
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ポルシェクラシックとの二人三脚で復元
状態の悪かったボディには新しいノーズを含むフルレストアが必要であったといい、スピン氏は各分野のスペシャリストと連携してポルシェクラシックからパーツを取り寄せ、オリジナルに限りなく近い状態にまで再現することに。
貴重な資料、図面、写真、そして運命の文献「Christophorus」誌の1958年号までが復元の手掛かりに使われたと説明されています。
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ガレージは“ポルシェ博物館”、次の挑戦は911T
スピン氏の工房には他にもマカン(2018)、ケイマンS(2006)、911カレラSカブリオレ(991)が並び、レストアを待つ911 T(1972)も控えているそうですが、工具はポルシェレッドで統一され、壁一面にはラリードライバーのサイン入り写真と歴代ポスターがならぶなど、まさに“ポルシェ一色”の空間。
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70年越しの夢と情熱が生んだ芸術品
この356 Aクーペは、シュミット氏とポルシェの革新性を物語る、まさに“動く歴史”。
スピン氏は「技術的な完成度を味わうことが幸福のひとつ」と語っており、経済性を超越した(ビジネスレベルでとうてい採算が合わない)この復元プロジェクトは、真のクラシックカー愛を体現しています。
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