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| 20年前、ポルシェはディーゼル技術を“ハック”して史上最速の911を作り上げた |
ポルシェは常識にとらわれない
ポルシェ911ターボは誕生以来「常に革新的な進化を遂げてきた」モデルとして知られていますが、なかでも2006年モデルは911ターボ史上でもっとも大きな技術的飛躍を遂げた一台です。
その理由は「それまでディーゼル車にしか採用されていなかった”可変タービンジオメトリー(Variable Turbine Geometry=VTG)”を初めてガソリンエンジンに導入した」ためで、この技術革新により、ターボラグはほぼ完全に消滅し、それと同時に911ターボは当時「世界最速の量産ポルシェ」となったわけですね。
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■ 911ターボは常に“技術的マイルストーン”を背負ってきた
911シリーズは常にレーシングテクノロジーを市販車へと橋渡ししてきた存在ではありますが、その中でも911「ターボ」はその急先鋒。
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1974年に初代911ターボが登場し、モータースポーツ由来のターボ技術を公道へと持ち込んだのち、2年後にはインタークーラーを追加し、吸気温を下げてパワーをさらに引き上げることに成功しています。
「ブースト圧を高め、より多くのパワーを引き出せるようになった。当時、ターボこそがモータースポーツの未来だった」
― ノルベルト・ジンガー(元ポルシェ・レーシングエンジニア)
しかし当時の911ターボは、ターボラグが大きな課題となっていて、最大ブーストがかかるのは3,500rpmを超えてから。
つまり、低回転では「(割球がかかるまでの)待ち」があり、この“ターボの谷”を埋めるため、ポルシェのエンジニアたちは新たなアプローチを模索し続けることとなるのですが、これが「911ターボの歴史」であるとも考えることが可能です(もうひとつの911ターボの歴史は「トラクションの確保」であろう)。
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■ “ビターボ化”で応答性を改善、四輪駆動も標準装備に
1995年、ポルシェは初めて「ビターボ(ツインターボ)」構成を採用していますが、これにより2つの小型ターボチャージャーを並列に配置するというもので、小型化によってレスポンスが大幅に改善され、911ターボははるかに俊敏な存在へ。
さらに、この世代から全輪駆動(AWD)が標準装備となり、路面状況に応じて駆動力を最適配分することで、安定性と加速性能の両立を果たしています。
また、このモデルは“空冷最後の911ターボ”としても知られており、当時としては世界で最も排出ガスがクリーンなスポーツカーだったといいますが、「時代の波には逆らえず」やがては水冷エンジンの時代が訪れ、ポルシェは次なる革新へと向かっていくわけですね。
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■ 997世代:ポルシェが「電子制御とサスペンション革命」を推進
そして2005年に登場した997世代の911は、性能の幅を大きく広げる存在で、この世代では「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)」や「可変スポーツエキゾースト」、さらには「LEDライト」といった最新技術が投入されています。
さらにこの世代後期では、ポルシェ初のデュアルクラッチトランスミッション「PDK」も登場し、現代にまで連なる911の礎を築いたモデルだとも考えることができます。
だだ、この997世代の911において「これを抜きにして語れない」のが2006年の911ターボに搭載された“革命的な技術”、VTGターボチャージャー。
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■ ガソリンエンジンにVTGを採用した世界初の量産車
VTG(可変タービンジオメトリー)は、もともとディーゼルエンジンの分野で発展した技術であり、ターボの内部に「ベーン」と呼ばれる可動翼を配置し、排気ガスの流れを角度制御することでターボの回転を最適化するという仕組みを持っています(タービンブレードの角度をアクティブに変更し、排気ガスを受けるブレードの面積を変更し、少ない排気流量でもタービンを回すことが可能となる)。
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これにより排気量が少ない低回転域でもターボが素早く立ち上がり、レスポンスが劇的に改善され、つまり「ターボラグのないターボエンジン」がここに実現することとなっています。
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■ 最大の課題は“熱”だった
なお、これまでガソリンエンジンにこの技術を採用できなかった理由は「熱」。
ガソリンエンジンはディーゼルよりも排気温度が高く、機構部品への熱ダメージが深刻になり、そのため当時VTGはガソリンエンジンには適用不可能とされていたという事実が存在します。
しかしこの難題を解決したのが、ターボ供給元であるボルグワーナー社。
同社はポルシェの開発陣とともに、950℃にも達する排気温度に耐える新素材と機構を開発することに成功し、これによってVTGターボがついにガソリンターボ車に搭載可能となっています。
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「997世代の911ターボは、ポルシェにとってターボ技術のマイルストーンだった。2006年、この車は世界初のVTG搭載ガソリン量産車となり、“ターボラグ”は過去のものとなった」
― トーマス・クリッケルベルク(ポルシェ・プロジェクトマネージャー)
■ VTGターボがもたらした結果:驚異のレスポンスと加速
この新技術により、2006年型911ターボ(997型)は0-100km/h加速わずか3.5秒という驚異的な性能を達成。
最高出力は473馬力、トルクは502lb-ft(約68.9kgm)を発揮するに至り、5速ATまたは6速MTが選択可能で、AWDシステムがそのパワーを余すことなく路面へと伝えます。
| スペック | 数値 | 
| エンジン | 3.6L フラット6ツインターボ(VTG) | 
| 出力 | 473hp | 
| トルク | 502lb-ft(約68.9kgm) | 
| 駆動方式 | AWD | 
| 変速機 | 5速AT / 6速MT | 
| 0-100km/h加速 | 約3.5秒 | 
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■ VTGの進化と“その後”のポルシェ
そしてこの技術革新から20年。
ボルグワーナーとポルシェはVTG技術をさらに発展させ、現在では718ボクスターや718ケイマンにも採用されており、また、911 GT2 RSでは水噴射システムと組み合わせることでニュルブルクリンク最速記録を更新するほどのパフォーマンスを実現しています。
911ターボが“ディーゼル技術”を取り入れたことは単なる偶然ではなく、それはポルシェの「レーシングスピリットと技術革新の融合」を象徴するエピソードでもあり、常に最良を追求し、そのためには常識に屈せず、限界を広げ続けるエンジニアたちの情熱の物語ということになりそうです。
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