| 実のところ、ぼくフェラーリについてはミドシップよりもフロントエンジンのほうが好きだ |
さて、フェラーリGTC4ルッソTに試乗。
これはフロントにエンジンを積んで「4人乗り」、しかもワゴンボディという一風変わったフェラーリ。
「GTC4ルッソ」ファミリーについては、V12エンジンを積んで4輪を駆動する「GTC4ルッソ(3470万円)」と、今回試乗したV8ツインターボエンジンを搭載し後輪を駆動する「GTC4ルッソT(2970万円)」というラインアップを持っています。
フェラーリGTC4ルッソTはこんなクルマ
フェラーリGTC4 Lusso Tは上述の通り「4シーター」つまりGTに属するクルマ。※フェラーリのオフィシャルサイトでの解説はこちら
全長は4915ミリ、全幅1980ミリ、全高1375ミリとかなり大きなボディサイズを持ち、エンジンは3.9リッターV8ツインターボ(610馬力)。
重量は1865キロなので、けっこう重い部類に属します。
そして今回の試乗イベントに用意されたフェラーリGTC4 LUSSOはV8、V12含め3モデル。
一台はこのマット仕上げのライトブルー、インテリアはウッドとホワイトという超エレガントな一台。
これは大阪に配備された車両で、今回は展示のみ。
そしてこちららは「名古屋に配備され」、しかし今回の試乗会のために大阪にやってきたGTC4 LUSSO。
ネイビーのボディカラーにピンクゴールド(マット)のホイール、そしてインテリアはブラックになんとイエローゴールドを組み合わせた仕様をもっています(車両が試乗で出たり入ったりだったので内装の写真を撮れなかった)。
ぼくが乗ったのはブラックのボディに切削加工のホイール、そしてボディデザインにあわせてシルバーのアクセントが与えられた一台(東京に配備されたもので、同じく今回大阪に)。
このインテリアはヴィンテージ調のレザーで非常に高級感がある、と思います。
なお、いずれもフェラーリのパーソナリゼーションプログラム「テーラーメイド」にて仕立てられた特別なGTC 4LUSSOで、いずれ劣らぬ、しかしそれぞれ方向性の異なる魅力を持っているようですね。
ちなみにぼくはフェラーリに関して、「ミドシップよりも、フロントエンジンモデルのほうが好み」。
フェラーリは北米市場を意識してか、360モデナ以降高いルーフを持つようになり(そのためランボルギーニに比較すると、信じられないが6センチほど車高が高い)、ルーフが盛り上がっているように見え、フロントフードとフロントグラスの角度に「差」があります。
一方でランボルギーニの場合はこういった感じで、いわゆる「ワンモーション」、つまりフロントフードからルーフへと「一直線」につながるラインを持っています。
この差がけっこう大きいとぼくは考えていて、しかしフェラーリでも「フロントエンジン」だとボンネットが長くなるためにこの「段差」が気にならず、むしろこれがクラシカルで優雅な雰囲気を演出することになる、と考えているわけですね。
そしてとくにGTC4ルッソについては、「昔のフェラーリが持っていた」美しさを持っていて、ある意味では「現行ラインナップの中でも、1,2を争うほどフェラーリらしい」クルマだとも認識しています。
言い換えると、ぼくはランボルギーニに対してエクストリームなデザインを求め、フェラーリには美しさや優美さを求めている、ということですね。
フェラーリGTC4 LUSSO Tに乗ってみよう
そこで早速フェラーリGTC 4 LUSSO Tへの試乗ですが、試乗イベントでは複数のフェラーリが出たり入ったり。
他の人が乗り込んで走り去るGTC4 LUSSO Tのサウンドを聞いているとかなり大きく、「V8エンジン搭載のGTカーでもこれだけ音が大きいのか・・・」と驚かされることに。
そしてもうひとつ驚くのはドアを閉める時の(外から聞いた)音で、これはレクサスやメルセデス・ベンツもびっくりというほどの重厚なサウンドです。
おそらくは長大なドアのサイズも影響していそうですが、とんでもない質量の物体が、とんでもない精度をもって閉じているという印象ですね。
そして実際に乗り込んでドアを閉めるとやはり重厚な開閉音とともに静寂が室内に訪れ、このあたりはやはり「GTカーならでは」。
フェラーリのスポーツカーと言えど、ミドシップスポーツ群とは異なり、ガラス含めて防音や制振がかなり高いレベルにあることがわかります(そのために重量が重くなっているのだと思われる)。
エンジンのスタートは他のフェラーリ同様にブレーキペダルを踏んでステアリングホイール上にあるスターターを押すことで行い、エンジンがスタートするとシートベルトアンカーがBピラーからせり出してきてシートベルトの装着をサポートしてくれますが、今やフェラーリにもこういった新設装備が与えられる時代になったということですね(ぼくはこういった変化は大歓迎)。
その後シートやミラーを調整し、右パドルを引いて1速に入れいざスタート。
GTC4ルッソTはデュアルクラッチを採用するもののクリープ現象はなく、軽くアクセルを踏み込んでクルマを発進させる必要があります。
フェラーリGTCルッソTの性格はマイルドだ
走り出して気づくのは、振動やノイズがかなり抑えられている、ということ。
以前にV12エンジン搭載モデルの「GTC4ルッソ」に試乗した際にはエンジンやサウンドの主張が強く、「GTカーといえども、やはりフェラーリなんだな」と強く感じましたが、V8エンジンを搭載するGTC4ルッソTではそのあたりかなりマイルド。
アクセルに対する反応、ステアリングの切れ角に対する応答性、ブレーキのタッチなどドライブフィール全体にもその「マイルド」さが感じられ、フェラーリというイメージからは想像できないほど乗りやすいのもGTC4ルッソTの大きな特徴だと言えそうです。
ただしメルセデス・ベンツSクラスクーペやポルシェ・パナメーラに比較すると断然その反応は「スポーティ」。
足回りは程よく締め上げられ、硬さは感じないもののピッチやロールは少なく、かなり安定した姿勢を保つのが印象的ですね。
なお、フェラーリはスペシャルモデルを除くと足回りが硬いという印象はなく、ポルシェやランボルギーニも同じですが、よって「速いクルマは乗り心地がいい」という印象をぼくは持っています。
ハンドリングは紛れもないフェラーリだ
なお、ここで触れておかねばならないのはその優れたハンドリング。
高い快適性や静粛性を持つだけではほかメーカーのサルーンと変わりはなく、しかしGTC4ルッソTをして「今、俺フェラーリを運転しているッ!」と思わせるのはハンドリング。
センターがビシリと安定し、微塵のユルさも感じさせないステアリングラックや、指一本分の操作に対しても性格に反応する足回りはフェラーリならでは。
フロントタイヤがビッタリ路面に吸い付いているかのような印象を受け、後輪に駆動力をかけるとフロントがグイとインを向くというスポーツカー特有のフィーリングを持ち、このあたり「アンダー傾向」の強い一般的なサルーンとは一線を画すセッティングですね。
なお、GTC4ルッソTには後輪操舵=4WSが採用され、2990ミリという長いホイールベースにもかかわらず、レーンチェンジ、展開や直角に曲がるような場面でも機敏な動きを見せてくれます(とくに転回時だと、思ったより車線一本分小さく回るイメージ)。
目に入る風景も「フェラーリ以外のなにものでもない」
そしてもうひとつ、フェラーリらしいのがそのインテリア。
ステアリングホイールやメーター、エアコン吹出口などもほかモデルと共通した意匠を持ち、独特のデザインを持つダッシュボードは「どこからどう見てもフェラーリ」。
スポーティー、かつエキゾチック(そう、エキゾチックという表現が一番ふさわしい)で、妖艶な雰囲気すら漂うのは「まさにフェラーリ」。
マセラティはここに「重厚」という要素が付加されるように思いますが、フェラーリの場合は繊細さすら感じさせる芸術性があるようですね。
なお、スリーブに囲まれ「深い」位置にあるタコメーター(レブカウンター)、そしてレーシングカーのようなペダルとフットレストは完全にピュアスポーツそのものだと思います。
なお、フットレストの「レスト」は「休む」という意味があって、一般にフットレストというと「足置き」のように捉えられますが、実はレストには「支える」という意味があり、フェラーリの場合のフット「レスト」は足を置いて休ませるんじゃなく、非常に高い旋回Gに対して体が持ってゆかれないように「支える」つまり突っ張るというほう意味の「レスト」なんだろうな、とぼくは考えています。
フェラーリGTC4ルッソTの試乗を総括すると?
フェラーリGTC4ルッソTを運転してみて感じたのは「乗りやすく、乗り心地がよく、普通に乗れる」フェラーリだということ。
そしてフェラーリは今ではV8モデルについて「488」「ポルトフィーノ」「GTC4ルッソT」を持ちますが、いずれも異なる乗り味を持っており、ピュアスポーツにはピュアスポーツの、そしてGTカーにはGTカー独自の味付けを行っています。
同じドライブトレーンやコンポーネントを使用し、かつインターフェースも同じなのによくここまでセッティングで違いを出せるものだと感心しますが、それはモータースポーツで培った「どこをどうすれば、どう変わる」というノウハウが反映されたものなのでしょうね(自動車メーカーの中には、違いを出すことができないメーカーも多く、どのクルマに乗っても同じ乗り味である場合だってある)。
そしてドライブフィールをそのクルマにあわせて変化させているにもかかわらず、目に入る部分や手に触れる部分など「感覚」についてはどこをどうとってもフェラーリそのもの。
フェラーリはこういった「演出」に長けた、そして演出を意識するメーカーではないという認識でしたが、いつの間にか「乗った人がどう感じるか」を思ったままに再現できるだけの技術を身につけたようで、「速く走らなくても楽しいフェラーリ」を作れるようになった、という印象です。
つまりはおそろしく商品性を向上させてきたということですが、それは現時点での最新モデル「ポルトフィーノ」がもっとも顕著かもしれません。※F8トリブートはまだ製造が開始されていない
フェラーリは2019年第1四半期の業績を「過去最高」だと発表し、その主たる貢献はポルトフィーノの好調だとアナウンスしていますが、現在のフェラーリは、これまでのように「フェラーリだから」売れているわけではなく、ほかメーカーのクルマに比較して優れる部分が多くなり、「本当にいいクルマだから(フェラーリというブランドバリューを抜きにして)」売れているんだろうな、と改めて感じた次第です。
ほかの画像はFacebookのアルバム「フェラーリ試乗会」に保存しています。