
| フェラーリと顧客がともに築く「サーキット専用モデル」の進化 |
「XXプログラム」は世界で最もエクスクルーシブでラグジュアリーなカークラブである
2005年に始まったフェラーリXXプログラムは、単なるハイパーカー体験を超え、フェラーリと最も情熱的な顧客との間に特別な関係を築くための実験場であり、最初のモデル「FXX」から20年、このプログラムは“体験型ラグジュアリー”と“プライベートクラブ”という現代の潮流を先取りした存在へと進化しています。
ここでその「XXプログラム」のはじまり、そして発展、さらに「現在」を見てみましょう。
フェラーリ「XXプログラム」とは?
フェラーリのXXプログラムは、フェラーリが提供する、選ばれた顧客向けの特別なサーキット走行専用車両の開発プログラムであり、主には以下のような特徴を持っています。
- 究極のサーキット専用車:公道走行が不可能な、レースのレギュレーションにも縛られない究極のパフォーマンスを持つマシンが提供される
- 顧客が開発に貢献:オーナーは、サーキット走行を通じて得られたデータやフィードバックをフェラーリのエンジニアに提供し、将来の市販モデルやレーシングカーの開発に貢献する
- コルセ・クリエンティのサービス:XXプログラムの車両は、フェラーリのカスタマー部門「コルセ・クリエンティ」が管理。オーナーは、サーキットでの走行会に参加し、フェラーリの専門スタッフによるサポートを受けながらドライビングを楽しむことができる。車両はフェラーリが保管・メンテナンスを行うため、オーナーはヘルメットとレーシングスーツだけ持参すればよいという、最高レベルのホスピタリティが提供される。※このプログラムに参加するGoogle副社長によると、XXプログラム用のマシンは「自分で持って帰っても」いいそうだ
このプログラムは、フェラーリにとって、最先端の技術を導入した実験的なマシンを開発し、そのデータを収集する場であると同時に、トップレベルの顧客との絆を深めるための重要な取り組みとなっていますが、これまでにはFXX、599XX、FXX K、FXX K EvoといったマシンがXXプログラムから生まれています。
なお、最近では「SF90XXストラダーレ」のように、XXプログラムの経験を活かして開発された公道走行可能なモデルも登場しており、その意義は年々大きくなっていると考えていいのかもしれません(このほか、296スペチアーレなど、多くの市販車のXXプログラムからのフィードバックが反映されている)。
ドライバー育成と技術進化を両立する“走る開発現場”
この「XXプログラム」向けの超高性能マシンを操るのは、選ばれたフェラーリの顧客たち。
彼らはF1ドライバー並のドライビングレッスンを受ける顧客であるとともに、フェラーリの技術進化にも貢献する「フェラーリの開発ドライバー」でもあります。
2025年にはモンツァ、ル・キャステレ、マイアミ、富士、バルセロナといった世界の名サーキットを訪問し、今後はスパ・フランコルシャンやムジェロでのイベントも予定されているのだそう。
上述の通り、このXXプログラムは今年で20周年を迎えますが、フェラーリの開発責任者アントネッロ・コレッタ氏(フェラーリの耐久レースおよびコルセ・クリエンティ部門のトップ)は、「このプログラムの発案当初、同僚たちからは“完全にクレイジー”と思われていた」と振り返ります。
「”公道走行不可で、サーキットイベントでしか走れず、保管もフェラーリが管理するクルマを本気で売るのか? ”とね。
でも、私の上司は“悪くはないな”と言ってくれたので、この試みがスタートしたのです。」
Image:Ferrari
現在であれば、ポルシェ、マクラーレン、アストンマーティン、ランボルギーニ、ブガッティも「公道走行もできない、公式レースにも参加できない」サーキットウエポンを販売し、それらのオーナー向けサービスやイベントも展開しているものの、たしかに20年前であれば「いったい何を言ってるんだ」レベルの話であったのかもしれません(ぼくは20年前、このXXプログラム始動のニュースを聞いた時、「お金を持っている人はたくさんいるが、世界中のサーキットを回って走れる時間を捻出できる人がどれだけいるのか」と”時間”のほうを気にしたことを覚えている)。
ホスピタリティも「フェラーリ・クオリティ」
プログラムの運営は、フェデリカ・サントーロ氏率いるチームが担当し、宿泊やサーキット施設の確保を含め、すべて自社で完結することで、世界中どこでも同水準のホスピタリティを提供する、と説明されています。
とはいえ、顧客たちの関心はもちろん「ドライビングエクスペリエンス」が中心です。
車両整備、フィットネス、栄養指導、メンタルサポートまで完備され、20年前から参加しているベテランもいれば、親子での参加者も増加中(これに参加する親を持つ子どもが羨ましいな・・・)。
たとえばベルギーの実業家ステファン・セルタン氏は、599XXを娘マリー=サラさんと共有しており、彼によると「最初の走行は“バトル”だったね。でも、あのクルマを乗りこなせれば、どんなクルマでもいけるよ」。
XXプログラムが生んだ“家族と仲間”の絆
なお、このセルタン家はF1マシンF2007や499Pモディフィカータも所有するそうですが、娘のマリー=サラさんは「タイムが伸びないと泣くほど悔しい。でも皆が支えてくれる」と語ります。
初代FXXオーナーであるディーノ・タバッキ氏とその息子たち、エマヌエーレさんとエドアルドさんも家族で参加しているそうで、さらには競い合うことで成長し、エマヌエーレさんはフェラーリ・チャレンジでも活躍中なのだそう。
「FXXのスリックタイヤはクルマを地面に貼りつけるかのようで、まるで別世界の走りだった。最初はとにかく“がむしゃらに走れば”いいと思ってたけど、次第にデータ解析や走りの向上を意識するようになったんだ」
エドアルド・タバッキ
次のXXモデルはいつ登場するのか?
これらの例を見ると、今やXXプログラムは、フェラーリにとって重要なビジネスであり、実際のところ「車両やパーツ以外の売上」は「車両やパーツの⅙」にまで伸びており、その製勝率は車両を超えています。
よって気になるのは「次のFXXモデル」ですが、責任者であるアントネッロ・コレッタ氏によれば以下の通り。
「新たな車両が登場するのは確実。ただ、いつとは言えない。ただ、FXXがもう20年経ったなんて信じられない。顧客との特別な関係性を築く礎になったのは間違いないし、それが今のフェラーリの強みでもある」
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