
| フェラーリはこれまでに製造したクルマの詳細な記録を残している |
そのイメージとは裏腹に「フェラーリは(意外と)几帳面」であったようだ
フェラーリといえばスーパーカーとF1の象徴ですが、その“魂”とも言える存在がマラネロにひっそりと存在するといい、フェラーリいわく、それは25年前に正式に設立された「フェラーリ・アーカイブ」。
ここには、創業当初からの膨大な写真、書簡、設計図、テクニカルデータなど、“フェラーリのすべて”が保存されているそうで、そのすべては、創業者エンツォ・フェラーリの先見性によって記録され続けてきた、とのこと。
エンツォ・フェラーリの記録愛が生んだ“知の遺産”
これはひとえにエンツォ・フェラーリが「記録マニア」「情報収集マニア」だったからだとも考えられ(自社に関する新聞記事を丁寧にスクラップしていたり、自信宛ての手紙をしっかり確認し、必ず返信していたという)、この傾向は1920年代の幼少期から記録を残していたという事実からも容易に想像が可能です。
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こと車両に関しては、1947年に初のマラネロ製フェラーリ「125 S」が誕生した瞬間から写真や文書でたどることが可能だとされ、今ではデジタル化が進んでいるものの、原本はすべてマラネロ工場の一角にて厳重に保管されているのだそう。
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フェラーリにはこんなアーカイブが保存されている
フェラーリのアーカイブは以下のような多彩なカテゴリに分かれており、まさに企業の“知的財産そのもの”といった様相を呈しているかのようですね。
- Letters(書簡)
- Audio(音声)
- People & Events(人物・イベント)
- Communications(広報・広告)
- After Sales(アフターサービス)
- Production(生産)
- Innovation(革新)
- History(歴史)
- Design(デザイン)
- Engines(エンジン)
- R&D(研究開発)
セレブや伝説のレーサーとの貴重なやりとりも収蔵
このアーカイブがユニークなのは、単なる“企業資料”ではなく、フェラーリに関わった人々の人生の一部までも保存していること。
たとえば1987年、伝説の英国レーサー、サー・スターリング・モスからエンツォ宛にこんな手紙が届いています。※サー・スターリング・モスであっても低姿勢にて”お願い”しないとクルマを売ってもらえなかったというのは衝撃の事実である
「GTOの四輪駆動仕様が生産されると聞きました。もし可能であれば、ぜひ私に1台譲っていただけないでしょうか。私は“四輪駆動車でレースに勝った唯一の男”だと自負しています。」
エンツォはそれに対し、
「トレーラーで持ち帰ろうが、自走でイギリスまで乗って帰ろうが、それはあなた次第だ」
とそっけなく返答。まさにエンツォらしい、ビジネスマンとしての一面が見えるやり取りです。
ほかにも、映画監督リリアーナ・カヴァーニからの「エンツォの映画を作りたい」という情熱的な手紙、ハリウッドスターや貴族たちの感謝状など、“人間フェラーリ”を感じさせる手紙が多数保管されている、とのこと。
約6万枚の写真と1,000本の映像が語るレースと情熱の歴史
フェラーリといえばレース。その記録ももちろん徹底されており、一例としては以下の通り。
- 戦前のプライベーターたちの“白黒写真”
- 創設当時の工場周辺での公道テストの様子
- フィオラノ・サーキット完成以前の開発風景
- 1993年に始まったチャレンジ・クライアント(Ferrari Challenge)シリーズの全記録
- F1での伝説的瞬間のオンボード映像と技術分析
モデナの「エンツォ・フェラーリ博物館」で一部公開中
このアーカイブの一部(約2,000点)は、現在モデナのエンツォ・フェラーリ博物館にて公開中で、実際にぼくが訪問した際には「1日かかっても見ることができないほどの」記録が展示されており、これらは、フェラーリというブランドが単なる“高級車メーカー”ではなく、「哲学と情熱を受け継ぐ企業」であることの証拠ともいえそうですね。
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結語:「未来を作るのは、過去の記録である」
デジタル時代においても、手書きの手紙、紙の設計図、昔の新聞記事に込められた情報と情熱は色あせることがなく、エンツォ・フェラーリの言葉通り、「クルマには魂がある」とすれば、その魂を守るのが、このアーカイブの役割なのかもしれません。
そしてフェラーリはこのアーカイブの中からチョコチョコと情報を公開しており、今後も「知られざるフェラーリの逸話」が世に出てくるのでは、と期待しています。
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参照:Ferrari