ふと「日産はもしかしたら勝ち組」なんじゃないか、と思い至ることに。
ここ最近の日産は「販売が不健全」であるということなどネガティブな要素が報道されるものの、EVにおいてリーディングカンパニーであるのは間違いありません。
欧州においてはルノー「ゾエ」が最量販EVとなり、ルノーは日産と同じ資本。
PHEVのシェアについて、世界的に見ると「アウトランダー」がかなり大きいという記事を見たことがありますが、今や三菱もルノー=日産傘下となり、日産は今回の吸収でさらに強力な「武器」を手に入れた、ということに。
今まで日産が(OEMでしか)持ち得なかった軽自動車を国内市場向けに投入できますし、EVにおいては三菱を手に入れたことでインフラも活用でき、一気にシェアも拡大できる、と思われます。
さらには「ランエボ」「パジェロ」という「ブランド車」も入手でき、非常に強力なラインアップを構築可能。
なおカルロス・ゴーン氏のビジネス手腕は大したもので、徹底したコストカットで知られますが、人材の管理やサプライヤーに対する値切りの他、「自社ラインアップの最大効率化」を行っていることも特徴です。
もちろん「損得勘定」で動いていますが、単純に「見える利益」だけで動かないのがゴーン氏の素晴らしいところ。
多くの日本の自動車メーカーが「スポーツカーは割に合わない」として販売をやめるにあたり、ゴーン氏はGT-R、フェアレディZについて「消費者が作ってくれという車を持っているのに、それを作らないでどうする」と鶴の一声で復活が決定。
表面だけを見ると「クルマ好きが社長になってよかった」という感じではありますが、「GT-RやフェアレディZは日産におけるスポーツカーのアイコンであり、それを最大限に活用する」というビジネス的目論見があり(ノスタルジーによる判断ではない)、「それらさえ作っておけば他のスポーツカーは作らなくてもいい」という”選択と集中”という意思決定が背景にありそうです。
何でもかんでもコストを削るのではなく、「かけるところにはコストをかける」、しかしその他は思いっきり削る、ということですね。
実際のところ日産は大きく車種を削ることになっているものの、しかし各セグメントにおいては「リーダー」もしくはそれに近い車種をしっかりと残しており、ラインアップとしては非常に効率が良いようにも思います(要はポイントを抑えている。マーチ、エクストレイル、セレナなど)。
日本においては「日産は後退しているブランド」のように思えますが、それは日産にとって日本市場の規模が「1/7しか」なく、日本でしか売れないような車は開発しない、そのかわり主戦場であるアメリカにおいては最大限の投資を行う、という姿勢なのかもしれません。
そして、より少ない車種で最大限の効果をあげる、ということについてはプロモーションの集中、価格戦略によってそれを達成しているようで、広告宣伝費が同じだとすると、車種を絞ったほうが「一車種にかけるコスト」が増大することにも。
技術に関してもそれは同じで、集約したほうがプロモーションは用意で「伝わりやすい」ということになり、それはマツダの「スカイアクティブ」、スバルの「シンメトリー4WD」や「アイサイト」でも同じですね。
参考までにトヨタは「ミニバン」で11車種、日産は「6車種(e-NV200を入れると7車種)」をラインアップ。
自販連のページを見ると、ミニバンにおける6月の販売ナンバーワンは「日産セレナ(11,179台)」。
トヨタは(ベスト20までで)シエンタ(9,178台)、ヴォクシー(6,412台)、ヴェルファイア(4,938台)、ノア(3,918台)。
日産は1車種で11,179台、トヨタは4車種で24,446台を販売していることになり、これを「1車種あたり」に換算すると日産は11,179台そのまま、トヨタは1車種あたり6,111台という計算。
「効率」という点からするとトヨタは日産の半分くらいということにもなり、日産は「人や仕入れコストも減らすが」同時に車種も減らし、しかし各カテゴリでは「いかなる手段を用いても」トップを狙うということになりますね(ゴーン氏の考える損益分岐点は他メーカーよりもかなり高い)。
この「いかなる手段」については「価格」が含まれ、アメリカにおいて「最も安く買える車」は現在韓国車ではなく日産車、ということもこれを裏付けているのかもしれません(フリート販売も同じ)。
アメリカで販売される「もっとも安い車」ランキング。意外や韓国車は少なく日本車が上位に
ちなみに日産とトヨタとのこういった「差」は「従業員を切るか切らないか」にある、とぼくは考えています。
日産の場合は「効率の悪い製品は切る」という判断のもと、売れない車種はバッサリ切り捨てることに。
そのぶん「売れる」モデルにマンパワーや資本が集中することになりますが、それでも「余る」仕事や人が出てくることに(台数が減るのだからそのぶん総合的な仕事も減る)。
その減った仕事ぶんだけ人も「削減」しないと意味はないということになり、ここで「首切りゴーン」の面目躍如ということになりますね。
要は「人も製品も」必要なものだけを残し、不要なものは思い切って切り捨てる、ということです。
そこには「ほうっておいても月間3000台売れるからこのモデルは残しておこう」という考え方はないと思われ、「月間3000台しか売れないモデルは切り捨てて、今7000台売れているモデルを10000台にしよう」というのが日産の考え方なのかもしれません(これをトヨタに応用するとノア/ヴォクシー/エスクァイアも1車種に統合。エスティマもいらん!ということに)。
一方トヨタですが、これは経営理念的に「人を切らない」というものがあるので、その考え方が製品にも生きている、と言えそうです。
加えて上述の「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」も販社に配慮すると統合は難しく、これも「できない」のが現状。
雇った人を切れないのであれば何か仕事を与えるしかなく、その場合「車種を削減すると会社としての仕事の総量が減る」ので車種削減も安易にできない、という構造なのかもしれません(月3000台の車でも残しておくほうが良い。それを無くすと売上は減るのにコストは変わらないので残る利益が減る)。
そう考えると「製品ラインアップのスリム化」は「コスト(人員含む)削減」とセットであり、日産はそれができるがトヨタはそれができない、ということになりますね。
トヨタは「人を切らない」のが信条。ただし過去に「一度だけ」リストラを行った様子が記事に
これは理論上の遊びで「日本という国を占領するには、離れ小島一つを占拠するだけで良い」というものに似ています。
日本は「多数のために少数を犠牲」にはできないので、島を見捨てることができない、ということですね(トヨタ)。
逆に欧米だと「多数のため」という大義名分のために少数をバッサリ切り捨てることがあり、そのため「テロリストとは交渉をしない」というスタンスを持つ国も(日産のパターン)。
株主としては日産のほうが「良い」のかもしれませんが従業員としてはトヨタのほうが当然「良く」、これは見方によって判断が変わるのでなんとも言えない部分ではありますね(自分が当事者であるかどうかでも判断は真逆になる可能性も)。
なお、ハイブリッドにおいてもトヨタがそこに特化しているためか日産は積極的にハイブリッドの展開を行う様子はなく、しかしかなり早い段階からEVに着手。
国内ではパっとしない売れ行きですが世界的に見ると相当に(日産のEVは)売れているようで、もしかするとEVにおいて日産=ルノー=三菱は覇権を握ったと言っても良いかもしれません。
BMW iはおそらくリブランディングが必要で「EV専門」ではなくなるでしょうし、メルセデス・ベンツEQも本格展開するには2020-2025年まで待つ必要があり、フォルクスワーゲン「I.D.」も同じ状況。
こういった例を見ても、ゴーン氏は他の自動車メーカーよりも「先」を見ていて、何をすべきかが明確に理解できており、余計なことには手を出さずに「押さえるポイントだけをを押さえ、あとは放棄して」利益を伸ばしていると言えます。
今年日産は「世界一の販売台数を狙う」としていますが、もはやそれは手の届くところまで来ており、ゴーン氏の目指した「未来」が今そこにある、と言えそうですね。
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