| フェラーリはもはや自動車メーカーとしてではなく、ラグジュアリーブランドとしての経営にシフトしている |
そして未来の若い富裕層が選ぶのは「ピュアエレクトリックカー」だと考えている
さて、スーパーカーブランドの中ではいちはやくハイブリッドに取り組み、そしてピュアエレクトリックハイパーカーを発売すると宣言しているフェラーリ。
マクラーレン、ランボルギーニ、ポルシェはピュアエレクトリックハイパーカーについて「機が熟していない」と捉えているようですが、フェラーリはライバルたちを後目にピュアエレクトリックハイパーカーの開発を進めており、今回その納車が「2026年に開始される」ことが明らかに。
これはフェラーリCEO、ベネデット・ビーニャ氏がカーメディアに対して語ったもので、さらに同氏は(カーメディアの)フェラーリのEVは既存他メーカーのEVとどう違うのかという問いに対し、「ユニークなドライビングエクスペリエンスを提供できるエモーショナルな車になる。テスラのような機能的なクルマは、単にA地点からB地点に移動するためのものであり、そうしたクルマのオーナーはブランドには関心がなく、ある地点から別の地点への移動にしか興味がない」ともコメントしています。
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フェラーリのEVは「エキサイティング」に
続けてベネデット・ビーニャ氏は「フェラーリのEVはガソリンエンジン車同様にエキサイティングでエモーショナルなものとなる。本来、ドライビングのスリルは、縦加速、横加速、音、ギアチェンジ、ブレーキなど、さまざまな要素の組み合わせで決まるが、これはパワートレインがエレクトリックになろうとも変わることはない」と語っており、つまりはEVにおいてもガソリン車同様の楽しみを提供できると考えているようですね。
たしかにフェラーリは「ファン・トゥ・ドライブ」を決定する要素として「ハンドル操作に対する反応、ハンドル操作に対するリアアクスルの反応、ひいては扱いやすさを決定する横加速度」「アクセルペダルに対する反応の速さと滑らかさを示す縦加速度」「変速時間やギアチェンジのフィーリング」「ブレーキペダルの踏み込み量と反応」「車室内の音の大きさや質感、回転数の上昇に伴うエンジン音の変化」の5つを挙げ、それぞれを数値にて評価し、もっとも楽しいと感じるクルマを作ることに自身を見せており、この方程式をEVとにも当てはめるのだと考えて良さそう。
ただ、EVにおいて(スポーツカーの場合)致命的となり得るのはその”サウンド”で、つまりはガソリンエンジンのような”気分を盛り上げてくれる音”がそもそもエレクトリックモーターからは聞こえてこず、しかしそれを補おうと疑似サウンドを付与したのでは本末転倒でもあり、つまるところ「ガソリン車のフェイク」でしかなく、そのエレクトリックスポーツカーの存在意義すらも希薄にしてしまいます(ぼくは、フェイクサウンドはそのクルマの本質的価値を下げると考えている)。
もちろんフェラーリはそういった問題を認識しており、この解決策が「エレクトリックパワートレインから生じるサウンドを強調する」という特許なのかもしれません。
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さらにベネデット・ビーニャCEOは「クルマの電動化は、技術的には比較的簡単だ。しかし本当に重要なのは、ドライバーに提供したいこの技術を使ったとき、いかに最高の感情を引き出すかである」とも語り、いかにフェラーリのクルマにとってエモーショナルでエキサイティングであることが重要なのかに改めて触れ、「スーパーカーの世界では、(電動化してもエモーショナルであることが)多くの開発担当者たちが乗り越えようとしている課題であり、大きなハードルのひとつである」とも。
フェラーリはなぜEVスポーツを?
上述の通り、多くのスポーツカーメーカーは「ピュアエレクトリックスポーツは時期尚早」と考えているものの、今回のインタビューからもわかるとおり、フェラーリに関しては「非常に高い優先度」にて開発が進められています。
その理由はいくつかが考えられ、ひとつは「ガソリンエンジンの未来が限定されていること」。
将来的にガソリンエンジン搭載車が販売できなくなるのはもちろんですが、それ以前にユーロ7が導入されることになり、これによってガソリン車はさらに大きく重い触媒を積まねばならず、そしてサウンドレベルについても厳しく制限されます。
これらによって重量はもちろん、車体のバランス、サウンドといった「ファン・トゥ・ドライブ」を決定づける要素がスポイルされることは間違いなく、フェラーリとしてはそういった「想定される将来」に対処するためにガソリン車以外の選択肢を早急に用意する必要があると考えているのかもしれません。
しかし面白いのは、ベネデット・ビーニャ氏が「ピュアエレクトリックカーのみがフェラーリの未来」だと考えているわけではないということで、実現可能な限りにおいて内燃機関、ハイブリッド、そしてEVといった選択肢を用意し、「(ピュアエレクトリックのみに絞ることで)顧客に選択肢を押し付ける」ことはしない、とも。
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そして「幅広い選択肢を用意」することについても興味深い回答があり、同氏は「フェラーリにとって、高級品市場全体を見渡しても、フェラーリに影響を与えるような脅威は他にないと考えている。しかし、新しい世代が高級品にどう反応するかという、高級品業界全体にとっての脅威はある」と述べ、つまりフェラーリにとってのライバルは存在しないが、日々誕生する若い富裕層がフェラーリをどう捉えるかはわからない、と語っているわけですね。
たとえば、旧来のフェラーリファンは「やはりガソリンエンジンを積んでいないと気分が盛り上がらない」と考えるかもしれませんが、電動化が当たり前になった時代に誕生した富裕層は「ガソリンエンジンを積んだクルマなんて乗ってられない」と思う可能性も考えられ、これについてはランボルギーニも同様のコメントを発したことがあり、「ガソリンエンジン車が、法規制によって販売の場を奪われるのではなく、消費者が求めない時代遅れの存在になってしまう」可能性を示唆しており、すでに欧州ではその兆候が見られるのかもしれません。
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現在、グッチなどのラグジュアリーブランドのうちいくつかは「毛皮を使用しない」など環境や生態系に配慮した動きを見せていて、これももちろん「消費者に受け入れられるため」であり、そしてフェラーリは今後ラグジュアリーブランドとしての方向性を模索するにあたり、規制への対応といった理由からではなく、商業的な(あるいはブランディング上の)理由によって「ピュアエレクトリックスポーツ」の導入を行うのだと考えることも可能です。
そしてこの傾向については、ベネデット・ビーニャCEO自身が自動車業界出身者ではなくエレクトロニクス業界出身者であること、そしてフェラーリは新CEO候補としてベネデット・ビーニャ氏以外にラグジュアリーブランドの重責者を候補としていたこと、製品デザインにおいてジョニー・アイブ、マーク・ニューソンとも協力していること、さらに現在の取締役会メンバーにはサンローランやシャネルの役員が顔を揃えていること、冒頭のコメントにある「テスラとブランド」というベネデット・ビーニャCEOの発言からも理解が可能です。
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参照:Automotive News