| ただしポルシェのみの取り組みでは限界があり、賛同する企業、そして国家単位の支援が必要である |
ポルシェの合成燃料の工場の名は「ハルオニ=風の国」
さて、現在ポルシェはEフューエル(合成燃料)の生産を開始したところであり、これを普及させようと奮闘しているところですが、これは「製造段階でCO2を吸着(吸収)させて精製するため、その後車両に注入して燃焼させてCO2が発生したとしても、結果的にプラスマイナスとなり、カーボンフリーを実現できる」という燃料です。
そしてEUは少し前まで「燃焼式エンジンを積むクルマの新車販売を2035年に全面的に禁止する」としていたものの、その姿勢を軟化させて「合成燃料のみを使用する内燃機関搭載車であれば、2035年以降も新車販売を継続しても構わない」という方向へとシフトしたのも記憶に新しいのではないかと思います。
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ポルシェは合成燃料で何をしたいのか?
現在この合成燃料の開発に取り組んでいる自動車メーカーはいくつかあり、ポルシェ、そしてポルシェと同じくフォルクスワーゲングループ傘下にあるランボルギーニもまた同様。
そのほかトヨタやホンダ、そして報じられていない範囲でも多くの企業や団体がEUフューエルの開発を行っているものと考えられますが、ポルシェの場合は「2026年から導入される、F1の新パワーユニット規定」の中に”合成燃料の使用”が含まれることから、とくに合成燃料の開発に熱心であると言われます(ただ、ポルシェの2026年からのF1参戦は叶わぬ夢となってしまったけれど)。
そこで気になるのが、なぜポルシェはそこまでして合成燃料の開発にこだわるのか。
これには巨費を投じる必要があり、そして国や地域によっては認可されるかどうかもわからず、かつ輸送方法や販売網についてもまったく確立されていないため、ビジネスとしては(正直なところ)採算を取ることは難しいと考えられ、よってシェルなどオイル(石油)会社は合成燃料に対しては消極的だと報じられており、しかしいち自動車メーカーであるポルシェがなぜそこまで頑張るのかはちょっとナゾ。
しかし今回、ポルシェが公式に合成燃料に関するコンテンツを公開しており、その主な目的は、「2035年以降も内燃機関を存続させるため」でも「F1の公式燃料サプライヤーになるため」でもなく、「現在世界に存在する、13億台の内燃機関搭載車の排ガスをクリーンにし、(自動車を)環境に優しい存在にすること」。
ちなみにポルシェのクルマは非常に寿命が長く、生産したクルマの70%くらいがまだ路上を走っているとされますが、そういったポルシェだからこそ、「すでに販売したクルマのほうを何とかせねば」と考えたのかもしれませんね。
ポルシェは南米チリに合成燃料の生産拠点を開設
なお、既報の通りポルシェは南米チリ(プンタアレナス)にEフューエルの生産設備を設立しており、この理由は「その場所が、世界で最も風力発電によって電力を得られるから」。
もちろんこの電力はEUフューエルを生産するための設備を稼働させるために使用するものですが、たとえばドイツでは風力発電機がフル稼働するのは66日しかなく(ドイツの年間電力使用料の25.9%に相当)、しかしチリでは270日もの稼働日数があるといい、しかも「同じ方向から風が吹く」ために風力発電としては非常に理想的な土地だと述べています(同じ方向から強い風が吹くため、当地では木が同じ方向に傾いており、フラッグツリー=斜めの木という呼称まであるそうだ)。
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そしてポルシェはすでにこの地に工場を建設し、合成燃料の生産を開始しているというのが現状ですが、この工場の名は「ハルオニ」、つまり現地の言葉で「風の国」と名付けられているのだそう。
現在のところ、このハルオニでは、「軌道に乗れば」年間13万リットルのEフューエルを生産できるといいますが、もちろんこの量では既存のガソリン車を1日たりとも稼働させることができないとされ、よってポルシェはいくつかの場所にEフューエル生産のための工場を建設するという報道も。
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Eフューエルはどうやって作られるのか?
Eフューエルは、簡単に言えば「大気からCO2を取り出し、CO2と水だけで作られたもの」で、この大気からCO2を取り出す作業にとんでもないコストがかかるといい、これが「Eフューエルがガソリンの数十倍~100倍くらいの製造コストになる」という最大の理由です。
ポルシェによれば、その工程は以下の通りに解説されており、これを見ると「たしかにお金がかかりそう」な感じでもありますね。
2個の水素原子(H)と1個の酸素原子(O)から形成される水(H₂O)は非常に安定した化学物質です。
Eフューエルを製造するための最初のステップとして、この水からまず電気分解で水素を取り出す、つまり水電解が行われます。このステップには多くのエネルギーが必要になり、つまり、 Eフューエルの生産を考えるにあたり、クリーンエネルギーを常に利用できるという立地条件は極めて重要なものになるのです。
エネルギー源の乏しい地域では、発電した電気を直接利用しなければならない一方、プンタアレナスの風はエネルギーを無限に供給してくれ、つまり、この地なら水素を持続的かつ安価に生産することができることが可能になります。
Eフューエルの製造には、水素のほかにもう一つの要素が必要になり、これは二酸化炭素(CO₂)です。これは大気中で濃度が高くなると温室効果ガスとなり、地球温暖化を促進してしまうことでも知られます。このCO₂は、Direct Air Capture(空気からのCO₂分離回収)という技術で回収することが可能です。
この仕組みについて触れてみると、まず、空気がクルマの排気ガス触媒と同じようにセラミックフィルターに流されます。ただし、流路には貴金属ではなく、CO₂分子を結合させる化学物質が利用されことが相違です。
CO₂が結合できる場所が一杯になると、フィルターが閉じられ、真空化・加熱が行われます。加熱によりCO₂が分離され、貯留タンクに吸い上げられていく。具体的には、1リットルの Eフューエル生産のためには、3リットルの脱塩海水からの水素、6,000立方メートルの空気から回収されたCO₂が必要になります。
水素とCO₂からメタノールを作るためには合成工場が必要です。メタノールは貯留でき、持ち運びが可能で、経年劣化に強い物質です。
現在、船舶エンジンはメタノールで作動できるよう改造が進められていますが、乗用車に使用するためには、メタノールをさらに加工しなければなりません。
メタノールから代替燃料という最終合成の際には、さらなる炭素結合が必要になります。
最終的にできるものはガソリンやディーゼルを代替する、液体のEフューエルや従来の化石燃料に混合できるものとなり、これらが使われる量が増えれば増えるだけ、大気汚染をどんどん減らしていくことができるのです。
ただ、この生成工程を見てもわかるとおり、Eフューエルの実用化には相当な投資が必要であり、かつ生産量が限定されることから(大量生産が難しい)「脱酸素化の解決にはなりえない」とする声も多く、生成したEフューエルの輸送、販売の際の課税など問題が山積しており、こういった問題を解決するには民間企業だけではとうてい不可能だと思われ、国家規模、もしくは世界規模のプロジェクトとして稼働させねば「未来は見えてこない」のかもしれません。
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