| 最大の原因はフォードに買収された後、コモディティ化してしまったからだと考える |
フォードは「ジャガーのブランド価値を単に利用し、ジャガーらしくないクルマ」を作ってしまった
さて、名門でありながらもその輝きを失ってしまったと言われる現代のジャガー。
今回、投資家に向けて行った説明が一般にも報じられており、その内容に注目が集まっています。
そして注目を集めた理由というのは”大胆なブランドシフト”を打ち出したからで、その新しい方向性とは「排他性を持つデザインをもって、主にアメリカの富裕層をターゲットにする」。
なぜ現代のジャガーはここまで存在感を失ったのか?
ジャガーは1922年に設立された老舗自動車メーカーであり(つまり昨年は100周年だった)、設立者のひとりであるウィリアム・ライオンズは「いかに高価であっても、美しい製品であれば必ず消費者は買い求める」という信念を持っていたと言われます。
実際のところ、その美しいスタイリングと高性能を融合させたことで大きな人気を博しますが、1967年のブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)との合併によって(BMCに引っ張られる形で)品質が大きく下がってしまい、さらにはオイルショックの影響もあって販売が大きく減ってしまうことに。
その後もなんとか立て直しを図りつつ、XJSなどヒット商品を飛ばすものの、1989年にはフォードに買収されることになり、ここで大きな転機を迎えます。
なお、アメリカの自動車メーカーは(欧州では専業メーカーが多いのに対し)多角的なブランド展開、そしてフルラインアップ化を行う傾向が強く、欧州の自動車メーカーとは明確な差異があるというのがぼくの認識(現在は自動車メーカーもグローバル化し、そういった地域特性は見られなくなっているが)。
そして当時のアメリカの自動車メーカーが行っていたのが「歴史のある欧州の自動車メーカーを買収し、そのブランドバリューをもって”ブランドビジネス”を行う」こと。
つまり買収したブランドの”価値”のみを利用することを目的とし、フォードやGM、クライスラーの既存モデルとの共通性を高めてコストを下げ、しかし高いブランド価値を背景とした高額なプライス設定によって利益を最大化するわけですが、このあたりは「技術の移転や獲得を目的に買収を行っていた当時の欧州の自動車メーカー」とも少し性質が異なるところですね(もちろん、すべての欧州の自動車メーカーがそうではない)。
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かくしてフォード傘下となったジャガー、ボルボ、アストンマーティンはフォードとのパーツ共通化が進められ(当時のアストンマーティンのキーはボルボと共通であり、表面のシートを剥がすとボルボのエンブレムが露出した)、ジャガーに関しては極端なコモディティ化が進みます。
その後2008年には現在の親会社であるインドのタタへと売却され、しかしコモディティ化してしまったイメージを払拭することは難しく、設立当初の「いかに高価であっても、美しい製品であれば必ず消費者は買い求める」という信念を失ってしまったフォード時代から凋落が始まっていたのかもしれません。
現在のジャガーは状況を正しく認識
そして現在のジャガーはランドローバーともども大きく変革する計画を持っており、そこで上述の「排他的デザインをもって富裕層をターゲットする」という方針が打ち出されることになりますが、これは創業当初の初心に立ち返ったコンセプトだと言えるかもしれません。
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ジャガー・ランドローバーの新CEOであるエイドリアン・マーデル氏、そしてチーフデザイナーのジェリー・マクガバン氏は投資家向けの説明会にて「名門でありながら苦境に立たされているジャガーが直面する問題、そして大きな挑戦」について語り合ったといい、「問題」についてはフォード、さらにはタタのもとでの過去20年間、ジャガーが台数を追い求める戦略をとってきたため(しかし結果的にはブランド価値を損ない、他社との差別化ができなくなって販売台数を失ってしまった)、富裕層との接点を失ってきたことを挙げています。
そしてエイドリアン・マーデルCEOが語ったのが「アメリカだけでも2000万人の億万長者がいる。だから、より少ない台数でより高い価格のポジショニングを狙うことは、今日のジャガーにとって絶対に正しいポジションなのです。ブランド・エクイティを構築するために多くのやるべき仕事が待っています」と述べ、ジェリー・マクガバン氏は「富裕層に衝撃を与え、再び関心を持たせるために考案された大胆不敵なデザインが必要になるだろう」ともコメント。
現時点ではジャガーがどう変わるのかはわかりませんが(ぼくとしては過去の丸目4灯デザインを復活させてほしい)、今年後半には(すでに開発を進めていた)3種類の新型電気自動車のうち最初の1台を発表する予定だといい、これは最大航続距離700kmという実用性を持つドアGTとなるもよう。
さらにはこれに2台のEVが続き、いずれも同じ新しいJEA(ジャガー・エレクトリック・アーキテクチャー)プラットフォームをベースとして製造され、少なくともそのうちの1台はベントレーの顧客を獲得するだけの高級さを持つ、と見られています。
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参照:Auto News Europe