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| 一国の大統領なのに一企業の戦略を避難するのは「さすがトランプ流」である |
ジャガーが今後「どう転ぶのか」全くわからない
2024年に物議を醸したジャガーのリブランディング広告キャンペーンが再び注目を集めている、というニュース。
というのも、アメリカ大統領、ドナルド・トランプ氏がこの広告を「愚かでワケのわからないウォーク(WOKE)広告」と激しく非難したためです。
この発言は、ジャガー・ランドローバー(JLR)の新CEO就任が発表されたタイミングでのもので、トランプ氏は「前CEOはこの広告の失敗で不名誉辞任に追い込まれた」とも主張し、(新しい)ジャガーに対して強い不快感を示しているようですね。
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ドナルド・トランプ氏、「誰がこんな広告を見てジャガーを買うんだ?」
まず、ドナルド・トランプ氏は、自身のSNSプラットフォーム「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」にてこう述べています。
「ジャガーは愚かで本当にワケのわからない“ウォーク”広告を出した。完全な大失敗だ!CEOは不名誉辞任し、会社は完全に混乱状態。あの広告を見た後に、誰がジャガーを買いたくなるというんだ?」
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この発言は、アメリカン・イーグルのジーンズ広告(女優シドニー・スウィーニー出演)を称賛した直後に発せられ、対比としてジャガーの広告を批判する文脈で登場していますが、アメリカン・イーグルの広告そのものも大きな批判と注目を集めています。
その理由としては、まずキャッチコピー「Sydney Sweeney Has Great Jeans」が、「genes(遺伝子)がすごい」にかけた表現であることから、遺伝的特性、特に「ブロンド」「青い瞳」といった白人的な美しさを賞賛するニュアンスがあると受け取られたためで、さらには性的な演出が過剰になされていると捉えられたため。
これはいわゆる「多様性やジェンダー平等」に反するということで批判を浴びているわけですが、ドナルド・トランプ大統領は「多様性、公平性、包摂性(Diversity, Equity, and Inclusion、略称DEI)の推進に反対の立場」を取っており、就任早々この思想のもと、いくつかの大統領令を発しています。※「DEIプログラムの撤廃」「実力主義の回復」「性別の定義」
ただ、興味深いのは「DEIを推進していた企業」の多くはDEI推進にメリットを感じず、DEIを意識した広告展開を行ってきた企業の多くが販売を落としていると報じられていること(ジェンダーレスな広告を打つと、それはそれで大きな批判が起きる)、そしてトランプ大統領の「DEI推進反対」には安堵を感じる企業や人々も少なくはないということ。※DEIそのものではなく、DEIウォッシングに反発している可能性もある
そして問題となったジャガーのキャンペーンは、多様性や文化的包摂をテーマにしたことがトランプ大統領の反感を買ったのだとも考えられ、さらにこの広告には一切車両が登場せず、「何を伝えたいのかわからない」と多くの批判を集めていたのもまた事実(イーロン・マスク氏も「ジャガーは何を売りたいんだ?」とコメントしたことがある)。
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新CEOは親会社Tataの財務責任者PBバラジ氏、巻き返しなるか?
そしてドナルド・トランプ氏が発言したとおり、JLRは新CEOとしてPBバラジ氏を任命することを発表しています。
バラジ氏は2017年からJLRの親会社であるインドのタタ(Tata)グループのCFO(最高財務責任者)を務めており、自動車および消費財業界で32年の経験を持つ人物。
機械工学の学位も有しており、財務畑だけでなくエンジニアリング的視点にも通じていると言われているようですね。
「この素晴らしい企業を率いることができるのは私にとって光栄です。私はこの8年間でジャガーを知り、愛するようになりました。このブランドをさらに高みに導くため、チームと共に努力してまいります。」
ジャガー新CEO PBバラジ
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ジャガー前CEOは「リブランディングは“ウォーク”ではない」と弁明
今回辞任した前CEOアドリアン・マーデル氏は、JLRに35年間在籍し、そのうち3年間はCEOとして舵取りを務めていましたが、パンデミック下でも同社の利益を伸ばすなど一定の成果を挙げていたものの、今回ノ騒動の一端となったジャガーの電動化・高級ブランド化戦略を推進した張本人でもあります。
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マーデル氏は以前のインタビューで、「我々は“ウォーク”になろうとしているわけではない」「もしこの方針で一部の顧客を失っても、それはやむを得ない」と発言していましたが、このタイミングでの辞任はやはり「引責」と取られても仕方がないのかもしれませんね。
リブランディングは失敗か?広告は批判の的に、しかし注目度は抜群
トランプ氏の発言を抜きにしても、ジャガーのリブランディングキャンペーンは多くのメディアやSNSで話題になり、電動化を象徴するショーモデルのプロモーションとしては一定の成功を収めた面もあります。
とはいえ、ブランド再構築の目的で打ち出したキャンペーンが「クルマすら登場しない広告」であったことは、伝統ある自動車ファン層にとっては大きな不信を生んだことは間違いありません。
そして、多くの人に「広告が届いた」反面、ドナルド・トランプ大統領のいうように「この広告を見た後で、誰が新しいジャガーを買いたくなるのか」という意見も”もっとも”で、「バズることと売れることは同義ではない」ことをぼくらが再認識するひとつの事例となるのかも。
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まとめ:ジャガーの「再出発」は新CEOの手腕にかかる
今回の件は、広告ひとつでブランド全体が揺らぎかねないという、現代における自動車ブランド戦略の難しさを象徴しています。
新CEOバラジ氏の下、ジャガーは電動化と高級化路線を貫けるのか、それとも軌道修正するのか、今後の一手が注目されるところでもありますね(ぼくだったら軌道修正してネオレトロ路線に舵を切り、丸目4灯を復活させる)。
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