| 現在は数年前とは事情が異なり、中国車という想定外の脅威が登場しており、中国車にすべてを奪われる可能性も |
一見無駄のように思えるが、リスクヘッジをしておかねば取り返しのつかない事態に
さて、現在の自動車業界においてカーボンニュートラルを達成する手段として「BEV(電気自動車)オンリー」を掲げるのがメルセデス・ベンツ、そしてフォルクスワーゲングループ内の(ポルシェ、ランボルギーニ、ブガッティを除く)各ブランド。
その一方で電気自動車以外の手段も検討している、もしくは検討すべきとしているのがトヨタを筆頭にBMWそしてステランティスであり、業界内でもその対応が大きく分けれている状況です。
イネオスが「電気自動車のみの戦略は危険」だと断じる
そして今回興味深い出来事が起こっており、というのもオフローダー「グレナディア」を製造するイネオス・オートモーティブのCEO、リン・カルダー氏が「EVだけのアプローチはうまくいかない」という発言を公然と行ったため。
イネオスは現在、グレナディアとグレナディア・クォーターマスター・ピックアップのディーゼルエンジン版とガソリンエンジン版を発売していますが、今回自動車製造・販売業者協会(SMMT)の電動化会議にて公演を行い、その場でリン・カルダー氏が「EVのみの戦略では破綻をきたすでしょう。電気、ハイブリッド、水素のミックスがベストなバランスである」とコメントしています。
私たちはいつもEVについて話しています。それはかなり危険だと思います。ミックスが必要だと思う。というのも、今のところ、ただ電気自動車が英国の進むべき道であり、それしかないと言うのであれば、失敗する危険性があり、高くつく危険性があるからです。
イネオスは上述の通り内燃機関のみのラインアップではありますが、水素燃料電池版も開発しており、さらには小型の電動オフローダーも数年以内に発表するという計画を持っています(つまりは主張通り、内燃機関、水素、エレクトリックのミックスとなる)。
そしてこういった発言には反論がつきものであり、当然のごとく反論された後にもリン・カルダー氏はまったく動じず、むしろ「EVがすべての人のニーズにマッチする解決策ではない」として反論に反論することに。
理論的に電気自動車に適さないクルマも存在します。私たちのクルマはそのひとつで、物を牽引したり、ハードに働いたり、山を登ったり、人里離れた場所で使用されることを意味します。もし本当にそのような使い方をしたいのであれば、現在のインフラを考えると、電気自動車はあまり良い答えとは言えません。
そのほかにも「BEVオンリー」には大きなリスクが付きまとう
そしてこういった「EVがすべての人にとっての解決策ではない」という理由のほか、ぼくが考える「EV特化型戦略のリスク」も存在し、それはやはり近年叫ばれる「中国製EVの進出」。
現在中国製EVは欧州を中心にそうとうなシェアを獲得しており、このままだとどんどん販売を伸ばして普及価格帯の自動車メーカーのEVだけではなく、ガソリン / ディーゼル車のシェアを食ってしまう可能性が大。
もちろん中国国内ではさらに安価なEVだらけなのでますます欧米のEVは売れず、おまけに(BMWいわく)中国では高級EVが売れないとのことで、そうなると普及価格帯の自動車メーカー、プレミアムカーメーカーともに「中国で売れず、しかし中国車が地元をおびやかす」状況となってしまうわけですね。
-
中国EVメーカーの急激な成長に欧州自動車メーカーも戦略変更を迫られる。VWは「さらにEV強化」、メルセデスは「ガソリン車生産を再考」
| ボク的には「中国製EVと直接戦っても勝ち目はない」と考えている | トヨタやBMW、メルセデス・ベンツのように「中国の自動車メーカーと競合しない」領域に出てゆくことが正しい判断ではないか さて、フ ...
続きを見る
そういった「お株を奪われた」中でうかつにEVシフトを進めてしまうと後戻りができなくなり、文字通りのジリ貧になってしまうことも考えられますが、もしガソリン車をまだ作っていたならば(それでも中国車に多少はシェアを奪われることにはなるものの)最悪の事態を割けることができ、ダメージを小さく抑えることも可能です。
そういった意味では「保険」として様々な選択肢を残しておくことも考えるべきであり、(中国の脅威という想定外の状況に直面している中で)電動化にすべてを賭けることはあまりにリスキーだとも考えられます。※中国車の進出という問題がなければ、先行者利益を獲得すべく、先陣を切って電動化へとシフトするのも悪い戦略ではなかったと思う
-
EU規制当局が欧州内で勢力を拡大し続ける中国車に対し関税導入を検討。当然中国はこれに反発しており、自動車業界を超えた問題に発展する可能性も
| EU規制当局としてはなんとかして中国車の勢いを抑えたいものと思われるが、関税を導入するとその影響は多岐にわたる | 現実的には中国車に関税をかけることは難しいだろう さて、ここ最近大きくクローズア ...
続きを見る
合わせて読みたい、関連投稿
-
豊田章男会長「BEVに関する私の考えは、地球温暖化削減に貢献する重要な技術の一つではあるが、唯一の解決策ではないということだ」。トヨタがBEVに集中しないその理由とは
| たしかに「EVのみ」に自動車業界全てが向かうのはあまりに危険すぎるのかもしれない | 現在は「かつてないほど」自動車メーカー間で意見が割れている さて、トヨタは「EVへのシフト」についてはほかの自 ...
続きを見る
-
フォード「EVを売るのに1台あたり450万の赤字。今後はEVよりもハイブリッドの生産を増加させる」。結果的にトヨタの「EVよりもHV」戦略が正しかった?
| ただしいずれの普及価格帯自動車メーカーは中国の自動車メーカーに「食われてしまう」危険性をはらんでいる | おそらくはこの5年ほどで自動車業界の勢力図は大きく変わるだろう さて、フォードが第2四半期 ...
続きを見る
-
ステランティスCEO「現在のEVシフトは、政治家が選んだもので、我々自動車メーカーや消費者が選んだものではない」。なんでもかんでもガソリン車を悪にする風潮に懸念
| 消費者が望まない製品に多額を投じて開発し、発売せねばならない自動車メーカーはさぞ辛いだろう | このEVシフトにて、多くの人々が幸せになるとは考えにくい さて、ステランティス(旧FCA+プジョー・ ...
続きを見る
参照:Autocar