
| EUの保護政策が裏目に出る – 中国車が関税の「穴」を突いて欧州市場を席巻 |
まさか関税がこういった方向へと作用しようとは
欧州連合(EU)が昨年11月に導入した中国製EV(電気自動車)に対する最大35%の追加関税は欧州域内の自動車メーカーを保護し、中国ブランドに欧州内での生産を促すことが目的ではあったものの、しかしその戦略が大きく裏目に出たことが明らかに。
実際のところ、追加関税を導入したにもかかわらず、中国車の欧州販売台数は失速するどころか”急増”しており、2025年にはEU、英国、EFTA諸国全体で70万台を超えると予想されています(2024年の40万8,000台から大幅増)。
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「チャイナスピード」を甘く見すぎたか
この急増の背景にあるのはEUの関税措置が抱える「大きな抜け穴」で、中国メーカーは、ハイブリッド車(HEV)や内燃機関車(ICE)へ戦略を転換することで高関税を回避し、欧州市場のニーズに合致させている、と報じられています。
- 驚異の販売増: 2025年、中国製自動車の欧州販売は70万台超の見込み
- 関税の抜け穴: 追加関税の対象がEVのみだったため、ハイブリッド車とICE車は従来の10%の基本関税のまま
- 中国の戦略転換: 中国メーカーは欧州向けモデルのハイブリッド/ICEシフトを加速
- EV比率の低下: 中国車の欧州販売におけるEVの割合は、2024年(1~10月)の44%から2025年には34%に減少
- 現地生産の遅れ: 期待された中国ブランドの欧州工場建設はBYDを除き本格化していない
EV高関税を回避する「ハイブリッド・ワークアラウンド」戦略
EUの関税措置は従来の10%の輸入関税に加え、最大35%の追加関税を課すもので、そしてこの追加課税は純粋なEVおよび航続距離延長型EV(レンジエクステンダーEV / EREV)を対象としていたわけですね。
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1. ハイブリッド/ICEが受ける関税はわずか10%
この政策の最大の問題点はハイブリッド車(HEV)や内燃機関車(ICE)が「これまで通りの基本関税10%」の対象にとどまったこと。
よって中国の自動車メーカーは「高い関税を支払わなくてはならないEVの輸出を縮小させ、より関税が低いPHEVやハイブリッド、内燃機関搭載車」へと持ち前のチャイナスピードを発揮してシフトさせたという現実が存在します。
- 生産コスト優位: 中国メーカーは、欧州メーカーよりも最大30%低い生産コストを享受しており、10%の関税が上乗せされても、価格競争力は揺るぎない
- 戦略的な車種変更: 追加関税の影響を受けないこのカテゴリに戦略的に集中することで、中国メーカーはコスト優位性を最大限に活用し、欧州市場への輸出を加速させている
金融サービス企業ジェフリーズのマネージングディレクター、フィリップ・ウーショワ氏は、「EUの決定は、中国からのフルハイブリッド車やハイブリッド車に対して大きな穴を開けてしまった」と指摘しており、実際のところ、今年ヨーロッパに輸入された中国車の約3分の2は、標準の10%関税のみの対象となっているそうなので、中国の自動車メーカーは本当にうまくこの税制の「抜け穴」を利用したということになりそうですね。
2. BYDに代表されるPHEV攻勢
そして特に著しいのが、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車の成長で、これは文字通り「抜け穴」が活用されたことを意味しており、実際に中国勢の欧州でのハイブリッド車シェアはわずか1年で3%弱から15%へと急上昇し、逆にEVの販売は44%から34%へと縮小しています。
さらに欧州勢はつい最近「EV一辺倒」から「ハイブリッド(PHEV含む)へと舵を切ったばかりなので、まだPHEV車両のラインアップが十分ではなく、ここもまた「中国に付け入る隙を与えてしまった」ところなのかもしれません。
- 欧州のニーズを直撃: 航続距離の不安が残る欧州ユーザーに対し、電動走行をメインとしつつガソリンエンジンを搭載したPHEVは、航続距離の不安を解消する魅力的な選択肢となりえる
- 圧倒的な価格優位性: 例えば、BYDのPHEVモデル「Seal U DM-i」は、競合するVW「ティグアン eHybrid」よりも大幅に安価に設定されており、関税負担があっても価格競争力で欧州勢を凌駕している
期待外れの「現地生産」と中国メーカーのしたたかな駆け引き
EさらにUが追加関税によって促そうとした「中国メーカーによる欧州域内での生産」は、依然として限定的です。
現地生産はBYDが先行するのみ
今年、欧州内で組み立てられる中国ブランド車の台数は「わずか」2万台未満と予想されており、これは「高い関税を払ってでも中国国内で生産し、より大きな利益を確保する方が経済的に合理的」だという判断にて多くのメーカーは現地生産の決定を遅らせている状況だとされますが、こういった傾向を見るに、「最大35%」の関税でも中国の自動車メーカーにとっては「全然許容できる範囲」だったのかもしれませんね。
- BYDの例外: BYDはハンガリーに年間最大15万台の生産能力を持つ新工場を建設する計画を進めているものの、これは現時点では例外中の例外
- 理論的な計画の域: Leapmotor(スペインでのB10生産予定)やGWM(2029年までに30万台生産の目標)など、多くのメーカーが欧州生産の計画を示しているものの、具体的な数字はまだ理論的な段階に留まっている
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関連情報:EUの政策ミスがもたらした教訓
ウーショワ氏は、「中国の自動車メーカーに対して追加関税を課す際に、特定の技術(EV)を標的にするというEUの決定は、失敗であった」と総括しており、つまるところEUは「EVの急速な普及と環境保護を目指すあまり、EVと内燃機関(ICE)の中間に位置する」ハイブリッドという巨大な市場の「穴」を見落としていたということになり、中国メーカーは、その穴を巧みに突き、欧州市場での存在感を逆に高める結果となっています。
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結論:EUは戦略の見直しを迫られる
EUの中国EV関税政策は、意図に反して中国車の欧州市場参入を加速させるという皮肉な結果を生んでいて、これは中国メーカーの圧倒的なコスト競争力と、市場の需要に合わせた柔軟な戦略転換によるものです。
今後、EUは、この「ハイブリッドの抜け穴」を塞ぐための関税措置の見直しや、欧州メーカーが価格競争力を取り戻すためのより強力な支援策を迫られることになりますが、「何をどうやっても」中国の自動車メーカーの後手に回ってしまう可能性もなきにしもあらず。
EUの保護主義的な政策が、結果的に中国メーカーに「非EV」セグメントでの足場固めを許してしまったという事実は、グローバルな自動車産業における電動化戦略の難しさを浮き彫りにしています。
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参照:CARSCOOPS















