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| 1993年デトロイトで起きた「奇跡の逆転劇」とは? |
ボクスター「プロトタイプ」がポルシェを倒産の縁から救う
(2025年の利益99%減少を除くと)世界で最も収益性の高い自動車メーカーの一つとなったポルシェではありますが、わずか35年ほど前には「倒産寸前」の淵に立たされていたことも。
1990年代初頭、極度の赤字に苦しんでいたポルシェを救ったのは1台の「コンセプトカー」で、1993年のデトロイト・モーターショー会場の片隅に追いやられたポルシェ・ブースがなぜ世界中の熱狂を呼び、空前の受注ラッシュを巻き起こしたのか。
ブランドの命運を分けた「ポルシェにとっての運命の瞬間」を紐解きます。
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ポルシェ・ボクスター「誕生秘話」。デトロイトを震撼させた「伝説のコンセプトカー」の真実、そして「異例づくめ」の市販まで
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本記事の要約
- 1990年代初頭、ポルシェは販売台数が半減し、莫大な赤字を抱えていた
- 1993年、デトロイトで発表された「ボクスター・コンセプト」が会場を熱狂させた
- 往年の「550スパイダー」を彷彿とさせるデザインが、顧客の白紙小切手を引き出した
- ボクスターの成功により、ポルシェはわずか3年で黒字化と復活を果たした
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ポルシェは1986年、こうやって911や928を作っていた。この生産効率の悪さ故にポルシェは経営危機に陥り、後にトヨタ出身者を招いて「カイゼン」を行うことに【動画】
Porsche | 意外ではあるが、当時、いずれの欧州の自動車メーカーも生産の効率化が得意ではなかった | 逆にこれを進めたのは日本とアメリカであり、それは自動車産業の「ルーツ」に関係がある さて、1 ...
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絶望の淵からのスタート:1993年以前のポルシェ
まず1990年初頭、1980年代後半から始まったドル安の影響にてポルシェの主要市場である米国での販売が激減し・・・。
- 1986年: 販売台数 約5万台
- 1991年: 販売台数 2万3,000台(半分以下に急落)
- 1992年末: 赤字額 2億4,000万ドイツマルク
当時のシュトゥットガルトには重苦しい空気が漂い、「ポルシェはもはや独立企業として存続できないのではないか」という噂が業界を駆け巡っていたのだそう(経営危機に陥ったのは販売減少のせいだけではなく、その非効率的な生産体制にもあった)。
なお、この頃にはホンダとトヨタがポルシェの買収に興味を示し、トヨタは「ホンダよりもかなり高い額を」提示したという話もありますが、この買収話はまとまらず、ポルシェは自力再建」の道を選択することに。
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カレラGT誕生の裏側:ポルシェを救った「カイゼン」とトヨタ生産方式の衝撃、トヨタの助けがなければボクスターもカレラGTは誕生し得なかった?
Image:Porsche | 1990年代、ポルシェは「危機的状況」にあった | 転落の1993年:ポルシェを襲った「製造業の病」 現在、ポルシェはカイエン、マカンといったモデルによって自動車業界内 ...
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詳細:デトロイトで起きた「ボクスター」の衝撃
そんな危機的状況の中、1993年1月、ポルシェは1台のプロトタイプをデトロイト・モーターショーに持ち込むこととなり、それが「ボクスター・コンセプト」。
運営側から会場の目立たない隅っこのブースを与えられていたポルシェではあったものの、そのコンセプトカーがベールを脱いだ瞬間、そこは会場で最も熱い場所に変わった、と言われています。
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36年の軌跡: ポルシェの夢を形作り続けたデザイナー、グラント・ラーソンが引退へ。ボクスター、カレラGTのデザインを手掛ける
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「ジェームス・ディーン」の再来
ボクスターのデザインのベースにあるのは伝説の「550スパイダー」や「718 RS 60」を彷彿とさせるミッドシップ2シーター・ロードスター。
その愛らしくも不敵なエレガンスはたちまち自動車愛好家たちの心を鷲掴みにし、「これこそ自分たちが待ち望んでいたポルシェだ!」とばかりに、まだ発売も決まっていないコンセプトカーに対して白紙の小切手を切って予約しようとする顧客が続出したと言われます。
特徴とスペック:初代ボクスター(986型)の概要
デトロイトでの熱狂を受けるないなや、ポルシェは急ピッチで開発を進めることとなり、わずか3年半でこのコンセプトを市販化にまでこぎつけ、かしくして「986ボクスター」が誕生するわけですね。
| 項目 | ボクスター・コンセプト(1993年) | 市販モデル(1996年~) |
| エンジン | 水平対向6気筒(ミッドシップ) | 2.5L 水平対向6気筒 |
| 最高出力 | 非公表 | 204PS |
| 駆動方式 | MR(ミッドシップエンジン・後輪駆動) | MR(ミッドシップエンジン・後輪駆動) |
| デザインのルーツ | 550スパイダー / 718型スパイダー | 伝統のデザイン + 911(996型)との部品共有 |
経営を救った「部品共有」という英断
ボクスターの成功は単にデザインが優れていたというだけではなく、「価格」に依存するところが大きかったのだとも考えられ、同時期に開発されていた「911(996型)」とフロント部分の部品を共通化するという大胆なコストカット(リーン生産方式の導入)により、高品質なポルシェを手の届きやすい価格(およそ当時の911の半額)にて提供することに成功しています。

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996世代のポルシェ911は今年で27年!「なぜ当時のボクスターと同じ顔だったのか」「想定した台数の倍以上売れた」など秘話が公開
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結論:未来を変えた「ビジョン」
1996年に市販版ボクスターが登場するとポルシェの販売台数は一気に3万2,000台まで回復。
その半数がなんとボクスターで(イキナリこの台数すべてをポルシェ自身が生産することは難しく、よって当時はヴァルメットに生産の多くが委託されていた)、これによってポルシェはついに黒字へと転換し、その後の「カイエン」や「パナメーラ」へと続く、ポルシェ黄金時代の礎を築くことに成功します。
ポルシェにはこれまでにも様々な「歴史を変えた」瞬間が存在するものの、ボクスターの歴史を紐解いてみると、1993年のデトロイトでポルシェが示した「未来のスポーツカーのビジョン」は、まさにブランドの命を繋いだ希望の光であったということがわかりますね。
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ポルシェを復活させたのはボクスターだが、ポルシェの経済基盤を盤石にしたのはカイエンだった。両者ともに適切な時期に登場し適切な役割を果たしている
| 今日のすばらしいポルシェ911があるのはボクスター、そしてカイエンのおかげでもある | ポルシェはボクスターとカイエンによって「新しい開発と製造手法」を身に着けたのだとも考えられる さて、前回はど ...
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参考:「ボクスター(Boxster)」という名の由来
実は「ボクスター(Boxster)という車名、「Boxer(水平対向エンジン)」と「Roadster(オープン2シーター)」を組み合わせたポルシェによる造語です。
発表当時、この名前自体も非常にフレッシュで、新しい時代のポルシェを象徴するネーミングとして高く評価されており、これに気を良くしたポルシェはその後に発売するブランニューモデル、カイエンの名称を「Rockster(ロックスター)」にするという案を考えたという話も。
結果的には「カイエンペッパー」から取った「カイエン(Cayenne)」に落ち着いていますが、Rocksterの”Rock”は音楽の方ではなく、オフローダーなのでRock=石をイメージしていたようですね。
そしてもうひとつボクスターについて触れておかねばならないのは、1993年のコンセプトカー、そして市販モデルにて「水冷エンジン」を導入したこと。
当時のポルシェファンにとっては「空冷こそ正義」という時代ではありましたが、ボクスターはポルシェファンに「水冷ポルシェ」を認めさせた最初の大きな成功例でもあり、その後911が水冷にスイッチする際の「クッション」の役割を少なからず果たしたこと。
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そう考えるならば、ボクスター最大の功績は「911の水冷化への移行をスムーズに行わせたこと」にあるのかもしれません。
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参照:Porsche

















