
| かつては電動ハイパーカーによってガソリン車を過去のものとした同氏ではあるが |
なぜ「速さ」だけでは買ってもらえないのか?
電動ハイパーカー「リマック ネヴェーラ(Nevera)」で世界中の0-100km/h加速記録を塗り替え、まさにスーパーカー / ハイパーカー界をEVで平定した男、メイト・リマック氏。
しかし現在、ブガッティ・リマックのCEOを務める彼が発した言葉は、自動車ファンを大いに驚かせるものです。
「最高峰のスーパーカーは、これからも長い間ガソリンエンジンであり続ける」
かつてトーマス・エジソンが電球を完成させた後に「やっぱりロウソクの方が味わい深くて良い」と語るような、あるいはグラハム・ベルが電話を発明した後に「やっぱり手紙のほうが雰囲気があって良かったな」と言うような、一見すると大きな矛盾を感じさせるこの発言。
EVのトップランナーである彼がなぜあえて今「ガソリンエンジンの復権」を訴えるのか。その背景にあるハイパーカー市場の地殻変動と富裕層の心理の変化について考えてみましょう。
【この記事の要約】
- EV界のパイオニアが語る逆説:モンスターEV「ネヴェーラ」で世界を驚かせたメイト・リマック氏が、高級スーパーカーの未来は「内燃機関(ガソリンエンジン)」にあると発言。
- 「機械式腕時計」に例えられるハイパーカー:日常の車はEVへ移行する一方、ハイパー富裕層向け車両は工芸品や機械式時計のような「感性・ロマン」の領域へシフト。
- 性能(加速力)のコモディティ化:安価なEVでも異次元の加速が手に入る時代において、単純な「速さ」はもはや価値の決め手にならない。

ハイパーEVによって世界を変えた男だからこそわかる「真実」
リマック社が送り出した「ネヴェーラ」は2,000馬力近い出力で従来の内燃機関スーパーカーを直線で圧倒する存在であり、しかし、性能面での圧倒的な優位性にもかかわらず、販売面では大きな苦戦を強いられていること、中古市場での価値の低下に悩まされていることでも知られます。
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電動ハイパーカー、リマック・ネヴェーラがネットオークションに登場、終了まで数日を残しても「入札価格は新車価格の半分」。やはり電動ハイパーカーの未来は明るくない?
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その最大の理由は、「圧倒的な速さ=欲しいという強い情熱」には直接つながらないという現実で、これは実際に世界最速のハイパーカーを手掛け、顧客と直接対峙する同氏であるからこそわかりえた事実なのかもしれません。
現在、中国メーカーをはじめとする新興EV勢からは、約5万ドル(約700万〜800万円台)程度の比較的安価なEVでも、10年前のハイパーカーを置き去りにするような加速性能を持つモデルが続々と登場していて・・・。
「中国の5万ドルの車でも10年前のパフォーマンスカーより速いものが手に入ります。速さという性能自体、もはや二次的な価値になりつつあるのです」
―― メイト・リマック(CNBCインタビューより)

誰でも手に入れられるEVで劇的な加速が得られるようになった結果、億単位の金額を支払うハイパー富裕層にとって「コンマ数秒の速さ」や「馬力の数値」は自慢の種としては魅力を失いつつある、というわけですね。
これは「いかに表示する時間が正確でも」デジタル時計やスマートウォッチでは(セレブ界だと)自慢できず、満足感も得られないのとよく似ていて、すぐに色褪せてしまう価値(最新の性能)よりも、不変の価値、百年以上の歴史にわたり磨き上げられてきた究極の機能性を持つ機械式腕時計のほうが重んじられるのとよく似ています(文芸界においても同じであって、一時的に人気化したとしても消耗性の高いライトノベルより、死後数十年、あるいは数百年経っても読まれる作家の作品に価値があることにも通じる)。※アンティークを愛する心理にも繋がるものがありそうだ
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「スマートウォッチ」と「スイス製高級機械式時計」の対比
実際のところ、リマック氏は現在の自動車市場を「腕時計業界」になぞらえていて・・・。
- 大衆車(スマートウォッチ / デジタル時計):正確な時間を知る、実用的な移動手段としてはEVが圧倒的に便利であり、市場の大半を占めることになるであろう
- ハイパーカー(スイス製高級機械式時計):複雑なギアやゼンマイで動く機械式時計のように、非効率であっても人間の職人技、サウンド、メカニズムの美しさという「感情的価値」に巨額の金が支払われる
つまり、大衆が日常の足として効率的なEVへ移行すればするほど、富裕層が趣味として買い求める特別なクルマは「より機械的で、エモーショナルで、職人技が光るガソリンエンジンへと先祖返りしていく」という見立てでもあり、EVの性質そして客層をよく理解しているがため、そしてEVを認めているからこその見解であるというわけですね。

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ブガッティの新時代を象徴する「トゥールビヨン」
この新哲学を具現化したのが、シロンの後継として発表された「ブガッティ トゥールビヨン(Tourbillon)」。
当初検討されていたフルEV案を退け、コスワースと共同開発した8.3L V16自然吸気エンジンに3基のモーターを組み合わせるPHEVというスタイルを選択することに。
そして「トゥールビヨン」という名称そのものも、発明からいかに時間が経過しようとも、その後デジタルはじめ様々な技術革新が起ころうとも、腕時計界における「もっとも優れた機構」の代表として”トゥールビヨン機構”が君臨していることから、このハイパーカーもそのような存在であってほしいと願ってのことだと説明されています。※すぐれた機構の定義というのは、数値よりもその技術革新や思想によるものであるとも考えられる
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よってインテリアでは液晶モニターはじめとする「デジタル」が徹底的に排除され(カーナビ等の表示画面は存在するが、普段は格納されていて見えない)、かわりに鎮座するのはスイスの高級時計職人がパーツ数600個以上のチタンやサファイアによるパーツを用いて組み上げた”完全アナログ”のメーターパネル。
「明日にでも」デジタル画面が古臭く見えるリスクを排除し、「永久に褪せない美しさ」を追求した結果というわけですね。

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ブガッティ・トゥールビヨン(Tourbillon)主要スペック一覧
| 項目 | スペック(Bugatti Tourbillon) |
| パワートレイン | 8.3L V16自然吸気エンジン + 3電気モーター |
| 最高出力(エンジン単体) | 1,000 PS |
| 最高出力(システム合計) | 1,775 hp(1,800 PS) |
| 最高回転数 | 9,000 rpm |
| トランスミッション | 8速デュアルクラッチ(DCT) |
| 0-100km/h 加速 | 2.0秒 |
| 最高速度 | 445 km/h(276 mph) |
| 車両価格 | 約380万ユーロ(約6億円〜) ※税別 |
| 生産台数 | 世界限定250台(すでに完売) |

競合比較とパーソナライズの波
そして車体性能にて差がつきにくくなった今、超高額車市場で熱を帯びているのが「世界に一台だけの仕様を作る」ビスポーク(パーソナライズ)ビジネスで・・・。
パーソナライズ市場でのポジション比較
- ブガッティ(Bugatti):トゥールビヨンの購入者は車両本体価格(約6億円)に加え、平均で60万〜70万ドル(約9,000万〜1億円)ものオプション・パーソナライズ費用を支払っており、さらにブガッティは完全ワンオフモデル「Solitaire(ソリテール)」プログラムから誕生した「Destrier(デストリエ)」のように、他人が所有するどれとも異なる「動く彫刻」としての価値を提示している
- フェラーリ(Ferrari)/ ランボルギーニ(Lamborghini):「テーラーメイド」や「アド・ペルソナム」といったカスタマイズ部門を拡大させ、フェラーリでは「完全ワンオフ」にも対応
- ロールス・ロイス(Rolls-Royce):ワンオフプログラムを通じ「数十億円の」コストを要するフルオーダーモデルを提供
さらにポルシェ、マセラティも「ワンオフビジネス」を拡大させる意向を示しており、「誰かが持っているクルマの”より複雑で、より高いバージョン”」ではなく、「世界に自分だけの絶対的な作品」を求める顧客心理を捉えたブガッティの戦略は「先見の明があった」というべきなのかもしれません。

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結論
EVの圧倒的な加速性能を誰よりも知るメイト・リマック氏だからこそ導き出した「ハイパーカー=機械式時計化」という未来像。
移動手段としての自動車が静かで快適なEVへと向かう一方、趣味やロマンとしてのスーパーカーはエンジンの脈動、排気音、複雑なギアのメカニズムを称える方向へと舵を切っています。
ぼくら一般のクルマ好きにとって数億円のハイパーカーは高嶺の花ではありますが、この「効率性ばかりを求めず、フィーリングや感性を大切にする」という揺り戻しは、今後のスポーツカー全体のあり方や、ぼくらがクルマに求める「走る楽しさ」の本質を再確認させてくれる大きなヒントとなるのかもしれませんね。
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【100年後も美しい】ブガッティ・トゥールビヨンの内装が「あえてアナログ」を極めた”デザイナーが語る”理由とは【動画】
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参照:CNBC











