| ボクとしてはテスラにとっての自動運転は「ブガッティにおけるパワーやスピード」と同様だと考えている |
つまり自動運転はテスラのブランド価値と不可分であり、その価値を構成する重要な要素である
さて、ドナルド・トランプ大統領が自動運転車に関する導入障壁を引き下げる可能性が高いと報じられたことでテスラの株価は急上昇していますが、アナリストたちはその上昇分が「テスラの自動運転技術への期待値」つまりAI技術やソフトウエアが評価されたからだと分析しており、しかし自動車業界に精通した人から見ると「それは間違いである」という見解が出されてちょっとした話題に。
順を追って説明してゆくと、RBCキャピタルのアナリスト、トム・ナラヤン氏は、トランプ大統領の自動運転車の規制緩和がテスラにとってもっとも重要であると述べ、同氏は以前、テスラの株価目標を引き上げる際に、自動運転車がテスラの企業評価の77%を占めていると指摘しています。
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「自動運転」車両は利益率が高い?
さらに同氏は自動運転車の規制緩和によってテスラが「ステアリングホイールやペダルのない車両」を作ることができ、これによって「多くのコストを削減し、市場を飲み込む」可能性を示唆していますが、しかしトム・ナラヤン氏が見落としている問題は「ステアリングホイールとペダルを取り除いても、実際にコスト削減の効果はほとんどない」ということ。
そして、そもそも自動運転車市場はアナリストたちが考えているほど大きくないという事実も指摘され、自動車業界に精通した人々はトム・ナラヤン氏の分析を真っ向から否定しているわけですね。
Image:Tesla
まず、自動運転車の製造においてステアリングホイールややペダルを取り除くことのコスト削減効果は、ほとんど無視できるほど小さいと考えられ、確かに、ブレーキマスターシリンダーやステアリングコラムは複雑ですが、自動運転車でもブレーキやステアリング構造が必要であり、人間の操作がなくてもこれらのシステムは必須です。
テスラの部品リストによると、モデルSの上部ステアリングコラムとステアリングホイールの組み立ては小売価格で約2,853.05ドルですが、これは2,400ドルの車載コンピューターに対してもさほど高くはなく、車両製造における大きなコスト要因ではありません。
さらに、自動運転車市場はアナリストたちが予想しているよりも厳しい状況で、たとえば2022年の世界の乗用車市場は約3.1兆ドルであったものの、調査によると米国のドライバーの86%は緊急時に自動運転車を自分で操作したいと考えています。
つまり、もしこの割合が世界中でも同じであれば、自動運転車市場はわずか4340億ドルの規模に過ぎず、仮に自動運転車市場が拡大しても、それがテスラにとって十分な規模に成長することは考えにくく、テスラが自動運転車市場で11%のシェアを獲得したとしても、その収益は数十億ドル程度にとどまる可能性があり、テスラの1.08兆ドルの企業評価のうち(トム・ナラヤン氏のいう)77%に見合うほどではない、と考えられます。
Image:Tesla
たしかに乗用車市場は成長を続けていますが、自動運転車市場がその企業評価に匹敵する規模に成長するには「何年も」の時間を要する可能性があり、そのため、自動運転車が無限の収益を生み出すという期待は過大にすぎず、実際には限定的な市場であって、多くの人々が購入しない”ニッチな”技術であることを理解する必要があります。
要するに、自動運転車は魅力的な可能性を秘めているかもしれず、しかしその市場の実際の規模は多くの投資家が考えているほど大きくはなく、その技術が急速に広まることは難しいという現実を(自動車業界の知識人たちは)指摘しているわけですね。
ただしこの考え方にも「盲点」はある
ただ、こういった(通称)自動車業界の知識人たちの指摘にも盲点はあり、それは「自動運転ソフトウエアの販売による収益」。
テスラはすでに相当数の車両を販売しており、ここ数年ではさらにその台数を積み増すこととなり、そして自動運転が認可されれば、たとえ米国内だけであったとしても、すでに納車されているクルマへと「有償オプションとして」販売することができ、これは「いわば製造原価0円」のオプションです。
そしてテスラをここまで有名にした理由の一つは「自動運転」であるとも考えられ、そこでこの自動運転が「政府のお墨付き」となればテスラの認知度がさらに高まり、(サイバーキャブ以外の)テスラの既存モデルの販売台数が一気に増える可能性も(そして、それらの一定の割合は自動運転ソフトをオプションとして選択することとになる)。
そして同様のシナリオが中国でも展開される可能性があり、よってぼくからすると「トランプ大統領が自動運転を認可すること」はむしろ計り知れない利益をテスラに与えることになると考えていて、それは数年前にサイバートラックが発表された時の協奏曲の再現になるかもしれません(テスラの株価はサイバートラックの発表とともに急激に上昇している。サイバートラックがテスラに及ぼす直接の利益は限定的ではあるが、今までテスラを知らなかった人にテスラの存在を知らしめ、今まで自動車を取り上げなかったメディアであってもテスラの記事を扱うようになった効果は金銭に換算できない)。
つまるところテスラにとっての自動運転は「ブガッティにとっての馬力や最高速」と同じようなもので、馬力や最高速が高いことが直接の利益に結びついているわけではないものの、それらはブガッティとは不可分のものであって、「テスラと自動運転」もまた同様であると考えています。
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