| 国産ディーラーの営業はあまりに刹那的で短期的であり、人間性やクルマ愛が感じられないことも |
プレジデントオンラインにて、質の高いサービスを提供し、業績も順調に伸ばしている高知県のトヨタディーラー、「ネットトヨタ南国」についての記事「イチローと同じ精神でやれば店は繁盛する」が掲載。
つまるところはイチローの言う” 小さなことを積み重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道 ”を地道に実践した結果、それが結実している、という内容です。
ただ、ぼくがこの記事の中で興味を惹かれたのは、「その客が買うかどうかを5分で見極め、買わない顧客からはすぐに離れろ」と指導しているディーラーもある、というくだり(もちろんネッツトヨタ南国はそれとは反対の指導をしていて、それで業績を伸ばしているという内容)。
ちなみにプレジデントオンラインは「日経プレジデント」のWEB版ということになりますが、主に経営者に向けた経済誌なので、こういった「運営」に関する記事が掲載されることになりますが、こういった内容は自動車専門媒体の「その車種に焦点を当てた」ものとはまた異なり、なかなかに面白いと思います。
国産ディーラーにとって「今すぐ買わない客は”客ではない”」
ぼくは常々国産ディーラーの対応には疑問を持っていることがあり、それは「その場で購入を決断しない客は”客ではない”という態度」。
もちろん、ネッツトヨタ南国が示すように、「すべて」の国産ディーラーがそうでないことは理解していますが、基本的に国産ディーラーのビジネスモデルは「イベントで客を呼び、その来場した人々の中から買いそうな客を選り分けて販売する」。
つまりは「客の母数が多い(いくらでも見込み客がいる)」ことを前提にし、不要な客を切り捨てることが仕事になっている、と感じるわけですね(ディーラーを訪問した後、その後執拗に営業をかけられるというのは昔の話)。
よって、車検なり何なりといった事情があり、「すぐに買う必要がある」人だけしか販売対象とはみなさず、「ちょっと興味があったので」「今すぐ買う予定はないけど事情が変われば買うかも」といった人は”対象外”。
これは「国産車の場合は実用品という側面が強い」ことに起因すると思われますが、今クルマを必要としている人のみを選定して販売するために「ご予算は?」「購入時期は?」という質問から入ってくるのかもしれません(いや、きっとそうだ)。
販売手法として効率を追求しているということは理解できるものの、あまりに味気ないようには思われ、クルマ愛が感じられないと思うのはぼくだけではないと思います。
そして現在は国産車といえども趣味性の高いクルマ、高額なクルマがいくつか登場しており、「実用品」にとどまらない車種が出てきているのもまた事実。
新型スープラは国産ディーラーの一般的な(販売に対する)考え方とはマッチしない
たとえばGRスープラはその端的な例ですが、カローラやヴィッツ、シエンタなど「実用車」が販売の中心となっているディーラーにとって、「乗り出し700万円オーバー」「2シーターのスポーツカー」を求める客層は、それまでの客層とはまったく異なる人々だと思われます。
たとえば昔80スープラに乗っていて、その後収入も増え、家族構成も変わってBMWやメルセデス・ベンツのサルーンやSUVに乗り、しかし新型スープラが登場し「どれ、子供も独立したし、スープラでも増車してみるか」と考えてトヨタディーラーを訪問し、しかし「実用車を販売するのと同じような態度で」接客されてしまうと、GRスープラに対する想いも冷めてしまうのかもしれません。
なお、新型トヨタGRスープラについては「販売店を絞り、GRガレージのみで販売する」という話もあったようですが、これは「クルマ愛のある店にて、そしてそういった店と対応を求める顧客が来店する場所で売りたい」という思いから出た計画であろう、とも考えています。
ただしこれはGRガレージが想定通り機能していないことや、その他の事情で実現しなかったのだと思われますが、結果として「すぐに注文しない客は客ではない」という考え方・指導教育が根底にあるディーラーで(スープラが)販売されることになり、おそらくこれはスープラのイメージをかなりスポイルするだろう、とも考えています(加えて、スープラは輸入車なので納期がかかり、現在の国産ディーラーの販売方法とはミスマッチも生じており、対応に矛盾が生じている)。
安価なクルマ、実用車ほど購入までの決定が早い
参考までに、「実用車」「安価なクルマ」ほど購入までの意思決定時間が短いという統計もあり、たとえば「中古商用車専門店」「乗り出し5万円や10万円の格安中古を専門に扱うお店」に来るお客は、その場で購入を即決する確率が非常に高いとされ、つまりは「時間がない」「予算が限られている」ために迷ったり複数選択肢を検討する余裕がないのだと思われます。
一方、趣味性の高いスポーツカーなどは、ほかにクルマを持っている人の場合、「今すぐに買う必要がない」ためにいろいろな選択肢を検討したり、モデルチェンジやフェイスリフトのタイミング、ほかニューモデル登場を待ったりして「じっくり検討」するのかもしれません。
このあたり、異性との付き合い方にも似ていて、相手に困っている人(や結婚を焦る人)は妥協した選択を行うことがあり、しかし相手に困らない人は多数からゆっくり選んだり、より良い条件を探す傾向がある、という状況と同様なのかも。
一方で輸入車ディーラーは「機が熟するのを待つ」傾向がある
一方で一般に輸入車の場合は「顧客との接点を持ち続け、チャンスが来たときに買ってもらう」というスタンスが強いようにも感じます。
ぼくは常日頃、試乗を行いつつ「購入するクルマのリスト」を作っていて、なにかの拍子にポンとクルマを買うことも(今回のスープラのキャンセルで資金的余裕ができたり、投資している株の価格が上がったりとか)。
そのようなときには「日頃連絡をくれる」ディーラーでクルマを買うことになりますし、そうでなくても「こんな出物がありますよ」という一報をタイミングよくくれた場合には「この機会に買ってみるか」と考えることもあるわけですね。
もちろん、すべての輸入車ディーラーがそうだというわけではありませんが、あくまでも「一般的な傾向として」ぼくは上記のような印象を持っています。