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| 現ベントレーのCEOはポルシェ出身である |
1. 序論:超高級ブランドが仕掛ける「地域性のブランド化」
ベントレーのビスポーク部門であるマリナー(Mulliner)は、通常のオプションでは満足できないという裕福な顧客の要望に応える「超限定的なパーソナライゼーションを高いレベル実現できる」という高い評価を得ていますが、今回はベントレー・シュトゥットガルト(現地ディーラー)の15周年を記念し、「ブラックフォレスト・リージョナル・コレクション」を発表しています。
このコレクションの特異な点は、発表地であるシュトゥットガルトがベントレーにとっての競合のひとつ、「ポルシェ」の地元であるというところ。
インスピレーションの源はシュトゥットガルトの南西に広がる雄大な自然、シュヴァルツヴァルト(黒い森)だそうですが、これはライバルが創業した地域での存在感を高め、地域文化に敬意を払いつつ、自社のビスポーク能力を最大限にアピールするという”戦略的な一手”と見ることが可能です(ただ、ベントレーとポルシェは現在同じくフォルクスワーゲングループ傘下にあるため、敵対的な意図はないものと思われる)。
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2. デザインコード:森林の「深みと質感」を内包する技術
そしてこのブラックフォレスト・コレクションは、ベンテイガ S ブラックエディション、コンチネンタル GT スピード、コンチネンタル GTC スピードの3モデルで構成され、「森の深いトーンと豊かな質感」を表現しています。
2.1. エクステリアの色彩工学
外装色のハイライトは、濃い緑と黒の中間色である「スカラベ(Scarab)」シェード。
これに対してブラックのアクセント、そして車体下部やミラーキャップに配されたピラーボックス・レッド(Pillar Box Red)のコントラストが組み合わされていますが、このレッドは森の風景におけるベリーの色をあらわしているといい、全体の深みのあるトーンを引き締める役割を果たしています。
なお、22インチホイールはブラック、ブレーキキャリパーはレッドというスポーツカーライクなコンビネーションを持ち、ベース車両の持つ高性能(Speed)モデルとしてのキャラクターを強調しています。
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2.2. 内装の「天然素材」と「高度なエッチング技術」
内装はマリナー部門の高度なクラフツマンシップがいっそう光る部分でもあり、以下のような特徴を持っています。
- オープンポア・ウォールナット:ダッシュボードには、天然のオープンポア(開気孔)ウォールナットの薄板が採用。この仕上げは、木材の自然な質感と感触を保ち、高級感を演出しながらも、反射を抑えるという機能的な側面を演出
- レーザーエッチング:特筆すべきは、助手席側の木製パネルにシュヴァルツヴァルトの「葉」をモチーフにしたエッチングが施されている点。これは、レーザーやCNC加工による超精密な加工技術を用いて天然素材に芸術性を加える、マリナー部門ならではの技術的表現である
- テキスタイルと刺繍:シートには、ファーン・グリーン(Fern Green)の葉とピラーボックス・レッドのベリーをモチーフにしたビスポーク刺繍が施され、ディテールの積み重ねが唯一無二の価値を生み出している
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3. パフォーマンス:「スピード」を支える電動化技術
メカニカルな変更はないものの、ベースモデルのスペックはベントレーの高性能な技術的アプローチを反映。
- ベンテイガ S:4.0リッターツインターボV8エンジンは550 PSを発生し、SUVでありながらスポーツカーに匹敵するパフォーマンスを提供
- コンチネンタル GT/GTC スピード:こちらは、プラグインハイブリッド(PHEV)V8システムを搭載し、システム最高出力782 PSという圧倒的なパワーを発生。これはベントレーが電動化への移行を進めつつも、最高峰のパフォーマンスを妥協しないという技術戦略を明確に示している
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4. 結論:ビスポーク戦略の多角化とブランドのレジリエンス
この「ブラックフォレスト・コレクション」は、ベントレーのシュトゥットガルトにおける長期的な事業レジリエンスを象徴しており、この超限定的なコレクションを通じて地域への強いコミットメントを示すとともに、競合であるポルシェの地元で自社のマリナーによる無限のカスタマイズ能力を誇示した、ということになりそうですね。
限定生産台数や価格は非公開ですが、その希少性とデザインの深みこそが超富裕層の顧客に対する最大の訴求力となることは間違いなく、多くのコレクターの注目を集めることとなるのかもしれません。
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