マクラーレン720は「目で見てわかる」機能性に溢れている
さて、マクラーレン720Sに試乗。
ぼくはマクラーレンのクルマを非常に高く評価していて、それはF1コンストラクターならではの合理的な設計(なにもかもが無駄なく最短距離でまとめられている)、そしてカーボンモノコックシャシー(カーボンモノセル)採用、パーツの取付剛性が高いというのが主なところ。
もちろん他にも多くの評価すべきところがあるものの、この価格で「ここまでやった」クルマは他に例を見ず(驚くべきことに2400万円くらいの”540C”でもカーボンモノコックシャシーを持っている)、コストパフォーマンス面においてもピカイチ、という印象です。
マクラーレンよりも速く走れるクルマはおそらく存在しない
そして走行性能についても同様に高く評価しており、マクラーレン以上に速いクルマは存在しないだろう、とも考えているわけですね。
それはYoutubeによく公開されている「ゼロヨン最速」に見られる加速に加え、スポーツカーの基本たるコーナリング性能、ブレーキ性能についても同様で、性能に関してはあらゆる面においてマクラーレン以上のクルマはない、と認識しています。
そこで今回はマクラーレン「スーパーシリーズ」最高峰の720Sですが、これは「セナ」をも凌ぐほどの加速を誇るクルマで、現在購入できるクルマの中では「最速」の一台であるのは疑いようのないクルマ。
マクラーレン720Sに積まれるエンジンは4リッターV8ツインターボ、出力は720馬力。
トランスミッションは7速デュアルクラッチ、駆動輪は後輪のみ。
重量は1322キロ、0−100キロ加速は2.8秒、最高速度は341km/hというスペックを誇ります。
なおボディサイズは全長4543ミリ、全幅1930ミリ、全高1196ミリ。
フェラーリ488GTB、ランボルギーニ・ウラカンに近いサイズで、どちらかというと「ウラカン寄り」。
ちなみにその価格は3502万円というプライスタグを掲げることに。※マクラーレンによる720Sの紹介はこちら
マクラーレン720Sの外観を見てみよう
マクラーレン720Sの外観は合理性に基づいて作られていることがひと目で分かり、「空気の流れが目で追える」造形を持つことが特徴。
つまり前から後ろまで、どこからどうクルマの外をエアが流れ、そしてクルマの中の熱がどう放出されるのか、エアがどう取り込まれてクルマの中を抜けるのかが手に取るようにわかるデザインを持っている、ということですね。
フロント中央からエアが左右に広がるのを起点に、それがプレスラインを通じて左右に広がり、涙型のキャビンを左右(と上)を通って、その通り道でエンジンの発した熱を回収しながら後方に抜けてゆく、ということが直感的に理解できる構造を持っていることがわかります。
サイドだとボディの表側はもちろん、ドアの内側を流れるエアまでもコントロール。
サイドステップ下部にもダクト。
こういったエアが後ろに集合してダウンフォースを発生。
マクラーレン720Sはかなり複雑な面構成、パーツ構成を持つクルマですが、何一つダミーはなく、すべてのデザインや部品にその理由が存在しているといった印象ですね。
「形状は機能に従う」というのは各社とも標榜するところだと思うものの、マクラーレンほどこれを体現しているメーカーはないだろう、とも思います。
そして最後にエアはエンジンの熱とともに車体を空気が剥離してゆくこともわかりますが、車体各部に用いられる「メッシュ」は非常に薄く細く、「自動車業界で最も」軽量化に注意が払われているんじゃないかと思えるほど。
とにかく細部に至るまで「それぞれのパーツや造形には理由があり、機能している」のがマクラーレン。
なお、フェラーリやランボルギーニ、ポルシェはその歴史の長さから、新型車のデザインに「過去のクルマ」をモチーフとして取り入れることがありますが、マクラーレンの場合はそういった「市販車の歴史」がなく、逆にそれを逆手に取り、過去に縛られること無く未来だけを見て進めるのかもかもしれません。
そしてあちこちのパーツがけっこう「メカメカしく」、見るからに頑丈で剛性が高そうなのもマクラーレンの特徴。
このあたり、「独立系自動車メーカー」であり流用パーツを使用していないことや、歴史を持たないので過去のパーツや設計にとらわれず、「(エアロダイナミクス、素材、設計や加工技術などすべてにおいて)現代の基準を用いて新設計を行った」ことがわかります。
つまりマクラーレンのクルマは「新しいメーカーであるがゆえ歴史を持たないものの、逆にそれに縛られず、最新の思想と技術でゼロベースから作った」というところが魅力なのだと思います。
例えばペダルのレイアウトや取り付け方を見ても理解することができ、それは「まんまレーシングカー」。
市販車を既存かつ基本ビジネスとして持つメーカーにはたぶんできないだろうな、という設計を持つのがマクラーレン。
なおMP4-12Cのものですが、こちらに発表当時見てきたマクラーレンのローリングシャーシ(ベアシャーシ)の画像を公開しており、これを見ると「現代の技術で完全新設計」を持つということがよくわかります。
ただ、マクラーレン720Sは「走り」最優先とはいえど、ルーフは「ガラスドーム」となり、キャビン内に光を取り込むほか、ミドシップスーパーカーとは思えないほどのクリアな視界を確保していることも特徴。
もちろんこういった部分にガラスを用いることは重量増加に繋がり、かつ車体上部なので「重心が高くなる」わけですが、それでも視界や開放感を確保している、つまり「快適性を犠牲にしていない」こともわかります(ただしこれは、開放感を重視するアメリカ市場を強く意識した結果かもしれない)。
マクラーレン720Sのインテリアはこうなっている
そしてマクラーレン720Sのインテリアですが、ディへドラルドアを開けると目に入るのはマクラーレン特有のカーボンモノコック、「カーボンモノセルⅡ」。
「Ⅱ」と名がつくとおり第2世代へと進化しており、乗り込むときに足がサイドシルに当たらないよう、開口部前方下部を「下げて」いるのが特徴。
インテリアはレザーがふんだんに使用され(アルカンターラも選べる)、スイッチにはアルミニウム製のトリムが採用れているために高級感も感じられますね。
センターコンソールは異常に「狭く」なっていますが、これはもちろん左右シートを近づけてロールセンターを適正化するため。
このあたりランボルギーニやフェラーリと比較しても「サーキット走行に特化した」設計であり、パフォーマンスを第一義に置いていることがわかります。
なお、この「左右シートの距離」はそのメーカーがどれだけ割り切れるかを表したものと考えてよく、というのもこの距離が近くなればなるほど乗員どうしの距離が近くなるので圧迫感が増してセンターコンソールに操作系を置きにくくなり、クルマの外からの距離も遠くなるので発券機からチケットを取ったりという行為が難しくなって「日常性を失う」ことに。
かつ、FRの場合はセンタートンネルにプロペラシャフトが通るので「かなり高い精度や強度の高いプロペラシャフトを用いないと細くできない」ということになりますが、たとえばレクサスLFAはここを細くするために航空機グレードの素材/加工を持つプロペラシャフトを採用することで「距離を詰めて」いるようです。
そういった様々な問題があり、しかしどれだけコストを払えるか、どれだけ犠牲を許容できるのか、それで得られるものをどれだけ重要視するのかをあらわすものが「左右シート間の距離」だとぼくは考えているのですね。
なお、マクラーレンよりもサーキットでのパフォーマンスに特化したロータスは文字通り左右シート(のショルダー部分が)が触れ合わんばかりの距離となっていて、これは明確なプライオリティが感じられるところ。
マクラーレン720Sの内外装の詳細については、発表時に720Sを見てきた際にそのインプレッションを公開しているので、そちらを参考にしてもらえればと思います。
マクラーレン720Sを見てきた。ここでその画像を大量アップ
他の画像はFacebookのアルバム「McLaren 720S」「McLaren 720S(2)」に保存中。
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