| ブガッティがW16クワッドターボエンジンのたゆまぬ歩みを語る |
ブガッティはエンジンのみではなく、それを受け止める駆動系についても相当に苦労したようだ
さて、ブガッティは2005年にヴェイロンへ「1,001馬力の」8リッターW16クワッドターボエンジンを搭載し自動車業界へと大きな衝撃を与えていますが、これはフォルクスワーゲングループという「大規模で保守的な」自動車メーカーが達成したこと、そしてこれを搭載したヴェイロンのパフォーマンスが0−100km/h加速2.5秒、最高速400km/h以上といった当時破格の数字を記録したことなど、様々な意味においてその後のハイパフォーマンスカーのあり方を変えたといっても過言ではなさそうです。
そして今回、ブガッティがこの8リッターW16エンジンの開発を振り返るコンテンツを公開しており、ざっとその内容を紹介してみたいと思います。
ブガッティのW16エンジンはこうやって誕生した
まずこのW16エンジンにつき、1997年当時、フォルクスワーゲングループの取締役会長であったフェルディナンド・カール・ピエヒ氏が、東京から大阪へ向かう新幹線の中で、同社のエンジン開発責任者カール・ハインツ・ノイマン氏に見せるため、封筒に描いた最初のアイデアからはじまっています。
当初このアイデアは18気筒であったものの、後に改良が加えられ現在のW16となりますが、奇しくもこれがブガッティ創業者であるエットーレ・ブガッティ自身が開発した16気筒エンジンへのオマージュとなったわけですね。
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20年前にブガッティ・オトモビル(現在のブガッティ)設立にかかわったひとりで、2022年2月まで同社の技術開発責任者を務めたグレゴール・グリース氏は「当時は、1000PSを誇る公道用のクルマが存在しうるとは誰も思っていませんでした。私たちは、パワフルなだけでなく、扱いやすいエンジンを構築できることを証明したかったのです」とコメント。
当時「1,000馬力」は前人未到
つまり、いかに1,000馬力を発生したとしても扱いにくくては意味がないということになり、(レース用エンジンを転用するのではなく)開発はゼロからのスタートとなっています。
すべての部品を新たに作ってテストしなければならなかったといい、ようやく形をなしたW16エンジンはV12エンジンとおおよそ同じ大きさ、そして重量は400kg。
シリンダーを「W」型に配置することでこのコンパクトさを実現していますが、2つの8気筒ブロックが互いに90度の角度で配置され、4つのターボチャージャーで加給されるという構成を持つに至っています。
前出のハインツ・ノイマン氏によれば、「当時は、12気筒以上の市販エンジンや350km/h以上の市販車に関する文献も実証データもありませんでした。この速度域でも車体はしっかり接地していなければならず、パワーを路面に伝えることができねばなりません。しかし、それを実現するエンジンの製作が可能であることを証明できたことは、我々にとって大きな前進であったのです」。
W16エンジンの開発には、3,500個以上の部品をすべて手作業で組み立て、その作業をコンピューターでモニターする必要があったといい、幸いなことに2001年に行われた初のテストでは、クワッドターボエンジンが要求される1,000+1 PSをすぐに達成したそうですが、あまりの高性能のために、従来のエンジンテストベンチとベンチレーションシステムでは対応できず、新しいシステムを特別に開発しなければならなかったと語っており、しかも排気ガスが想定以上に高温になるなどの問題もあって、これを解決するために、それまでの自動車業界では前例のなかった範囲にまで及ぶチタン製エグゾーストシステムを使用することになった、とのこと。
さらに追い求めたのはスムーズさと信頼性
目標の出力をを確保した上で、エンジニアが注目したのはスムーズさと信頼性であり、しかし16気筒はもともとスムーズな回転をするため、従来の方法ではエンジンのミスファイアやノッキングを検出することができず、そこでブガッティのエンジニアたちは、各スパークプラグに流れるイオン電流をモニターするブガッティ・イオンカレント・センシング(BIS)を開発。
BISはノッキング燃焼やミスファイヤーを検知すると、点火時期を遅らせたり、気筒を休止させたり、ブースト圧を下げたりするシステムで、これによってすべての気筒を限界性能で走らせることができる、とのこと。
加えてW16エンジンの信頼性を維持するため絶対に欠かせないのが冷却システムで、当然ながらこれも前例がなく、しかし自動車業界最大クラスの熱を冷却するために2つの水冷サイクルを持つ複雑な水冷システムを採用し、40リットルものクーラントがフロントエンドにある3つのクーラー経由にて高温サイクルを流れ、エンジンを最適な作動温度に保つことになります。
独立したウォーターポンプを持つ低温サイクルには15リットルの冷却水が注がれ、ターボチャージャーで加給されたチャージエアをエンジン上の2つの熱交換器で最大130度まで下げることが可能に。
デフオイル、トランスミッションオイル、エンジンオイルにもそれぞれのクーラーがあり、エアコンシステムの熱交換器も別途備え、W16は縦置きにミッドマウントされ、7速デュアルクラッチトランスミッションはエンジン前方に配置されるという構造を採用しています。
ブガッティ・オトモビル社長のクリストフ・ピオション氏によれば「この素晴らしいエンジンは、チームの計り知れない努力によってのみ、何度も何度も改良され、設計変更され、完成したのです。このユニークなエンジンには、エットーレ・ブガッティの信条である "匹敵するならば、それはもはやブガッティではない "という信念が凝縮されているのです」。
実際のところ、このエンジンはたゆまぬ改良を受けて2010年からはヴェイロン16.4スーパースポーツに搭載され、ここでは1,200PSを発生することに(このクルマは431.072km/hを達成し、ギネスブックに新たな1ページを刻んだ)。
そして時代は「シロン」へ
その後ブガッティはヴェイロンの販売予定台数をクリアし、その後継モデルであるシロンへとスイッチすることになりますが、ここでの目標は「よりラグジュアリーでよりパワフルに」。
そこでブガッティの開発チームはW16をよりパワフルに、より静かに、より洗練されたものにしたいと考え、技術の限界に再び挑戦することになりますが、ブガッティにてエンジン開発責任者を務めたティロ・フュルステンベルグ氏によれば、「同じ寸法とエンジン重量で出力を向上させるだけでなく、サウンド、消費、排ガスレベルを改善したかったのです」とのこと。
そのためコンパクトなエンジン形状と73mmというピッチだけは守り、それ以外はすべて新規に開発したといい、その結果として1,500PSを発生しつつも静かで効率的、かつパワフルなエンジンが誕生することになるわけですが、これはヴェイロン16.4のエンジン開発と比較して50%、ヴェイロン16.4スーパースポーツと比較して約24%の出力アップに相当します。
このエンジン最大のトピックは新しいシーケンシャル・ターボによるものだとされ、各ターボチャージャーは、最大で約380PSに十分なエアフローを供給しなければなりませんが、これを可能にするのが、2基のターボチャージャーが連続して作動する2ステージ・ターボ(シーケンシャル・ターボ)。※ターボチャージャーはヴェイロン比で69%大型化されている
(ブガッティCEOの)クリストフ・ピオションは「W16エンジンをこれほど長く、これほどのパフォーマンスを発揮すべく改良し続けることになるとは、誰が想像したでしょうか。1,001PSからスタートし、ヴェイロン・スーパースポーツとヴィテッセで200PSを追加しています。その後、2016年にシロンで1,500PSに大きく進化し、それから2019年にかけてシロンスーパースポーツとセントディエチではさらに100PSを追加しました。つまり、14年の間にW16の出力を60パーセントも向上させたのです。そのうえで、加速時の可変性、シロンスーパースポーツの素晴らしい縦加速、シロンピュールスポーツの特筆すべき横加速(コーナリングG)を実現したのです。シロン、シロン スポーツ、シロン ピュール スポーツ、シロン スーパー スポーツという4つのシロンの基本モデルには、それぞれ独自のドライビングスタイルがあります。コーチビルドモデルとなるディーヴォ、チェントディエチ、ラ・ヴォワチュール・ノワール、そしてこれから作られるボライド(ボリード)は言うに及びません。正直なところ、考えれば考えるほど、W16エンジンに感動してしまうのです」と語り、ブガッティが達成してきたことに対し、この上ない誇りを感じているようですね。
ブガッティがW16エンジンを紹介する動画はこちら
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