| なお、納車されたシロンのカスタムを行う際には内外装をすべて外し、ボディパネルの一部は再度作成を行ったようだ |
おそらくそのコストは天文学的数字であろうと思われるが、そのコストを投資させるところにブガッティの価値の本質がある
さて、ブガッティは自社にて展開するパーソナリゼーションプログラム「シュールムジュール」を通じて様々なカスタム仕様のハイパーカーを公開していますが、今回は「夫婦で色違い」、しかもボディ表面に”反射する光”を視覚したバギュ・ドゥ・リュミエール仕様のカラーリングを施した2台を納車した、と発表。
この2台が製作された背景は少しユニークで、まずこの夫妻は「何台も」ブガッティを所有していたものの、それまで新車でブガッティを購入したことはなかったのだそう。
妻のブガッティを見て夫も「同じ仕様に」
ただしこの夫婦はブガッティに対して非常に高い情熱を持っており、よって夫婦で2台それぞれのシロン・スーパースポーツを購入することになるのですが、まずは夫のシロン・スーパースポーツ(おそらくはほぼ通常の仕様)が先に納車されることになります。
その後夫妻はブガッティ本社を訪れ、その際に見たのが「妻のシロン・スーパースポーツが製造されてゆく様子」。
この妻のシロン・スーパースポーツは「ボディに反射する光」をコントラストとして表現するバギュ・ドゥ・リュミエールという仕様を持つものですが、妻がこれをオーダーしたのは「12年前に発表され、ずっと妻の心を捉えて話さなかったヴェイロン・ヴィテッセ・ロル・ブラン(下の画像)を再現したいと考えたから」。
ヴェイロン・ヴィテッセ・ロル・ブランはブガッティとベルリン王立磁器工場(Konigliche Porzellan-Manufaktur = KPM)とのコラボレーションによって誕生した特別モデルで、これはブガッティ創業者であるエットーレ・ブガッティの「通常、自動車に使われない新しい素材を試すことを好んだ」という事実に由来しており、デザイナーのアキーム・アンシャイト氏が考案した手法をまとって世に送り出され、各方面へと大きな衝撃を与えることとなったわけですね(自動車史に残る偉業だと言っていい。これを模したカスタムを行う例はブガッティ以外でも少なくない)。
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そして妻はかねがねこのグラフィックを自身のブガッティに反映させたいと考えており、そして新車のシロン・スーパースポーツを注文する際「ついに」その夢を叶えることとなったわけですが、このボディカラーはロッソ・エフェスト(レッド)とアランチョ・ミラ(オレンジ)にて構成されています。
このカラーは彼女、そしてシュール・ムジュールのデザイナーであるヤッシャ・ストラウブ氏とのセッションの中で生まれたもので、「文字通り個性的極まりない、唯一無二の外観を構築することに。
時間軸をちょっとだけ前に戻すと、夫はブガッティの工場にて妻のシロン・スーパースポーツが製造される姿を見て「稲妻が走ったような」衝撃を受け(フランス語で言うと”Coup de Foudre”、これには一目惚れという意味もあるらしい)、そこで自分のシロン・スーパースポーツを同じ仕様へと改装することを思いつき、ブガッティのスタッフと相談した後にテネシー州の顧客の自宅からフランスのモルスハイムにあるブガッティの本社へと輸送して「改修」を依頼します。
ただ、「比較される対象が存在すれば、それはブガッティではない」という信念を持つだけあって、ブガッティはこのシロン・スーパースポーツを単に「塗り直す」だけではなくボディパネルを一部ヴィジブルカーボンファイバーにて作り直すことになり、そしてこのカーボンファイバーの織柄が完璧にならぶようミリ単位で調整され、しかも正確な公差を達成するために構造用接着剤が完全に硬化するまでに時間を置くなどの対策が必要となったのだそう。
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結果としてこのブルーのバギュ・ドゥ・リュミエールが完成するまでには7ヶ月を要するものの、こうして妻と夫との「お揃い」のシロン・スーパースポーツがついに誕生したわけですね。
ただ、夫のシロン・スーパースポーツについては「完成したクルマを作り直すので」相当な手間がかかったといい、まずボディパネルを取り外し塗装にかかるまでの準備を整えるのに数ヶ月。
カーボンファイバー製のボンネット、ルーフ、エンジンカバー、リアウイングをすべて交換し、さらにはルーフの一部をガラスに変更する「スカイ・ビュー」への改装も指定されたため、オリジナルのルーフパネル全体をモノコック構造から取り外す必要が生じ、これに際しては内装をほぼすべて外す必要があったと説明されています。
この特別な塗装を施す複雑な工程には数週間を要するそうですが(以前のプレスリリースでは5週間)、まずクルマの上を流れるラインを表す2次元の図形を作成し、それを車の3次元表面にミリ単位の精度で貼り付け、そしてマーキングされた線に沿って手作業で、何層にも何層にもコントラストカラーを丹念に塗り重ねてゆき、その線がデザイナーの意図に沿わない場合は、形状が完璧になるまで修正テープを元の線の上に貼ることに。
そしてこの工程はすべての線が正しい流れと特徴を持つまで繰り返されるのだそう。
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これらの線が完成したのちにはクリアコートを何層にも重ねて塗装を固着させ、その結果として深い光沢のある塗膜を形成して完成となり、夫の方は妻のシロン・スーパースポーツを見た時の驚きをあらわす「Coup de Foudre」という文字がウイングの裏面に再現され・・・。
妻のシロン・スーパースポーツには「オーラ(L'aura)」。
なお、前出のデザイナー、ヤッシャ・ストラウブ氏は「バギュ・ドゥ・リュミエール自体はブガッティにとって新しいものではない」と前置きしつつも「どのように見えるかについては、お客様それぞれにご希望があり、車ごとに異なるパターンが必要です。例えば、シロン・ピュールスポーツとシロン・スーパースポーツではボディ形状の差異に起因して反射の仕方が異なるため、毎回、完璧を期すために一から作り直しています。このクルマの真の美しさは、その個性にもあります。すべてのペインターが異なるスタイルを持っているので、1台1台が完全にユニークなのです。最近、カリフォルニアの明るい日差しの中で初めてこのクルマを見たのですが、信じられないような美しさでした。私たちが一緒に作り上げたものは、感動的な彫刻です」とコメント。
そして新車だけではなく、すでに納車されたクルマであってもこういったカスタムを施すことでができるというのは「ブガッティならでは」でもあり、ますます自身のコレクションに愛着が湧こうというものですね。
なお、今回の改装にかかったコストについては公表されていないものの、輸送まで含めると数千万円、もしかしたら「億」くらいのお金がかかっている可能性があり、そしてそこまでしてカスタムしたいと思わせるクルマがブガッティで、その金額に価値を見出すことができるのが「ブガッティの技術」ということになりそうです(いくらお金を持っていたとしても、それに見合う対価の提供がなければ、お金持ちは自分の資金を投じない)。
これらブガッティ・シロン・スーパースポーツのインテリアも「完全にユニーク」
そして外装にこれだけのこだわりを反映させたからには内装も普通であるはずはなく、妻バージョンのシロン・スーパースポーツのインテリアは「レッドにオレンジ」。
センターコンソールには「L'aura」の文字。
夫バージョンのインテリアはブルーに貼り替えられ、ドアインナーパネルにもバギュ・ドゥ・リュミエール模様が反映されます。
そしてセンターコンソールには「Coup de Foudre」。
今回の「改装」に際し、ブガッティのアフターセールス・ワークショップの責任者、フレデリック・ストックス氏は以下のようにコメントしており・・・。
オーナーになって間もない、まだ新しいクルマの個性を完全に変えるよう依頼されたことは、これまでありませんでした。しかし、ブガッティ・アフターセールス・チームの経験と知識は、他の追随を許しません。カスタマイズから納車まで、カスタマーサービスは、ブガッティのカスタマージャーニーのすべてのステップが、私たちのクルマと同じくらいユニークで比類のないものであることを確信しています。
その結果、シロン・スーパースポーツのオーダーメイドは、情熱と創造性の勝利であり、お客様の個人的なビジョンとブガッティ・チームの創造性が一体となったものです。
一方、ブガッティのマネージング・ディレクター、ヘンドリック・マリノフスキ氏は以下のように語っています。
ブガッティのような自動車メーカーは他にありません。それぞれのお客様が求めるパーソナリゼーションは、ブガッティだけが提供できる比類ないレベルのクラフトマンシップの証です。ブガッティのエキスパートにはそれぞれ異なるアプローチがあり、出来上がったクルマは、それぞれの職人の芸術的スタイルだけでなく、お客様のビジョンを反映した、まったくユニークなものとなります。この2人のお客様にとって、そのプロセスの違いは明確でした。しかし、両者とも私たちのブランド全体を貫くサヴォアフェールを示しており、私たちの最も革新的で美しい作品のひとつである不朽の名車、ヴェイロン・ロワ・ブランにインスピレーションを得たのです。
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参照:Bugatti