BMW i3は久しぶりにVWアウディグループ以外に購入した車ですが、購入に際してBMWはじめ色々なメーカーの車に試乗し、感じたことが幾つか。
VWアウディグループの車は、一般的に初期のアタリが柔らかく、ストロークがあり、しかしダンピングが強い印象。
この傾向はポルシェ、ランボルギーニなどスポーツ性の高いモデルに顕著ですね。
VWアウディグループのやアウディなどより一般性の高いブランドになるとダンピングが弱くなりますが、それでも初期の衝撃吸収性が非常に高い(つまり乗り心地が良い)のが特徴です。
ポルシェにおいては(当時はVWアウディグループではないですが)996/986世代までには比較的初期のアタリを固くし、「固めて安定性を出す」方向にあったように思います。
ですが997/987世代で20インチサイズのホイールや、より大きな外径を持つタイヤを採用したあたりからすこし方向性が変わり、初期の衝撃、鋭い衝撃に対するサスペンションの衝撃吸収性が大きく変わっています。
それまでは段差があると「身構える」ほど強い衝撃を感じたものですが、997/987世代以降は「身構えること無く」段差を超えることができ、現在の991/981世代では更にそれが顕著。
そのために、「ゴツゴツしない」快適な乗り心地を再現出来ており、サスペンションが十分ストロークするのに過度なロールをしない、というセッティングになっています。
おそらくはなんらかの技術の進歩、ジオメトリの変化、タイヤ大径化を前提としたシャシー全般の見直し、等があったと思われますね。
ただ、これは「簡単に」実現でき、再現できる乗り心地ではないことを、ぼくは様々な車の試乗を通じて知ることになるわけです。
たとえば、BMWのスポーツモデルの場合、「固める」ことでスポーツ走行に対応している傾向があり、初期のアタリからかなり固く、ゴツゴツした印象かつ、サスペンションのストロークがかなり短い模様。
そして、このゴツゴツ感を解消するための策なのか、ダンピングは比較的弱いようです。
つまり、VWアウディグループの「初期のアタリが柔らかく、ダンピングが硬い」のに対し、BMWの「初期のアタリが固く、ダンピングが柔らかい」というセッティングは真逆とも言え、ここが各メーカーの考え方が現れ、面白いところ。
どっちが良いかは好みの問題ですが、どちらにせよサスペンションが車に与える影響を理解し、もちろんですが意図的に行っている、ということに注目する必要があります。
加えて、自動車メーカーであれば、サスペンションと乗り心地や運動性能の関係は熟知しているはずですが、様々な理由でそれが市販車に反映されるとは限らないわけですね。
それは部品共通化、研究開発費の問題(削減)、対象ユーザーの曖昧さ、実走して試す期間やノウハウの少なさ等あり、それが行き過ぎると「そのメーカーの車は、どれに乗っても同じ乗り心地」になったりします(国産に多い)。
ポルシェの場合は、ボクスターとボクスターSにおいて、基本的にこれらの差はエンジン程度しかないのですが、乗り心地が完全に異なります。
ボクスターは軽快で、よりステアリングとアクセルで操る傾向が強く、ボクスターSはどっしりと安定していてスタビリティが高い印象。
これは対照とする速度域が異なることが理由ですが、ポルシェは同じパーツと構造を使用していても、「どこをどうすれば、その車の乗り心地や走行安定性がどう変化する」かが理解できている、ということですね。
つまり、「狙ったセッティングを自由自在に出せる」ということなのだと思います。
国産の場合、ベースグレードから上のグレードもしくはスポーツグレードになったとして、ここまでの差は経験上ありません。
つまり狙ったセッティングを「出せない」か、もしくはコストの関係で「やらない」か、ということなのだと思います。
そしてこのセッティングというのは非常に重要で、それはモータースポーツの世界を見るとよくわかり、やはり日本勢が”弱い”ところではありますね。
モータースポーツにおいて国産が勝つのが難しい、という現状を考えると、やはりセッティング含め車の設計技術に欧州勢との差があると考えられ、モータースポーツで”強い”メーカーほど、この部分に長けていると考えて良いでしょう(競技用とは言え、技術は市販車にフィードバックされる)。
なお、一部のメーカーは「固めること」のみが正義だと考えており(固めればそのぶんコーナリングスピードが高くなると考えている)、しかし硬さをごまかすためにシートをやたらと柔らかくしている、というスポーツモデルも存在します。
一般的に乗り心地を良くしようとすると足回りは柔らかくなりますが、そうなるとロールやピッチングが大きくなり、車の挙動は不安定に。
逆に固くすれば安定はしますが、乗り心地は悪くなる傾向に。そして、固めすぎるとブレーキ/アクセル/ステアリング操作の連携で曲がる=操る、という楽しさも無くなるかもしれません。
シートも同様で、柔らかければすわり心地が良いですが、インフォーメーションは少なくなります。硬くなるとその逆ですね。
そしてもうひとつ、技術的な問題のほか、ターゲティングの問題も。
ポルシェやBMWの場合は、モデルごとに明らかな想定ユーザー層を設定しているように思いますが、日本車の場合は販売台数が多いせいか、想定ユーザーが曖昧なように思われます。
これが明確だと「こんな入力に対して、こういった出力を行う」車にしたいというのが明らかになると思うのですが、これが曖昧だど「誰が乗ってもまあ無難な」セッティングになるのは仕方のないところですね。
技術的なもの、設計の際のターゲティングなど、様々なバランスが重要なのですが、これがうまく出来ているメーカー/そうでないメーカー、というのが試乗を通じてわかったりして、そこは試乗の面白いところですね。