
Image:BMW
| BMWは「完全EV化」の公約をしていない |
「パワートレーンの移行」は法規制ではなく消費者の意思によって行われるべきである
アウディ、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、ボルボといった欧州ブランドが数年前に掲げた「完全EV化」の目標を相次いで軌道修正する中、BMWは当初から「期限を区切ったEVシフト」を宣言していない数少ない自動車メーカーの一つとして知られます。
BMWはあくまでも「パワートレーンは押し付けではなく消費者が選択するもの」という意志のもと様々な選択肢を残していますが、2030年までに「ガソリンとEVの需要が半々になる」と予測する一方、欧州連合(EU)が計画している2035年の内燃機関禁止には賛同していないというスタンスを保っているわけですね。
実際のところ、BMWの最高技術責任者(CTO)、ヨアヒム・ポスト氏もオーストラリアの『CarExpert』誌のインタビューであらためて次のように語っており、現在の「規制主導型」パワートレーンの移行については強い懸念を表明しています。
「最終的に決めるのは顧客です。規制当局ではありません。」
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EUの「拙速な禁止」に警鐘
さらにポスト氏は2035年にガソリン車の販売を禁止するというEUの方針につき、次のように強く反発。
「充電インフラや電力価格、需要動向を無視して2035年に内燃機関を禁止するのは愚かです。そんなやり方をすれば業界を殺してしまう。」
この見解はメルセデス・ベンツCEOオラ・ケレニウス氏の発言とも重なっており、同氏も最近「欧州自動車産業は全速力で壁に突っ込もうとしている」と警告していて、実際にメルセデス・ベンツ自身も方針を修正し、内燃機関を当初の計画より長く存続させることを決めたことが報じられています。
EV普及率はまだ限定的
欧州自動車工業会(ACEA)の最新データによると、EUにおけるEV販売比率は2025年1月〜8月で15.6%。
イギリスやノルウェーなどEFTA加盟国を含めても17.4%にとどまっていて、つまり、まだ多くのユーザーがガソリン車を選んでいるのが現実です。
この状況を踏まえると、ポスト氏が「市場の声を無視してはいけない」と主張するのも当然の流れなのかもしれません。
BMWにとっての内燃機関の重要性
BMWは依然として直列3気筒からV12まで幅広いエンジンを販売しており、トヨタやランドローバー、イネオスなど外部メーカーにも供給しています。
さらに社名のうち「M」はドイツ語で「モーター(エンジン)」を意味し、ブランドの根幹とも言える存在。
内燃機関は依然として大きな収益源であり、EVラインナップが拡大している今でも手放すわけにはゆかない、と考えることにも納得がゆきますね。
欧州市場の影響力
BMWグループ(BMW+MINI+ロールス・ロイス)は2025年上半期だけで欧州で約50万台の車両を販売していますが、これはアジア(43.8万台)、米国(19.3万台)を大きく上回る数字です。
中でも中国市場(31.7万台)は依然として最大の単一国市場ですが、欧州の存在感は無視できないレベルにあり、そのため、2035年の内燃機関禁止が実施されれば、BMWの業績に直接的かつ大きな影響を与える可能性が考えられます。
つまり、いかにBMWがいかにEVに注力しようとも、失った内燃機関搭載車の販売をすべてEVでカバーできるわけではなく、顧客の中には「高額なEVの購入をためらい」内燃機関搭載車を保有し続けたり、BMWではなく中国製の”より安価な”EVへと買い替えるという行動も予想され、内燃機関禁止はどう転んでもBMWそして欧州の既存自動車メーカーにとって「いい話ではない」のかもしれません。※中国の自動車メーカーにみすみす市場を明け渡すことにもなりかねない
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自動車業界全体の懸念
そのため、BMWだけでなく、他の大手メーカーもEUに対して禁止措置の再考を求めているのが現状で、EUは2025年に方針を再検討する予定ではあるものの、もしこれまでの決定を強行すれば、
- 大規模な雇用喪失
- 欧州自動車産業の競争力低下
- 世界市場における立ち位置の後退
といったリスクが懸念されています。
まとめ
BMWの重役が示すように、EVシフトは顧客の選択肢を尊重しながら進めるべきであり、規制一辺倒のアプローチには危険が伴うのもまた事実。
欧州が下す決断は、今後の世界自動車産業の行方を左右するものとなる可能性が高く、そのため各自動車メーカーとも「なんらかの決定がなされるまで、迂闊に動けない」状態なのだとも考えられます。
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参照:CarExpert