| まさにメルセデス・ベンツの運命を変えてしまった一台だとも考えられる |
そしてメルセデス ベンツ 300 SLはメルセデスにとっての「大いなる遺産」でもある
さて、メルセデス・ベンツは歴史上数多くのアイコニックなクルマを持ちますが、今回メルセデス・ベンツ・ミュージアムが「メルセデス ベンツ 300 SL クーペ (W198) 」に焦点を当てるコンテンツを公開。
なお、このメルセデス ベンツ 300 SL クーペ は博物館内の「レジェンド ルーム4」に展示されているそうですが、メルセデス・ベンツいわく「このクルマを素通りする人はほとんどいない」。
メルセデス ベンツ 300 SL クーペ は「戦後の奇跡」
メルセデス ベンツ 300 SL クーペ が最初に公開されたのは1954年2月6日のニューヨーク国際モータースポーツショーで、当時は想像することすら難しかった「ガルウイングドア」を装備しています。※ガルウイングばかりに目が行くが、大きなセンタースターを備えたフロントデザインも当時のメルセデス・ベンツとしては”新し”かった
もちろんその斬新なドア、そしてそれを開いた迫力の外観は多くの人々を驚かせたといいますが、実際にこのガルウイングドアは今日であっても自動車におけるもっとも魅力的なディテールだと言っても過言ではないかもしれません。
もちろん当時のメルセデス・ベンツもこの300SLがいかに画期的であったかを承知しており、他よりも一段高い台座の上に展示され、すぐ隣には190SL(W121)が展示されることでお互いを引き立てたといいます。
なお、発表の場が本拠地であるドイツでなかったのは、これら両者が「アメリカ市場をターゲットとしていたため」なのだそう。
「ガルウイングドア」は必然の産物であった
このメルセデス ベンツ 300 SL クーペ(W198)のルーツは同名のレーシングカー(W194)にあり、この(レーシングカーの)メルセデス ベンツ 300 SL クーペは、ミッレ ミリア、ル・マン24時間レース、カレラ・パナメリカーナなど、世界で最も華やかな、そして国際的なスポーツカーレースにて勝利を収めたことでも知られており、その遺伝子を色濃く受け継いだのが市販モデルのメルセデス ベンツ 300 SL クーペ(W198)。
なお、このガルウイングドアはマーケティング上の理由からの採用ではなく、つまり奇をてらったりデザイン的に目立とうとして取り入れたわけではなく、「エンジニアリング上の必要性から」。
W198の車体構造はW194同様に軽量かつ頑強な鋼管スペースフレームをベースとしており、サイドシルに相当する部分が(ボディ剛性を高めるために)高く設けられ、そのため通常の横開きドアを装備すると、ドアの上下幅が「少し」しかなく、よって乗り降りが非常に困難であり、そこで「高いサイドシルをまたぎつつ、ルーフに頭をぶつけないよう」乗降できるように考案されたのがこのガルウイングドアというわけですね。
この「ガルウイングドア」を備えるメルセデス ベンツ 300 SL クーペは展示されるやいなやすぐにセンセーションを巻き起こし、しかし当初からこの呼び名があったわけではなかったもよう。
アメリカ人はこのドアを「ガルウィング」と呼び、フランス人は「パピヨン(蝶)」と呼んだそうですが、メインとする市場が米国であったせいか、今日に至るまで「ガルウイング」と呼称されることが多く、メルセデス・ベンツも公式に”ガルウイング”と表現しています。
ただ、このガルウィングドアは「そう簡単に」実現できるものではなく、ドアがスムーズにスイングして開く必要があり、そしてドアが下がるようなことは(安全上の理由から)あってはならず、そして市販スポーツカーとしての快適性を保持するため、適切な位置で保持される必要があります。
加えて(メルセデス・ベンツのポジションを考慮すると)開閉機構も「目立っては」ならず、実際にメルセデス ベンツ 300 SL クーペのガルウイングドアに採用されるダンパーはエレガントなクローム仕上げに。
しかしながらどうしても解決できなかった問題もあり、それは「ウインドウの昇降機能」。
メルセデス ベンツ 300 SL クーペのサイドウインドウには小さな回転式の三角窓があるものの、サイドウインドウは開閉もしくは昇降できず「取り外し式」。
よってサイドウインドウは「全閉か全開か」の二択となり、外したウインドウはトランクに収納する必要が出てきます。
さらにメルセデス・ベンツは「乗降性を向上させるため」可動式ステアリングコラムを採用していて、このピボット式ステアリングコラムを採用することで乗降時の足元スペースを拡大できる、とのこと。
なお、1957年に登場した300SLロードスターでは(ハードトップを備えないので)ガルウイングドアが廃止され、かわりにサイドシルの位置を下げることによって「横開きの」フロントヒンジドアを備えていますが、メルセデス・ベンツは当時からスポーツカーに対して「利便性」「快適性」を非常に重視していたということがわかりますね。
そのほか、メルセデス・ベンツは「エレガントさと空力」を考慮してポップアップドアハンドルを300SLに採用しており、これは突起部分をプッシュするとグリップ部分が持ち上がるという仕様を持ち、これは現代のメルセデス・ベンツの最新モデルにも通じる部分だとも考えられます。
もちろんメルセデス ベンツ 300 SL クーペはその革新的でエレガントな外観だけではなく、市販車としては望外の走行性能を持っていて、高性能なサスペンション、理想的な重量配分、先進的な6気筒エンジン等を装備することで「スーパースポーツ」とも言える存在に。
メルセデス ベンツ 300 SL クーペは4ストローク直噴式エンジンを搭載した世界初の量産乗用車としても知られますが、この混合気形成により、エンジン出力がレーシングバージョンであるW194の170馬力に比較して25%も向上した215馬力にまで引き上げられており、最高速は250km/hにも達します。
かくしてメルセデス・ベンツがスポーツカー界、ラグジュアリーカー界に起こした「クーデター」は見事成功し、非常に高額であった価格設定にも関わらず300 SL クーペは1954年から1957年にかけて1,400台を、続いて300 SLロードスターが1,858 台生産され、今日に至るまで多くの人々を魅了し続けているわけですね。
そしてもちろん、SLS AMGほか多くのメルセデス・ベンツ車に(構造やフォルム、ディティールなど)様々な影響を与えたクルマとしても知られ、この300 SL クーペなくして今日のメルセデス・ベンツは存在し得なかったのかもしれません。
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