| その理由を色々と考えてみた |
さて、ブガッティはサーキット走行専用の「新型ハイパーカー」を10/28(現地時間)に発表する予定ですが、今回はその構造についてのティーザー画像を公開しています。
これを見るといくつかの事実が明らかになっており、まずはプロペラシャフトがフロントに伸びており、つまりは「4WD」。
そしてステアリングホイールはレーシングカー同様の形状を持っているのでステアリングレシオはサーキット専用に調整されていること、そしてその上に乗っているメーターもレーシングカー然としていることがわかりますね。
加えてシートポジションについては「地面に座っている」のとほぼ同じくらい低く、タイヤはスリック。
ブガッティはかなり特殊な構造を持っている
ただ、今回ぼくがこれを見て「え?」と思ったのはそのエンジンの位置。
搭載位置的には「ミドシップ」ということになろうかと思いますが、なんとトランスミッションが「エンジンの前」にあるワケですね。
なぜそれが驚きなのかというと、通常のミドシップカーでは、エンジンの「後ろ」にトランスミッションとデフが一体化したユニットがあり、そこから左右のタイヤへと動力を伝達するためのドライブシャフトが生えるという構造を持っています。
ただし今回のティーザー画像を見ると、FR車のトランスアクスルレイアウトよろしくエンジンの前にトランスミッションがあって、これはミドシップカーとしてはかなり「稀」。
今回の新型ハイパーカーについては完全新設計とは(コスト面で)考えにくく、シロンをベースにしているということになりそうですが、ちょっと調べてみるとたしかにシロンもエンジンの前にトランスミッションがあるようですね(知らなかった)。※ランボルギーニ・アヴェンタドールもブガッティ・ヴェイロン/シロンと同様のエンジン/トランスミッション位置を持つとの情報をいただきました。ありがとうございます。
一般的なミドシップスポーツはこんな構造
じゃあ普通のミドシップスポーツはどうなってるのということですが、こちらはアウディR8(初代)。
アウディR8と多くを共有するランボルギーニ・ウラカンも同じ構造を持っています。
マクラーレンやフェラーリも同様で、先日公開されたゴードン・マレーT.50もエンジンの後ろにトランスミッションがあるという構造です。
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なぜ4WDミドシップスポーツがこういった構造を採用するのかということについて、当然ながら重量物を車体の中央に集めたいということになりますが、じゃあブガッティがどうして「セオリー」を無視してトランスミッションを前に持ってきたのかはちょっと謎。
たとえばポルシェ911は「リアエンジン」レイアウト、それに起因して(ブガッティ同様)トランスミッションをエンジンの前に持つことで知られ、しかし重量物が車体後部に集中することで(トラクションが掛かりやすいというメリットがあるものの)様々なデメリットも生み出すことになってしまい、RR特有のナーバスな挙動を持つことでも知られます。
なぜブガッティのトランスミッションは「前」?
ブガッティの特異なレイアウトにつき、考えられる理由としては、まず「エンジンの巨大さ」。
8リッターW16という企画外れのエンジンを搭載しているということに起因するとも考えられ、しかしこれは決定的な理由とはなりえず(エンジニアリング的に解決できる問題でもある)、やはり別の理由があるのかも。※V8を2つ横に並べているので、エンジンそのものは長くない
そこでブガッティ特有の理由を考えてゆくと、やはりその「最高速」。
最高速を追求するのにエンジン搭載位置が直接影響するわけではありませんが、パーツが「常軌を逸した速度で」回転するため、通常では起こり得ない問題が発生するとも言われます。
たとえば(ヴェイロン発売)当時、ブガッティが語っていたのは「遠心力で経典部品に塗布したグリスが一瞬で飛び散り、回転系のグリスがすぐになくなる」。
通常の(といっても300km/hオーバー)速度では起こり得ないことが400キロオーバーの世界では起こりうるということになり、エンジンパワーを上げることよりも何よりも、こういった遠心力との戦いにもっとも苦労したと言われていますね。
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そこでぼくが推測するのは、「4WDありき」で設計されたヴェイロン/シロンについて、ブガッティはプロペラシャフトを短くしたかったんじゃないかということ。
たとえば、エンジンをランボルギーニ・ウラカンと同じようにバルクヘッド直後にマウントし、その後ろにトランスミッションを搭載すると、「エンジンの後ろにあるトランスミッションから」フロントへと動力を伝えるプロペラシャフトを設ける必要があります。
そしてこのプロペラシャフトは高速回転時に「ブレ」が生じることになり、よってブガッティはこれを短くすることでブレを抑えようとしたんじゃないかということですね。
なお、この「ブレ」はバカにならず、実際に多くのミドシップ4WDではこの振動を発生させることになり、今回ぼくがウラカンの購入に際し、4WDではなくRWDを選んだのは(4WDだと)その振動がどうしても気になったため。
ちなみにレクサスLFAはFRレイアウトですが、フロントからリアに動力を伝達するプロペラシャフトのブレを極力抑えるために「航空機グレードの」素材と加工方法を用いているとされ、つまりプロペラシャフトはそれくらいブレる(ブレて当たり前であり、それを前提にモノを考える必要がある)、ということですね。
たしかにヴェイロンのスケルトン図を見ると、エンジン前にあるトランスミッションから前後にプロペラシャフトが伸びていて、これは一般的なミドシップ4WDに比較すると「かなり短い」構造です。
ただ、この構造を採用したがためにエンジン搭載位置がやや高くなっているようにも見え、しかし「最高速を追求するにはこの方法しかなかった」のかもしれませんね。
ただし今後はこういった問題は過去のものに?
ただ、今後のミドシップ4WDについてはこういった「プロペラシャフトのブレ」、「それを回避するために重心が高く、後ろ寄りになる」という問題を解決できる可能性が高く、というのも「エレクトリック化を活用すればいいから」。
たとえばポルシェ918スパイダー、フェラーリSF90ストラダーレ、ホンダNSXは「後輪はガソリンエンジンで、前輪はエレクトリックモーターで」という方法で4WDを実現しており、これだとリアからフロントへとトルクを送る物理的な構造を持つ必要がなくなります。※下の画像は、ポルシェ918スパイダーと同じ構造を持つランボルギーニ・アステリオンLPI910-4
そのぶんバッテリーやエレクトリックモーターなど重量物を積むことになるものの、省略できるユニットも多く、総合的に考えるとプラスに働くのかもしれません。
しかしながら、すでにこれまでの方法で設計されたミドシップ4WDが急に「フロントモーター採用の4WD」へシフトできるかというとそうではなく、これは完全新設計となる次世代への移行を待つしか無いだろう、とも考えています。
ちなみにフェラーリSF90ストラダーレはそういった「ハイブリッド4WDスポーツ」の中でも最新世代であり、おそらくは完全新設計されていると見え、エンジン搭載位置が「異常に」低く、かつ奥に入っているという構造を持っているようですね(メカニックは整備が大変だろうな・・・)。
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※一部を修正し、再送しています