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| ランボルギーニは「パーソナライズ」を重視している |
はじめに:カスタマイズを超えた「オートクチュール」の創造
ランボルギーニの顧客が最も高く評価する特長の一つに、「一台の車を唯一無二の芸術作品に変えることができる」という排他的な可能性が挙げられます。
それは、あたかもオートクチュール(高級注文服)のガウンを仕立てるかのような細心の注意と情熱をもって実現されるもので、この可能性については「制限がない」とも。
なお、ランボルギーニとフェラーリは同じイタリアのスーパーカーメーカーということでたびたび比較されることもありますが、実際には多くの点で相違があり、そしてこの「パーソナライズ」についても同様です。
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どういったことかというと、フェラーリは「ブランドイメージ」を最重要視し、いかに顧客の要望であっても「(ブランドイメージを守るため)受け入れない」カスタムが存在する一方、ランボルギーニは「制限を設けない」としていること(顧客の要望を最優先)。
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これは、以前にジャスティン・ビーバーが「フェラーリの意にそぐわないカスタムを行うことで」ブラックリスト入りし、その際にランボルギーニがこれに対するアイロニーとして「我が社ではカスタムの範囲には制限を設けていませんよ」とコメントした事実からも理解が可能です。
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ランボルギーニはどうやってカスタム「パーソナライズ」を行うのか
このランボルギーニによる究極のパーソナライゼーションを可能にしているのが、2011年にランボルギーニ本社で発足した「Ad Personam(アド・ペルソナム)」プログラム。
その成功は数字に裏付けされており、現在生産されるランボルギーニの94%以上が、このプログラムによる何らかのカスタマイズ要素を含んでいます。
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その中でも、「ボディカラー」は常に最も象徴的で、リクエストの多い要素だといい(ぼくが以前に乗っていたウラカンEVO RWDのボディカラーもアドペルソナム)、アド・ペルソナム・チームとチェントロ・スティーレ(デザインセンター)の創造性によって、ランボルギーニはこれまでに400色以上のカラーヘリテージを築き上げることに。
そしてそれぞれの色は、単なる色見本ではなく、顧客、車、そしてブランドの絆をさらに深める物語や伝説、逸話を内包しています。
1. 神話と伝説に由来する色彩のネーミング
ランボルギーニのカラー名には、ギリシャ・ラテン叙事詩に深く根ざしたものが多く採用されていますが、これらは単なる偶然ではなく意図的な選択であり、車両に英雄的なオーラを授け、人類の象徴的遺産である神々、歴史上の人物、星座と結びつけることを目的としているのだそう。
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神々・星座からのインスピレーション
カラー名(日本語訳) | インスピレーション源 | 意味合い |
Nero Nemesis(ネロ・ネメシス) | ギリシャ神話の「ネメシス」(応報・正義の女神) | 正義の女神、または裁きのローブの色を想起させる。 |
Arancio Apodis(アランチオ・アポディス) | 南天の星座「フウチョウ」(極楽鳥座) | 主な星が「オレンジ色の巨星」である星座に捧げられた色。 |
Viola Pasifae(ヴィオラ・パシファエ) | クレタ島の女王「パシファエ」(ミノタウロスの母) | 神話的な威厳と神秘性を表現。 |
Blu Cepheus(ブルー・ケフェウス) | ギリシャ神話のエチオピア王「ケフェウス」の星座 | 地上と天空を結ぶ青。イタリアでは秋に見える北天の星座。 |
Grigio Telesto(グリジオ・テレスト) | 土星の衛星「テレスト」またはギリシャ神話の同名の人物 | 1980年に発見された衛星、または神話的人物に由来する多層的なミステリー。 |
これらのネーミングは、ランボルギーニの車が単なる移動手段ではなく、神話的な速さと力を具現化した存在であることを強調する専門的な手法でもあるわけですね。
2. 時代と情熱の記憶を刻む「アニバーサリー・カラー」
色の中には、特定のイベント、記念日、または偶然の出来事と結びついた、ユニークな物語を持つものも存在します。
逸話が色を生んだ「Verde Scandal」
Verde Scandal(ヴェルデ・スキャンダル)の伝説は、1960年代後半に遡り、カタログにないグリーンの色を望んだ女性顧客が、(自身の)着ていたドレスを指差し、その色を忠実に再現するよう要求したという逸話が残っています。
そして、サンプルとしてその場でドレスを脱いで提供することをためらわなかったという、ブランドと顧客の情熱的な逸話がこの色の誕生の背景にあるとされ、ヴェルデ・スキャンダルは文字通りの「スキャンダラスな」出来事がそのままボディカラー名にとなったひとつの例。
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記念日を祝う色彩
- Viola 30th(ヴィオラ・30th):1993年のランボルギーニ創立30周年を記念して誕生。ブランドの象徴的なモデルである「ディアブロ」のデビューを飾ったカラー。
- Giallo Maggio(ジャッロ・マッジョ):2013年の創立50周年を祝い、「アヴェンタドール 50°アニヴェルサリオ」で初登場。「マッジョ」は創立月である5月(Maggio)を意味し、かつイエローはミウラ時代からブランドを象徴する色の一つでもあり、この色は高反射性の透明粒子を重ねることで、太陽光の下で特別に強烈な輝きを放つように調合されている。
3. ルーツへの敬意:地元に捧げられた色彩
ランボルギーニのルーツであるエミリア=ロマーニャ州、そして本社を構えるサンタアガタ・ボロネーゼとの絆は深く、その敬意が色として表現されることも。
- Giallo Quercus(ジャッロ・クエルクス):サンタアガタ・ボロネーゼ市の紋章にある「黄金のオーク(Quercus)」から着想を得ており、オークは、この地域に深く根ざした強さと粘り強さの象徴でもある
- Terra Emilia / Terra di Sant’Agata Bolognese:これら2つのブラウン系のシェードは、車両の外装ではなく、レザーなどの内装に使用され、ブランドが誕生し成長した地域と都市の「大地(Terra)」を表現している
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4. 革新的な仕上げ:ダイヤモンドとクリスタル
ランボルギーニのアド・ペルソナムは、単なる色見本帳を超え、職人技と革新的な塗装技術を駆使した特殊な仕上げを提供することも目指しており、たとえば以下の様な事例も。
- Diamond Coating(ダイヤモンド・コーティング):これは伝統的な色ではなく、塗装の最終層に本物のダイヤモンドの微細な粉末を透明な層に組み込む特殊な仕上げ。光を浴びた際に、メタリックやマイカ顔料では再現不可能な、無数のきらめく反射を生み出し、下地の色を究極的に増幅する効果を持つ
- Crystal Effect(クリスタル・エフェクト):手作業による多層(マルチレイヤー)技術を用い、複数のカラー層を重ねることで、見る角度によって絶えず変化するダイナミックな視覚効果を生み出し、ボディラインの彫刻的な美しさを際立たせる
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こういった例を見てもわかるように、ランボルギーニのカラーネームに込められた物語の数々は、現実と伝説の間を漂い、長きにわたるブランドの伝統を通じて受け継がれています。
つまりランボルギーニが車両の内外装に用いる色は、単なる審美的な選択ではなく、歴史の断片、故郷への敬意、神話へのオマージュ、あるいは純粋な技術革新の結晶であり、「色を物語へと昇華させる」この能力こそが、サンタアガタ・ボロネーゼが生み出すクルマに対し、時間を超えた「Timeless Allure(永遠の魅力)」を与えているということになりそうですね。
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