>ブガッティ

リマック、ポルシェ保有の「ブガッティ・リマック」株式買い取り交渉へ:リマック創業者が目指す完全なブガッティのコントロールとは

ブガッティ

| 現在のブガッティは複雑な資本関係のもとに成り立っている |

はじめに:新鋭と老舗の異例なパワーバランスの行方

「世界で最も新鋭のハイパーカーメーカーの一つ」が、「最も歴史あるメーカーの一つ」と対峙しようとしているという報道がなされ、ハイパーカー業界へと激震が走ることに。

Bloomberg報じたところによると、ブガッティ・トゥールビヨンやリマック・ネヴェーラといった超高性能車を開発・生産する合弁会社、「ブガッティ・リマック」の最高経営責任者(CEO)であるメイト・リマック氏が、パートナーであるポルシェの保有する「ブガッティ・リマック」の株式を買い取る交渉を進めている、とのこと。

もしリマック・グループがブガッティを完全に傘下に収めれば、ブガッティはフォルクスワーゲン・グループ(VWAG)傘下で復活を遂げたそのルーツから「完全に」独立することになり、これはハイパーカー業界におけるパワーバランスの大きな転換点となる可能性を秘めています。

「10年前は誰も知らなかった」リマック。なぜそれが今ではブガッティを傘下に納め、EV業界のキープレイヤーへと発展したのか
「10年前は誰も知らなかった」リマック。なぜそれが今ではブガッティを傘下に納め、EV業界のキープレイヤーへと発展したのか

Image:Rimac | 10年前はまったくの無名だったリマック | なぜリマックがここまで高く評価されるのか 10年前、クロアチアの自動車メーカー「リマック(Rimac)」を知っていた人はほとんど ...

続きを見る

L1012071

1. 創業者の野望:50人に説明する手間を省きたい

シンガポールでのインタビューで、メイト・リマック氏(37歳)は、ポルシェの創業家であるフェルディナント・ポルシェ氏の子孫や、同氏の孫であるフェルディナント・ピエヒ氏の親族を含むポルシェの株主と、株式買い取りについて実際に話し合ってきたことを認めています。

「私はただ、長期的な意思決定を行い、長期的な投資を行い、50人に説明することなく、物事を別の方法で実行できるようにしたいのです」

 — メイト・リマック氏(ブガッティ・リマック CEO)

L1012054

現在の「ブガッティ・リマック」ではポルシェがその株式の45%を保有しており、そしてポルシェの親会社はフォルクスワーゲングループなので、ブガッティ・リマックが何かをしようとしたとき、そのCEOであるメイト・リマック氏はポルシェそしてフォルクスワーゲンの重役に説明を行って「了承を得る必要がある」ことを(以前に)語っていますが、つまるところ「そういった面倒なことをせずに、そして他人の意見に左右されること無く、自分がやりたいことを実現したい(自身でコントロールできる範囲を最大化したい)」ということなのだと思われます。

【革新】ブガッティ・トゥールビヨンの哲学:「電動化はV16の感動を引き立てるためにある」。V16+ハイブリッドシステムは「これまでのW16と同じ重量」
【革新】ブガッティ・トゥールビヨンの哲学:「電動化はV16の感動を引き立てるためにある」。V16+ハイブリッドシステムは「これまでのW16と同じ重量」

Image:Bugatti | 「電動化」を活用すれば、これまでに不可能であったことも”可能”に | 電動化は「代替」ではなく「拡張」──ブガッティが挑む次世代ハイパーカーの哲学 ブガッティはトゥール ...

続きを見る

実際のところ、同氏は「トゥールビヨン」の開発においても実際に模型を作って「なぜV16エンジンを開発せねばならないか」をポルシェそしてフォルクスワーゲングループの重役に説明しなくてはならなかったとコメントしており、さらにその前には「保守的な重役とは衝突するだろう」とも。

L1012050

リマックとブガッティがついに手を組む!新会社「ブガッティ・リマック」が誕生すると公式に発表
ブガッティを配下に置いたリマックCEO語る。「私は安全策を取るような人間ではない。絶対にだ。だから、ブガッティ・リマックでも保守的な役員とは衝突するだろう」

| ブガッティ・リマックではなにか「とんでもない」クルマが発売される可能性がありそうだ | リマックはテスラとともに「ソフトウエア開発会社」型の考え方をする企業だと言える さて、リマックばブガッティを ...

続きを見る

リマックは「E30型BMW 3シリーズの改造(エレクトロモッド)からビジネスをスタートさせ」、その後に急速な評判確立と企業価値の向上を成し遂げていて、しかしその段階にてポルシェがリマックに投資を行っていたことから「ブガッティ・リマック」という合弁事業がスタートすることに。

ブガッティ・リマックCEOが語る「やりたくないこと」2つ。「ブガッティはもはやVWとはなじまなくなった」とも
ブガッティ・リマックCEOが語る「やりたくないこと」2つ。「ブガッティはもはやVWとはなじまなくなった」とも

| ブガッティ、リマックともに究極のパフォーマンスを標榜するブランドではあるが、構成される要素はそれぞれ異なる | いずれも重要なのは「ほかのクルマとは異なる、完全オーダーメイドであること」 さて、昨 ...

続きを見る

その一方、上述のように「ビジネスのスピードが遅く」、これはスピーディーな展開を求める(そして実際にそうしてきた)メイト・リマック氏にとっては許容できない事実なのかもしれません。

L1012017

加えて、フォルクスワーゲングループは「たたでさえ」意思決定に時間がかかることも知られており、このままでは「変革の速度が速く、次々ライバルが登場する」ハイパーカー業界においてはビハインドを喫してしまうと同氏が考えるのは無理のないことだと思われます。

リマック、ケーニグセグ、シンガーの創業者がお互いの代表作を交換試乗。トップギアのテストトラックで繰り広げられた「夢の共演」、お互いのクルマの評価とは?【動画】
リマック、ケーニグセグ、シンガーの創業者がお互いの代表作を交換試乗。トップギアのテストトラックで繰り広げられた「夢の共演」、お互いのクルマの評価とは?【動画】

| 非常に反響の高いコンテンツだけあって「シリーズ化」されるかも | 今回はシンガーのロブ・ディッキンソンが初参加 ハイパーカーの世界でしのぎを削るメイト・リマック(リマック)、クリスチャン・フォン・ ...

続きを見る

2. ポルシェ側の「メリット」と買収の経済的背景

この株式売却は、ポルシェ側にとっても歓迎すべき取引となる可能性があります。

ポルシェの現状と戦略的な再編

ポルシェは現在、プレミアムブランドとプレステージブランドの境界線に立たされており、アウディなどとプラットフォームを共有するマカン・エレクトリックのようなEVモデルのブランド戦略に難しさを抱えており、加えて市場全体で高級EVへの需要の減速が見られ、販売減少にともなう製品計画の見直しや人員削減にもつながっています。

このような状況下において、ブガッティ・リマックの株式(45%)を売却することでまとまった資金を得ることは、ポルシェの財務健全化と電動化への集中を促進する上で理にかなっているというわけですね。

L1012639

買収額と資金源

  • Bloombergが報じたところによると、この合弁事業の価値は以前、約11億ドル(約1700億円)と評価されている
  • ポルシェが保有する45%の株式は、この評価に基づくと約4億9500万ドル(約760億円)の価値があることに
  • メイト・リマック氏は、この買収資金を匿名の一団の国際投資家やプライベートエクイティ、そして彼自身の資金で賄うとしている

3. ポルシェの関与は完全には終わらない

仮にリマック氏がブガッティ・リマックの株式を完全に買い取ったとしても、ポルシェとリマックとの関係が完全に断たれるわけではなく、というのもポルシェは現在、ブガッティ・リマックの大株主であり、技術・エンジニアリング企業でもあるリマック・グループ(合弁会社の55%を所有)の株式を22%保有しているから。

L1012606

メイト・リマック氏自身は、リマック・グループ全体の筆頭株主として35%の株式を保持していますが、ポルシェは引き続き、このハイパーカーの未来を支える技術開発の中核企業において重要なステークホルダーであり続けることになります。

まだまだ今回の話の行方についてはわからないものの、ブガッティの伝統とリマックの電動化技術が融合した「ブガッティ・リマック」の今後の方向性は、メイト・リマックという若き創業者のビジョンによってさらに大胆かつ迅速に展開される可能性があり、そしてその可能性は消して低くはなく、ハイパーカー業界に大きな変革が起きる日も遠くはないのかもしれません。

メイト・リマック
33歳でブガッティを支配下に置いた男、メイト・リマック。その生い立ち、これまでの歩みを見てみよう

| メイト・リマックが「リマック・アウトモビリ」を設立したのは21歳、そして12年後には事実上ブガッティを手中に収める | ここまで急速に成長した自動車メーカーも珍しい さて、先日ブガッティとの合弁会 ...

続きを見る

あわせて読みたい、リマック / ブガッティ関連投稿

【意外すぎる愛車】ブガッティCEOメイト・リマックが自分のクルマとして新たに選んだのはゴルフR32。将来のレストモッド計画も示唆
【意外すぎる愛車】ブガッティCEOメイト・リマックが自分のクルマとして新たに選んだのはゴルフR32。将来のレストモッド計画も示唆

Image:Mate Rimac(Instagram) | 「CEOの愛車がコレ!?」ハイパーカーブランドのトップが乗るのはVWゴルフR32 | メイト・リマック氏のキャリアは「改造」とともに始まって ...

続きを見る

ブガッティ
ブガッティ・リマックは「完全なる自社でのコントロール」を目指しポルシェが持つ同社の株式45%の買い取りを画策?すでにオファーがなされポルシェが応じる可能性も

| 現在ポルシェおよび親会社のフォルクスワーゲンは「喉から手が出るほど」現金が欲しいはずである | この「株式買取」が実現すれば今後のブガッティの活動も大きく変わってくることに さて、リマックが「ポル ...

続きを見る

ブガッティ・リマックCEO「車は運転してこそ価値を発揮する。完璧な状態を保つこと、リセールを気にしすぎると人生がつまらないものになってしまう」
ブガッティ・リマックCEO「車は運転してこそ価値を発揮する。完璧な状態を保つこと、リセールを気にしすぎると人生がつまらないものになってしまう」

Image:Mate Rimac(Facebook) | もともとクルマは「走るため」に設計されている | クルマを長期保管することで生じる「弊害」も さて、ブガッティ・リマックCEO、メイト・リマッ ...

続きを見る

参照:Bloomberg

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

->ブガッティ
-, , ,