| 韓国訪問では「ジェネシスだらけ」「「ジェネシスがメルセデス・ベンツやBMWと同等に扱われる」という事実を目の当たりしてきた |
機会があればぜひ一度自身でドライブしてみたいものだが
さて、韓国ヒョンデの高級ブランド、「ジェネシス」は立ち上げからまだ9年しか経過しておらず、レクサスが成し遂げたかのような、しかしその他のブランドでは到達できなかったような高みに達している、との報道。
自動車業界では(一般に)高額車、そして高級ブランドほど利益率が高く、つまり販売効率に優れるということになり、メルセデス・ベンツが「コンパクトクラスを縮小させ、AMGやマイバッハ、Gクラスなど高価格帯に集中する」と宣言したり、BMWが「M」、アルファロメオが「クアドリフォリオ」に注力するのも同じ理由です。
ただ、なんでもかんでも「高級装備を盛り込んで高くすればいい」というものではなく、マツダが「プレミアム路線」での成功をなかなか獲得できなかったり、フォルクスワーゲンが高級車セグメントに参入して失敗したことでもわかるとおり、高価格帯への移行やプレミアムブランドを成功させることは「非常に難しい」わけですね。
ジェネシスは2015年にヒョンデから高級ブランドとして分離
ジェネシスは2015年にヒョンデから「高級ブランド」として分離を果たしていますが、2016年に(現在ジェネシスの2番目の市場である)北米へと参入しており、ただしこの時点でのジェネシスのクルマは「ヒョンデのクルマにジェネシスのバッジを付けただけ」で、2,016年の販売はわずか6,948台にとどまっています(同年にインフィニティは137,930台を販売している)。
しかしながら2023年にジェネシスは68,798台を販売しており、一方のインフィニティは65,316台へと「半減」していて、そして販売が減少したのはインフィニティのみではなく、同じ期間においてリンカーン(112,470台から81,444台ヘ)、アキュラ(161,360台から145,655台ヘ)、さらにはレクサスですら331,228台から320,249台へ。
こうやって見ると、各社のプレミアムブランドが軒並み販売を落とす中でジェネシスが急激な成長を続けてきたことがわかりますが、この数年はとくに競争が厳しく(メルセデス・ベンツ、アウディ、BMWといったジャーマンスリー、その他のブランドの勢力が増している)、かつコロアウイルスによるパンデミックも経験しているため、かなり厳しい環境でもあったわけですね。
そんな中でジェネシスが大き販売を伸ばし、インフィニティを超える台数を販売するに至ったことはある意味では「奇跡」、もしくは「神話」と表現してもいいかもしれません。
そのうえ、母体となるヒョンデ自体も「まともな自動車メーカー」として認知されたのがつい20年ほど前なので、いかにジェネシス(さらにはヒョンデも)が困難を成し遂げたかということがわかるかと思います。
なぜジェネシスは成功できたのか
そこでここからはその成功の理由に焦点を当ててみたいと思いますが、ジェネシスの北米法人においてプロダクトラインを管轄するアッシュ・コルソン氏によれば「成功の主な理由の1つは、ジェネシスの製品を支える専用プラットフォームにある」。
たとえばインフィニティ、アキュラ、レクサスはそれぞれ日産、ホンダ、トヨタのクルマと密接な関係を持っており、しかしアッシュ・コルソン氏によれば、「ジェネシスとヒュンダイの間では、そうしたことはあまり見られない。それにはいくつかの理由があります。ジェネシスのプラットフォームは専用の後輪駆動であり、私たちはジェネシス専用車を作るために投資してきました」。※数少ない例外は、E-GMP プラットフォームをヒョンデ・アイオニック5およびキアEV6 と共有したGV60、そしてRWDプラットフォームをキア・スティンガーと共有するG70およびG80
さらにその独立性はインテリアにもあらわれ、「ヒョンデとの部品の共有はそれほど多くはありません。それがジェネシスにユニークな信頼性をもたらしていると思います。つまり、ジェネシスのクルマには、ヒョンデのステアリングホイールやギアシフター、スイッチが使用されておらず、その意味では、ジェネシスは親会社(ヒョンデ)の一部ではありません」とも。
そのほか、ジェネシスが米国市場を最優先してきたこと(販売台数のうち、約1/4を占めている)も成功の要因だとされ、レクサスがLSからスタートしたのとほぼ同じ方法を採用し、最高級モデルであるG90を最初のクルマとして発売することで「高級イメージ」を打ち出し、そこからは徹底的な市場調査と消費者の嗜好の調査を行い、それを反映させてきたことを成功要因として挙げています。
実際のところ、ジェネシスはヒョンデとともに、常に米国では「品質評価、満足度評価上位」の常連ですが、それはつまり米国の調査期間が評価する「品質」とは何か、そして米国の消費者が好む仕様や装備とは何なのかをとことん調査し、車両に反映させてきたからだとも考えられます(米国では、振動やノイズが許容されず、エアコンの効き、レザーシート装備などが重要視されるなど、独特の傾向がある)。
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さらにはつい最近発表された「ジェネシス ネオラン」コンセプトだと、「ヨーロッパの購入者よりも大型の車両に対するアメリカ市場の独特の需要に応え、大きく開くコーチドア(コンセプトには存在しないものの)、発売時に採用されるであろう3列シートの可能性」を取り入れ、そして示すことにより、米国市場のニーズとフルサイズSUVに求められる要件を直接反映しているのだそう。
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さらにアッシュ・コルソン氏は「鍵は素早く動くこと」だともコメントしていて、ジェネシスは「幸いなことに」後発でもあったため、迅速に(変化を続ける)環境に適応できるほど小規模であり、他の自動車メーカーが新車やコンセプトが完成した後にも発表の計画に何年も費やし、これが必然的に情報漏洩につながることとなるものの、ジェネシスは素早く行動を起こすことを好み、そのため「ジェネシスのコンセプトの存在が明らかになったとき、それはまだ新鮮で、完成から半年も経っておらず、誰もが見たことがない状態」。
これは韓国のやり方を反映したもので、「ペースが速く、急速に適応する社会に対応する性質」を示しており、同氏は「ヒュンダイとキアがブランドアイデンティティ全体を変え、アメリカで最も売れている2つのブランドになることができたのは、この哲学のおかげ」だとも語ります。
もちろんこれがジェネシスにも恩恵を与えているわけですが、とくにジェネシスが立ち上げられてから今までの9年間につき、それ以前の9年間よりも変化の速度が圧倒的に速く、いくつかの(あるいは多くの)自動車メーカーやブランドがこれに対応できなかったものの、ヒョンデ、キア、ジェネシスはこれに対応することで一気にその地位を向上させることができたのかもしれません(うまく時代を利用した)。
上述の通り、ジェネシスはG90(セダン)からスタートしていますが、その後G70とG80へと急速に展開を行い、その後は成長いちじるしいSUVセグメントへの対応をGV70とGV80で行いつつ、社会が求める「気候変動対策」として完全電気自動車であるGV60 を発売しています。※北米市場ではほとんどのメーカーがEVの販売を落としているが、ヒョンデは逆に伸ばしており、グループとしての対応の速さがうかがえる
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こうやって見ると、ジェネシスの成功はライバルの成功を研究し、そして社会情勢や消費者の嗜好の変化に合わせた製品開発をモットーとし、かつそれらを迅速かつ大胆に行ってきたことに勝因があると考えていいのかも。
加えて最高クリエイティブ責任者兼最高ブランド責任者のルク・ドンカーウォルケ氏とデザインのグローバル責任者であるサンヨップ・リー氏らによる「車両デザイン」が成功に大きく寄与していることも疑いようはなく、ジェネシスの成功については(K-POPやほかの韓国製品同様に)マーケティング、そして戦略が非常に優れていたと結論付けて良いかと思います。
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参照:CARBUZZ