スーパーカー市場は成長しているが、スポーツカー市場は縮小。もはやスポーツカーとスーパーカーとは違う観点で作られている
いろいろなクルマを試乗していて思うのは、クルマにとって「音」はけっこう重要だ、ということ。
ただ、この「音」はエンジンサウンドやエキゾーストノートを指すのではなく、走行しているときのノイズや、各部が作動したりする際に発生する音のことです。
人の感覚はけっこう重要
そういった「音」の中でもっとも端的なのは「ドア開閉音」ですが、この音が安っぽいかそうでないかというのは、そのクルマの印象を大きく左右する、と考えています。
たとえばトヨタC-HRとレクサスUXは同じ骨格を有しますが、ドア開閉音は全く異なり、それが「レクサスをレクサスたらしめている」と言えそう。
その他だとクルマに乗り込んでシートを調整するときの(電動シートの)モーター音の大小、ウインカーレバーを倒したときの感触や音、スイッチを押したときのタッチや作動音といったところもけっこう大切だと考えています。
なお、こういった部分の「感触」「音」について言えば、ロールスロイスを筆頭に、レンジローバーといった英国勢がかなり優れるものを持っているようですね(その次がベントレーだと考えていますが、ベントレーの操作系品質は価格に見合うものではないと考えている)。
そしてエンジンを始動した際の音や振動、シフトレバーをDレンジに入れたときの感触や音、走り出そうとアクセルペダルを踏んでパーキングブレーキがリリースされるときの音も同じ。
これらのタッチが曖昧だったり、カクっという衝撃や音があったりするのも質感を損なう部分であり、やはり素晴らしいのは英国勢で、ドイツ勢は質実剛健というか「ちょっと劣る」部分だと思います。
なお、レクサスは「音」「タッチ」については非常に優れるものの、素材やフィニッシュという「質感」においては欧州自動車メーカーにちょっと劣るのではないかというのがぼくの印象(レザー張りのダッシュボードについても、パッドの量が少ないと思う)。
いつの時代も変わらないのがポルシェ
そこでぼくが思うのは「ポルシェは昔から変わらないな」ということ。
ポルシェ(ここではケイマンやボクスター、911といったスポーツモデルを指す)はドアの開閉音にはじまり、スイッチのタッチ(とくにウインカーレバーのタッチは最悪の部類だと思う)、電動調整部位の作動音(大きい)、ファンが回る際の騒音、電動パーキングブレーキの作動音、ソフトトップの開閉音など、各部の動作における静粛性や質感が高くないわけですね。
ただ、ポルシェのスポーツモデルは「高級車を作ろうとして」その価格になったにではなく、「ポルシェが必要と思える走行性能を追求したら」その価格になっってしまったというだけで、価格をもって高級車だと判断したり、その価格帯のクルマが当然備えるべき品質や装備をもっているわけではない、というのがポイント。
よって、ぼくはポルシェのそういった部分を「ポルシェらしい」と認識していて、さらにはそれらも含めて「ポルシェ」であり、逆にポルシェが静粛性にこだわって車両価格がさらに高くなってしまうのは不本意だとも考えています(ただ、もうちょっとなんとかして欲しいと思う部分はある)。
なお、ポルシェというメーカーが、そういった操作系や音、振動や感触について「高いレベルを実現できないのか」というとそうではなく、たとえばパナメーラやカイエンはボクスター、ケイマン、911とは別次元の質感を持つクルマであり、これらは間違いなく「高級車(しかも最高級の部類に入る)」。
よってポルシェはその車の性格によって”作り分けている”ということになりますが、なんとも器用なメーカーである、とも考えています。
ただ、992世代へと移行した911は、おそらくパナメーラ並の快適性を持っていると予想していて、各部のタッチや作動音といったところも「高級車」レベルに引き上げられているのかもしれません。
一方でスーパーカーは大きく質感を上げてきた
そこでもうひとつ感じるのが「スーパーカー」の変化。
かつてスーパーカーというと、スポーツカーを超えるパフォーマンスを追求したもので、トッププライオリティは「走り」であり、2番めも走り、3/4が抜けて5も走り、というくらい走行性能に特化したクルマであったと考えています。
よって、昔のスーパーカーに乗降性や快適性、居住性、品質などを求めようものならば、エンスージアストたちから手痛い攻撃を受けることになったのだろうとも思いますが、現代においてスーパーカーを購入する人の大半は「ファッションアイテム」としての購入だと考えられ、昔のように「スーパーカーでしか到達できない領域」を求めての購入ではないのかもしれません。
実際のところ、最近のスーパーカーのショールームは(本社の指示によって)ブランドショップの立ち並ぶ商業地に居を構えており、これは客層の変化を表すものにほかならないのでしょうね。
そういったこともあって、最近のスーパーカーは各部の質感が飛躍的に向上しており、ある意味では「高級車レベル」。
スーパーカーオーナーは、ほかにもロールスロイスやベントレー、メルセデス・ベンツ、レンジローバーを所有している人が多数だと思われ、そういった人々も納得できるように作られているのが最近のスーパーカーだと考えていますが、つまり現代のスーパーカーは「スポーツカーの延長線上」にあるのではなく、「高級車の派生」なのかもしれないと考えることも。
たとえば、ランボルギーニ・ウラカンはポルシェ718ケイマンよりも静かかつ滑らかで乗り心地がよく、ウラカン・スパイダーのソフトトップ開閉音はポルシェ718ボクスターよりもずっと静か。
そしてそのレベルは「高級車と肩を並べる」とぼくは考えていて、現代のスーパーカーとは、エンスージアスト向けではなく、セレブ向けの乗り物なのだろうな、と思うワケです。
つまりスポーツカーとスーパーカーとは袂を分かったと認識すべきで、市場としては「スーパーカーは好調」、しかし「スポーツカーは不調」というのは”そういった”差異が影響しているのかもしれませんね。