| やはり重量が重く、ハイブリッド搭載の割にパフォーマンスが高くない |
どうやらアメリカでは建国記念日に向けて自動車を大幅ディスカウントして販売するという習慣があるようですが、CarsDirect報じたところでは、なんとホンダ(アキュラ)NSXが今回過去最大のディスカウント販売を行い、20,000ドル(邦貨換算で215万円くらい)の値引きを行っている模様。
ただ、これには条件があり、「ホンダの用意するファイナンシャルサービスを利用すること」という縛りがあるようですね。
このファイナンシャルサービスについて金利がどれくらいなのかは不明ですが、金利が他よりも高い場合、NSXだとローン金額がかなり大きくなることが予想され、「金利で値引き分がチャラ」となる可能性も(それだと消費者にメリットがなく、ホンダとしてもやはり販売促進のため、消費者に対してメリットを押し出すとは思う)。
ホンダNSXは世界中で販売が落ちている
なお、ホンダNSXは現在世界中で販売が落ちており、かなり苦戦しているクルマのひとつ。
日本だと2019年に29台を販売するのみにとどまり、これは「最も売れなかったクルマ」なのだそう。
価格が価格だけに(2420万円)ポンポン売れるクルマではありませんが、それでも2020年だと5月までの累計でマクラーレンが88台、アストンマーティンが87台、ランボルギーニが343台、フェラーリは481台を販売しているので、「価格」を販売不振の理由にすることができないのものまた事実。
アメリカでもピーク時の1/3-1/4程度に販売が落ち込み、さらにオーストラリアでは「年間数台」レベルしか販売されていないと言われ、現時点では販売回復の見込みが立たない状況でもあります。
-
日本でもっとも売れていないクルマはなんとNSX(年間29台)!ずっと「大人気」だと報じられていたのはウソだったのか
| そのほかレクサスLCがはワースト9位、フェアレディZはワースト7位 | ベストカーにて、「2019年の日本国内における販売ワースト10」が公開に。ベスト10(もっとも売れているクルマ)は「プリウス ...
続きを見る
なぜホンダNSXは人気が出なかったのか
なお、ホンダNSXは日本車有数のビッグネームであり、現行モデル登場には大きな話題を呼ぶことに。
発売直後には「納車2年待ち」という人気を誇ったものの、わずか2年ほどで不人気車の仲間入りを果たしています。
その理由としては、おそらく複合的だとは思いますが、ぼくが推測する最大の要素として、やはり「ハイブリッド」というところが世のエンスージアストには受けなかった、ということがあるのかも。
かつて、「ポルシェ918スパイダー」「ラ・フェラーリ」「マクラーレンP1」というスーパーカー御三家が発売された際、いずれもハイブリッドカーではあったものの、ポルシェ918スパイダーのみがPHEVであり、販売に最も苦戦したのが918スパイダー(なかなか完売しなかった)。
やはりハイブリッドカーは「重い」
そして当時PHEVである918スパイダーがが敬遠されたのにはいくつか理由があり、ひとつはシステムが複雑になり、車体重量がかさむこと(ポルシェ918スパイダーは1490kg、マクラーレンP1は1395kg、ラ・フェラーリは1255kg)。
現代に話を戻すと、代表的なスーパーカー(マクラーレン720S、フェラーリF8トリブート、ランボルギーニ・ウラカンEVO)だと、だいたい車体重量は1400kg前後に収まっており、しかし現行NSXの車体重量は「1800kg」。
この重量が致命的だと捉えられた可能性は否定できないだろうと考えています。
もちろん、R35 GT-Rのように、「重くとも、それをひっくり返すだけのパフォーマンス」を持っていれば周囲の見方も変わったのかもしれませんが、NSXの場合はさほど(加速、サーキット走行性能ともに)パフォーマンスが優れているとも言えず、よってBMW i8のような「スーパーカー”ルック”の電動車」的な捉え方がなされたのかもしれません。
なお、フェラーリSF90ストラダーレも3モーターを採用するハイブリッドカーで、そのぶん重量が250キロほど嵩んでいるものの、これまでのどのフェラーリよりも優れたパフォーマンスを備えており、ハイブリッド化による一切のネガティブさを排除したどころか、「おつり」が発生しているハイパーカーでもありますね。
-
フェラーリ「SF90ストラダーレのハイブリッドは妥協策ではない。パフォーマンス向上のために採用し、重量増加分の250kgも回収できるほどの効果を得た」
| フェラーリは一体いつの間にこんなすごい技術を開発していたのか | フェラーリは次世代ハイブリッドスポーツとして「SF90ストラダーレ」を発表していますが、これはぼくにとってかなり「意外」なクルマ。 ...
続きを見る
バッテリー劣化問題は避けられない
そしてもうひとつハイブリッドカーで問題となるのが「バッテリーの劣化」。
バッテリー性能は現在、毎年5%のペースで密度が向上しているといい、となると1年経てば相対的に5%づつ(新型バッテリーを持つクルマに対し)劣化することに。
加えて、平均すればバッテリーそのものも2.3%程度/年の劣化があるとされ、これらを考慮すると、ハイブリッドスポーツは「買う前から性能の劣化が目に見えている」ということになります。
-
EVのバッテリーは平均して年2.3%劣化している!日産リーフは最も大きい4.2%、バッテリーの高温化、急速充電の使用はさらに劣化を加速
| 思ったよりも劣化速度は早そうだ | Quartz が報じたところによると、EVのバッテリーは平均して毎年2.3%づつ性能が劣化してゆく、とのこと。これは世界中の6,300台の法人・個人が所有するE ...
続きを見る
もちろん、ガソリンエンジンにおいても、新型のほうがパワフルという「相対的な地位低下」はあるものの、「絶対的な劣化」はほぼ無く、ここが(ガソリン車とハイブリッドカーとの)決定的な差なのかもしれません。
もちろん、NSXの性能に占める「ハイブリッドユニット」のパーセンテージはさほど高くはなく(ガソリンエンジン507馬力に対してモーターは3つ合計で122馬力)、よって数%の劣化が走りには大きく影響しないだろうとは思うものの、今後バッテリー技術はどんどん改善されてゆくことが分かっている状況において、発展途上の製品、しかも運動性能が重視されるスポーツカーにおいて、NSXを積極的に選ぼうという心理を妨げているとも言えそうです。
ちなみにブガッティはバッテリー劣化問題にて、長期的なクルマの価値が下がることを懸念し、「(ガソリンエンジンを製造できなくなるまで)ハイブリッドではなくガソリンオンリーを選択する」と発表していますね。
-
ブガッティが方向転換?「2030年まではガソリンエンジンにこだわる。その代わり、ヴェイロンとシロンが出す排ガスをチャラにするだけの植林を開始する」
| ブガッティは、少し前までは「エレクトリック化」へ進むと報じられていた | ここ最近ブガッティの動きが活発化しており、よく聞かれるのが「シロンに続く第二のモデル」を発表するのでは、ということ。このニ ...
続きを見る
ガソリンエンジンオンリーのスポーツカーは絶滅危惧種=今しか乗れない
ガソリンエンジンは環境規制によって出力向上が抑えられている状況でもあり、市販車に関しては現在が「ほぼピーク」。
これは、最近フェイスリフトを受けたBMW M5や、メルセデスAMG E63について「出力向上がなされなかった」ことからもわかります。
そして、これ以上のパワーアップを行うとなると「エレクトリック化」以外に手段はなく、ガソリンエンジンのみで走るスポーツカーは「絶滅危惧種」であり、そのためエンスージアストたちは「今しか乗れないクルマ」、つまりガソリンエンジンのみで走るスポーツカーを優先的に選ぶのかもしれません。
NSXに採用される3モーター式ハイブリッドシステム、ならびに駆動方式「SH-AWD」は非常に優れたものではありますが、現時点ではバッテリー性能の相対的・絶対的な劣化に対する懸念や、滅びゆくガソリンエンジン車への郷愁もあり、「今の時点では選ばなくてもいい」クルマとして捉えられているのでは、とも考えられます。
そう考えるとNSXは登場時期が早すぎたとも考えられ、今後復権を狙うのであれば、(NSXの)レーシングカー同様に、ハイブリッドシステムを除去して”ピュアさ”を全面に押し出すしかないのかもしれませんね。
-
ホンダNSX「GT3 Evo」の実車公開!NSX比で-489キロ、価格は3.3倍の5800万円に
| ハイブリッドシステムと4WDは取り外され、トランスミッションは6速シーケンシャルに | ホンダが昨年に発表した「ACURA NSX GT3 Evo」をミッドオハイオ・スポーツカーコース(サーキット ...
続きを見る
参照:Carsdirect