さて、4代目マツダ・ロードスター(ND)に試乗。
サイズは全長3915、全幅1735、全高1235ミリ。
重量はMTで990キロと非常に軽量です。
なお重量はオプションを入れると1010kg、ぼくと担当さんが乗ってたぶん+130kgくらい。
マツダは異常なまでの熱意をもって車を作ることで知られ、モーターショーにおいても美女コンパニオンのかわりに技術者のオッサンをブースに立たせてマニアからの質問に受け答えするなど、とにかく技術にこだわったメーカーでもあります。
そして、その技術とは車の基本性能に直結するものであって、今回のロードスターにおいても「軽量化」「前後オーバーハングの軽減」「剛性向上」といったところに注がれているのがマツダらしいところ。
デザイン的には他のマツダ車とさほど濃い関係性を感じさせないデザインで、スポーツ性を強調するために他マツダ車とは異なるデザインを採用したのかもしれません。
はじめて画像で見たときには異質なデザインに思えましたが、見慣れてくると、そして実車を見るとかなり格好良いと言えるでしょう。
先代よりも10ミリ広くなり、105ミリ短く、15ミリ低くなったことで素晴らしく安定したプロポーションのように感じます。
マツダはドライビングポジションに拘ることでも知られ、適切なポジションを取るためにエンジンと車軸をを前方に押しやる、という手法を採用しています。なお重量配分は前後50:50。
そのために人間は後輪のすぐ前あたりに座ることになり、これは古典的なFRたとえばスーパー7のような感覚ですね。
BMW Z4やメルセデスAMG GTと似たパッケージングで、いわゆるロングノーズと言っても良いでしょう(デザイン上、さほどロングには見えない)。
サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンク。
これでトランスアクスルであれば完璧ですが、おおよそスペックとしてはライバルに劣らないものではあります。
唯一気になるのはエンジンで、1.5L、131馬力という非力さ。
ターボを付加して欲しかったところですが、おそらくマツダは「1トン切り」というところを狙っており、そのためにパワフルなエンジンが犠牲になったとも考えられ、絶対的な速さよりも「操る楽しさ」にシフトしたのでしょうね。
車の軽さは重要なのですが、1トンの車に2名乗れば100kg程度は重量が増えることになり、10%程度重量が増えるわけですね。
となると非力な車の場合、そのぶんパワーウエイトレシオも大きく悪化することになるわけで、実際の走りのことを考えると、もっとパワーがほしかったなあ、と思います。
たとえばNAで990kgだとしても、人が乗ると2名で最低でも1100kgくらいになります。
これで131馬力だと、パワーウエイトレシオは8.4。
車重1190kgに人が乗って1300kgだとしても、ターボ付きで200馬力であればパワーウエイトレシオは6.5になり、ここは少し重くなってもターボが欲しかったところ。
ちなみに誰も乗らなければNDロードスターのパワーウエイトレシオは7.6ですが、人が2名乗ると8.4になる、ということです。
馬力が小さいほどこの数値の変化は大きいので、やはりある程度の馬力は欲しいとは考えます。
と、ここまでが乗る前に思ったことなのですが、とりあえず運転しないことには始まりません。
試乗する実車はジェットブラック、S+スペシャルパッケージ、そしてMT。
今までのロードスターはブラックがあまり似合わなかったように思いますが、今回のロードスターは近代的で都会的なデザインになったこともあり、ブラックが非常によく似合うようです。
そしてフロントフェンダーが盛り上がっており、車体前半にボリュームのあるデザイン。
まずはクローズド状態で乗り込み、ドアを閉めますが、これがけっこう重厚ないい音。
今までのロードスターにはない音で、かなり剛性が高いように思います。
ドア下部にストライカーのようなものが付いており、これも関係しているのかもですね。
内装を一通りチェックしたのちに今度はいったん降りてトップをオープンに。ロックを外してホロをたたむだけの簡易的な構造で、至極簡単です。
そしてもう一度乗り込みますが、オープン状態でも高い剛性を感じさせるドアの開閉音は変わらず、かなり車体強度は高い模様。
ここでシートポジション、ミラーを合わせ、ステアリングコラムの左側のスタートボタンを押してエンジンスタート。
排気音はさほど大きくなく、かなりおとなしいと言って良いでしょうね。
振動は程よく抑えられていますが、シフトノブはかなり揺れます(リンケージがシャフトなのかもしれない。なおポルシェはワイヤー式で揺れは少ない)。
クラッチを踏んで一速に入れますが、シフトノブはショートストロークで気持ち良く決まるものの、ちょっと重く感じます。
これは社外品でインシュレーター内蔵かつウエイト内蔵のものへ変更したほうが良いかもしれません。
まだ慣れないのでエンストしないよう、少しアクセルをふかしてクラッチをつなぎますが、1.5リッターとは思えないトルクを発揮しており、おそらくアイドリング状態でもクラッチは繋がるんじゃないかと思います。
クラッチの重さは適切なもので、重くも軽くもなく、踏みしろもさほど大きくなく、どこで繋がるのかがちゃんとわかる設定。
これはやはりMTを選ぶべきだろう、と確信できるものですね。
ディーラーから歩道の段差を超えて車道に出ますが、ここでもボディ剛性の高さが伺え、捻れるような気配はありません。
普通の流れに乗るには十分なパワーとトルクで、にわかに1.5リッターとは信じられず、正直「これで十分じゃないか」と思えるほど。
これは予想を大きく超えるもので、事前の(馬力の)心配は霧散したと言って良いでしょう。
ちょっと前が開けたところで踏み込んでみると、小排気量特有の回転の軽さで吹け上がります。
4000−6000回転あたりではちょっともたつきが感じられますが、それでも一気に回転が上がる印象(トルクカーブが典型的な台形)。
きっちりレッドゾーンまで回せるところも小排気量特有ですね。
様々な環境で色々と試すことができましたが、まずエンジンパワーについては(法定速度範囲内では)問題無いと言えます。
村上春樹氏が「小排気量の車の各ギアを高回転まで引っ張って乗るのが好きだ」ということを書いていましたが、まさにそうやってエンジン性能をフルに引き出して乗れる車ですね。
なお、排気量は高回転であってもおとなしめ。
ついでステアリングですが、ややセンターが曖昧な割に過敏なところも。
シフトが重くギアを入れるときにちょっとステリングホイールを握る右手が動いてしまうと車が揺れてしまい、これは慣れで解決出来るところではありますが、なんとかしたいところですね(左足クラッチ、左手シフトでは体がどうしても動いてしまう)。
ステアリングの重さを変えることができれば良いのですが、それは無理なのでローダウン(足回り固めで)+ワイドタイヤ(17インチ)で接地面積を物理的に増やしてステアリングを落ち着かせるのが良いかもしれません。
ロールもやや大きく、これはおそらくマツダが「固めて踏ん張る」コーナリングよりも、「ステアリングとアクセルで」曲がる、つまり車をコントロールすることを主眼に置いているためと思われます。
コーナリング手前ではブレーキを踏んで荷重移動を行い、前輪に荷重を乗せてステアリングを切って、アクセルを踏みながら車の向きを変えるというFRならではの基本動作を楽しめるようになっているのでしょうね。
かつタイヤハウスの隙間がかなり大きいのは許容できず、これは今までのちょっとクラシカルなデザインのロードスターであれば許せたものの、アグレッシブなデザインのNDロードスターではちょっと看過できません。
よって購入するのであればローダウンは必至ですね。
なお、ヘッドライトの位置が低くローダウンすると車検に通らないという話があるのですが、ランボルギーニ・ウラカンと並べると明らかにウラカンの方がヘッドライトの位置が数センチ低く、これが車検に適応しているのであれば、ロードスターもまだ数センチ下げてもOKなんじゃないかと思います。
なお、見た目は「ロングノーズ」ですが、実際に曲がった感じは極めてニュートラルで、とくにロングノーズを意識する場面はありません。
たとえば似たようなパッケージングではVMW Z4/Z3ですが、こちらはフロントを振り回すような感じで曲がるのに対し、ロードスターはミドシップのように軽く鼻先が入るのが特徴。
フロントが長いというよりは、単に「リアが短い」と言ったほうが良さそうです。
オーバーハングを軽量化している(もっとも安価なグレードでもLEDヘッドライト装備)ことも貢献しているのだと思います。
操作系・方法に関しては極めて標準的ですが、タッチや質感は高いレベルであり、VWレベルの世界標準と感じます。
操作にはとくに違和感を感じず、初めて乗るにもかかわらず自然に操作できるので、よく考えられているのでしょうね。
特筆すべきはブレーキで、効き過ぎることも足りないこともなく、止まろうと思ったところでしっかり止まる、優れたものです。
最近はカックンブレーキが多いですが、非常に好ましいタッチのブレーキですね。
全体的にはマツダの思い入れがしっかり伝わる良い車で、非常に素直な特性を持っており、人の感覚に近い挙動を示します。
曲がろうと思っただけ曲がり、止まろうと思っただけ止まり、加速しようとしただけ加速する、そんな感じですね。
そこには違和感が無く、こういった動きができる車は非常に少ないと言えるでしょう。
そして、そこからオーナーが「こうしたい」と考えたときにアフターパーツで思ったようにチューンできる懐の深さを持っているのもロードスターの特徴で、買ったあとに(カスタム費用に)お金のかかりそうな車ですね。
しかしながら最近は「お金をかけたいと思える」車は少なく、しかしロードスターはそうさせたい、と思わせるものがある”価値ある”一台と言えるでしょう。
購入するのであればまずぼくはノーマルで乗ることは無く、マツダスピードのエアロは必須。
排気音ももうちょっとスポーティーにしたく、社外マフラーそしてエアクリーナーも欲しいところ。
ローダウン+ホイール大径化+ツライチ化も必要ですね。
純正で補強パーツも出ており、様子を見てそれらを装着するのも良いかもしれません。
こうやって「こうしたい、ああしたい」と考えさせるだけでも、ロードスターは夢が膨らみ、そして「幸せになれる」車だと言って良いと思います。
CX-3もそうですが、最近のマツダ車には驚かされることばかりですね。
もし、マツダ・ロードスターを購入するならば?と考えたボディカラーやオプション含む仕様についての考察はこちらにあります。
これまでの試乗レポートは下記のとおり。
最新の試乗レポートはこちらにあります。