
| ポルシェは燃費に「優れる」とは言えないが、「悪い」と断じるほどでもないと思う |
むしろそのパフォーマンスを考慮するならば「十分に許容できる」範囲内ではないか
さて、先日は「実際にポルシェを所有してきた立場から、本当にポルシェは(世間でウワサされているように)壊れるのかという」件について考察しましたが、今回は「ポルシェの燃費」について。
世間一般的に、ポルシェ、そしてスポーツカーに関しては「燃費が悪い」と認識されており、果たしてそれが事実なのかどうか、そして実際のところはどうなのかについて考えてみたいと思います。
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「燃費」の表記方法は高変遷している
そこでまずは「燃費の表記方法」について。
現在、日本の自動車業界では世界統一規格の「WLTC」をカタログなどの公称値に用いていますが、それまでにはいくつか変遷しており、まずは燃費の表記方法について触れておく必要があるかと思います。
2000年代以降だと、自動車の燃費表示方法は、より実際の走行状況に近い数値を提示するために何度か大きな変更が加えられ、主な変化は以下の3つの燃費測定モードです。
1. 10・15モード(2005年頃まで主流)
2005年頃までは、10・15モードが燃費表示の主流であり、これは1991年に定められた日本独自の測定方法で、比較的穏やかな加速・減速を繰り返す走行パターンを想定しています。
- 特徴:
- 比較的低速で、平均速度や最高速度も低め
- エンジンが温まった状態での測定が中心(コールドスタートの割合が少ない)
- 実際の交通状況、特に渋滞や高速度域での走行を十分に反映できていなかったため、カタログ燃費と実燃費の差が大きいとされていた
2. JC08モード(2011年~2018年頃まで主流)
2011年以降、新型車からJC08モードが採用されるようになりましたが、これは10・15モードの課題を改善し、より実態に近い燃費を測定するために導入された日本独自の測定方法です。
- 特徴:
- 測定時間が長くなり、平均速度や最高速度が引き上げられた
- エンジンが冷えた状態からの測定(コールドスタート)が組み込まれ、より現実的な数値に近づいた
- 10・15モードに比べ、カタログ燃費が約1割ほど低くなる傾向があったが、それでも、実際の走行状況との乖離は完全に解消されたわけではなかったとされる
3. WLTCモード(2018年以降主流)
2018年10月以降、新型車への燃費表示はWLTCモードが義務化されることに。
これは「World-wide harmonized Light-duty vehicles Test Cycle」の略で、日本独自の規格ではなく、世界的な基準に統一された測定方法です。
- 特徴:
- 市街地モード (WLTC-L)、郊外モード (WLTC-M)、高速道路モード (WLTC-H) の3つの走行モードを組み合わせて測定。これにより、ユーザーは自身の使い方に合った燃費を参考にできるようになった
- 渋滞や信号待ちを想定した低速走行から、高速道路での走行まで、より多様な走行パターンを反映している
- コールドスタートからの測定が100%になり、エアコンの使用なども考慮されるなど、実燃費との乖離が大幅に縮小される
まとめると、2005年以降の燃費表示は、「実燃費との乖離を減らす」という目的のもと、10・15モード → JC08モード → WLTCモードといった具合に、より現実の走行状況に近い条件での測定へと変化してきたといえます。
実際のところ、ポルシェの燃費はどうだったのか
そこでここからが実際に乗ってみたポルシェの燃費。
ポルシェ ボクスターS(986)
まずは2002年に購入した986世代のボクスターS(MT)ですが、実際に記録した燃費(満タン法)だとリッターあたり7.2km走っており(給油回数不明)、当時のクルマとしては「悪くない」数字だと思います。
ちなみに当時のカタログを見ると、「10・15モード」にて燃費は「リッター7.9km」という記載があるので、けっこうカタログ値と近い数字が出ているようですね。
基本情報
- ボディサイズ: 全長4,315mm x 全幅1,780mm x 全高1,290mm
- 車両重量: 約1,370kg
- 乗車定員: 2名
- 駆動方式: MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)
- トランスミッション: 6速マニュアル
エンジン
- エンジン形式: 水冷水平対向6気筒DOHC
- 総排気量: 3,179cc
- 最高出力: 252PS / 6,200rpm
- 最大トルク: 31.1kgf・m / 4,600rpm
走行性能
- 0-100km/h加速: 5.7秒(MT)
- 最高速度: 260km/h(MT)
ポルシェ 911カレラ(997)
そして次に乗ったのが2005年に購入した997世代の911カレラ(MT)。
燃費は実測でリッター6.4km、カタログ燃費は10・15モードで8.1kmなので(給油回数不明)、こちらはけっこう大きな乖離があることがわかります。
基本情報
- ボディサイズ: 全長4,427mm x 全幅1,808mm x 全高1,310mm
- 車両重量: 約1,420kg
- 乗車定員: 4名
- 駆動方式: RR(リアエンジン・リアドライブ)
- トランスミッション: 6速マニュアル
エンジン
- エンジン形式: 水冷水平対向6気筒DOHC
- 総排気量: 3,596cc
- 最高出力: 325PS / 6,200rpm
- 最大トルク: 37.7kgf・m / 4,600rpm
走行性能
- 0-100km/h加速: 5.0秒(MT)
- 最高速度: 285km/h(MT)
ポルシェ ボクスター(981)
そして次は981世代のボクスター。
カタログ燃費(JC08)はリッター12.0km、実際の計測値は11.16kmなので(給油回数67回)、こちらは「公称値との解離がかなり小さい」ようですね。
基本情報
- ボディサイズ: 全長4,374mm x 全幅1,801mm x 全高1,282mm
- 車両重量: 約1,340kg
- 乗車定員: 2名
- 駆動方式: MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)
- トランスミッション: PDK
エンジン
- エンジン形式: 水冷水平対向6気筒DOHC
- 総排気量: 2,706cc
- 最高出力: 265PS / 6,700rpm
- 最大トルク: 28.6kgf・m / 4,500-6,500rpm
走行性能
- 0-100km/h加速: 5.5秒
- 最高速度: 262km/h
ポルシェ ケイマン(718)
そして次は718世代のケイマン(PDK)。
それまでのボクスター/ケイマンが水平対向6気筒エンジン(自然吸気)を積んでいたのに対し、718へとスイッチしてからは水平対向4気筒ターボを積むといった大きな変更がなされています。
そしてこの718ケイマンにつき、カタログ燃費はリッター11.2km(WLTC)、実際は11.43kmだったので(給油回数75回)、「実世界での走行のほうがカタログ値よりも優れる」燃費を記録したということに(ここからも、WLTCがより現実に近い表記方法であることがわかる)。
さらにはターボ化されたことで(排気量がダウンしたといえど)大幅なパフォーマンスアップが得られており(その割に燃費は損なわれていない)、これによっていくばくかは”ポルシェらしい”フィーリングが失われたといえど、ぼくとしては歓迎すべき変更だと捉えています。※ターボ化された4気筒エンジンは、再加給することを考えてのことなのか、アクセルオフでエンジン回転数がさほど下がらず、ここは自然吸気エンジンとの大きなフィーリング上の差異である
基本情報
- ボディサイズ: 全長4,379mm x 全幅1,801mm x 全高1,295mm
- 車両重量: 約1,410kg
- 乗車定員: 2名
- 駆動方式: MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)
- トランスミッション: PDK
エンジン
- エンジン形式: 水冷水平対向4気筒DOHCターボ
- 総排気量: 1,988cc
- 最高出力: 300PS / 6,200rpm
- 最大トルク: 38.7kgf・m / 4,600rpm
走行性能
- 0-100km/h加速: 4.9秒(PDK、スポーツクロノ装着)
- 最高速度: 275km/h(PDK)
ポルシェ マカンS(マカンII)
そして最後は「1度目のフェイスリフトを迎えた」マカンS(マカンII)。
カタログ燃費(WLTC)はリッター9.1km、しかし実測ではリッター9.99km走っているので(級油回数47回)、やはりカタログ燃費を凌駕しています。
1.9トン近い巨体にワイドなタイヤ、3リッターV6ターボ(しかも354馬力)搭載という構成を考慮すると、「けっこう燃費がいい」んじゃないかとも考えています。
基本情報
- ボディサイズ: 全長4,696mm x 全幅1,623mm x 全高1,624mm
- 車両重量: 約1,865kg
- 乗車定員: 5名
- 駆動方式: 4WD(フロントエンジン)
- トランスミッション: PDK
エンジン
- エンジン形式: V型気筒DOHCターボ
- 総排気量: 2,894cc
- 最高出力: 354PS
- 最大トルク: 480Nm
走行性能
- 0-100km/h加速: 4.9秒(スポーツクロノ装着)
- 最高速度: 254km/h(MT)
他のクルマはどれくらいの燃費性能なのか?
そこで参考までに、ほかにぼくが乗ってきたクルマの燃費を記載しておくとおおよそ以下の通り(いずれも用途は同じ通勤用であり、同じ時間に同じ道を、同じように走っている)。
- ミニJCW(F56、2リッターターボ/FF)・・・リッター14.83km
- アウディTT(8S、2リッターターボ/4WD)・・・リッター12.55km
- トヨタ・クラウンスポーツ(2.5リッターガソリン+ハイブリッド)・・・リッター19.56km
- アウディTT(8J、2リッターターボ/FF)・・・リッター13.56km
- レンジローバー・イヴォーク(初代、2リッターターボ/4WD)・・・リッター9.34km
- VWシロッコ・・・(1.4リッターターボ+スーパーチャージャー/FF)・・・リッター15.48km
もう一つ参考までに、現在日本で売れている乗用車トップ10のカタログ燃費(WLTC、ガソリン)は以下の通り。
- トヨタ・カローラ・・・リッター14.6km
- トヨタ・ヤリス・・・リッター19.0km
- トヨタ・シエンタ・・・リッター18.3km
- 日産ノート・・・リッター23.8km(e-Power)
- トヨタ・ルーミー・・・リッター16.8km
- ホンダ・フリード・・・リッター15.6km
- トヨタ・プリウス・・・リッター26km(ハイブリッド)
- トヨタ・アクア・・・リッター293km(ハイブリッド)
- 日産セレナ・・・リッター11.6km
- スズキ・スイフト・・・リッター20.5km
さらに参考までに、スポーツカー、SUV、ミニバンの一部だとこんな感じ。
- マツダ・ロードスター(1.5リッター/MT)・・・リッター16.9km
- GR86(2.4リッター/MT)・・・リッター11.9km
- トヨタ・ハリアー(ガソリン/4WD)・・・14.7km
- トヨタ・アルファード(ガソリン/4WD)・・・リッター10.3km
これらを見ると、たしかにポルシェの燃費は「優れる」とは言い難いものの、そのパフォーマンスを考慮すれば「許容できる」と考えていいのかもしれませんね。
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