
| 「ターボ」はいつの時代も自動車業界におけるひとつの、そして大きなソリューションである |
パワー追求、あるいは効率化。その歴史においてターボチャージャーは欠かせない
ターボチャージャーの起源は1905年、スイス人技術者アルフレッド・ブッヒが「排気ガスでタービンを回し、吸気を圧縮する仕組み」を発明したことにまでさかのぼることができますが、しかし、それが市販車に搭載されるまでには実に57年を要しています。
一般には「世界初のターボカー」はBMW 2002ターボだと思われがちですが、実はそれに先駆けて1962年に世界初のターボ付き量産車「オールズモビル・カトラス・ジェットファイア」が登場し、同年にはシボレー・コルベア・スパイダーがこれに続き、そしてBMW 2002 ターボがデビューを飾ったのは1973年です。
Image:BMW
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「世界初のターボ車」を投入したBMW。さらにはツインターボにて新たな時代を切り拓き、N54とN63エンジンが残した“革新の20年”を振り返る
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ターボチャージャーを採用する歴史的モデルたち
- 1962年 オールズモビル・カトラス・ジェットファイア
3.5L V8ターボ(215ps)。世界初の量産ターボ車。メタノール注入システムが複雑すぎて普及せず、生産はわずか4,000台。 - 1962年 シボレー・コルベア・スパイダー
2.4L水平対向6気筒ターボ(150ps、ただしオプション設定)。革新的だったが「どの速度域でも危険である」という報道により市場から退場を余儀なくされる。 - 1973年 BMW 2002 Turbo
2.0L直4ターボ(170ps)。強烈なターボラグにより「ウィドウメーカー(未亡人製造機)」と呼ばれるも、今では高額で取引されるコレクターズアイテム。 - 1975年 ポルシェ930ターボ
3.0L水平対向6ターボ(256ps)。レーシングカー由来のインタークーラーを採用し、0-100km/h 5.5秒という当時最速級の性能を実現。ここから「ターボ時代」が本格的に幕を開ける。
なぜターボチャージャーを採用するのか?
ターボチャージャーを採用する主な理由は「エンジンの出力向上と燃費改善」。
「ターボ」はエンジンの排気ガスが持つエネルギーを再利用してタービンを回転させ、その力でコンプレッサーを回してエンジンに圧縮した空気を送り込みますが、これにより、より多くの酸素をシリンダー内に取り込むことが可能となります。
これによって燃料の燃焼効率が向上し、結果として排気量を大きくすることなく、エンジンのパワーとトルクを大幅に向上させることができるというメリットを享受でき、しかしターボチャージャー登場初期は「燃費」よりも「出力(パワー)」といった側面において高性能車を中心に採用が進んだという背景があるわけですね(よって”大きなエンジン”とターボとが組み合わせられる例が標準的で、さらに燃調が現代ほど緻密でなかった当時では、ターボのほうが燃費が悪いケースが大半であった)。
ダウンサイジングターボの登場
しかしながらその後「燃費」が重視されるようになると登場したのが「ダウンサイジングターボ」。
世界的なリセッション(景気後退)、環境保護や省エネ志向の高まりによって大排気量ターボ車は一時的に下火となり、さらには2000年代以降、環境規制の強化に伴ってダウンサイジングターボというコンセプトが欧州車を中心にトレンドとなってゆくのですが(ボルボ、フォルクスワーゲンはその先駆的存在であった)、これは、排気量の小さなエンジンにターボを組み合わせ、大排気量エンジンと同等のパワーを得るという考え方で、これによって以下のメリットが生まれます。
- 燃費の向上: エンジン本体が小型化されることで、摩擦抵抗などのエネルギー損失が減り、実用燃費が向上
- 税金の軽減: 排気量が小さくなるため、自動車税が安くなる
- 環境性能の改善: 燃焼効率が良くなることで、CO2排出量も削減される
特に、軽自動車においては、排気量が660cc以下と定められているため、ターボチャージャーは必須ともいえる技術となっており、坂道や高速道路での走行において「ターボパワー」が大きな助けとなっているのはよく知られている事実でもありますね。
日本での普及とパワー競争
日本での本格的なターボ車の歴史は、1979年に発売された日産 セドリック/グロリアに搭載されたのが始まりで、当初は「省エネ」を目的としていたものの、この成功をきっかけに各自動車メーカーがターボ技術の開発に力を入れ、1980年代には「パワー競争」が勃発してしまいます。
この時代には、日本の各メーカーが独自の技術を開発し、DOHCターボやツインターボなどを採用した高性能なターボ車が次々と登場し、これらを装備するクルマのボディサイドやリアには燦然と「DOHC」「TURBO」「TWIN TURBO」の文字が輝くことに。
そしてこの時期、、F1やグループCといったモータースポーツにおいてもターボエンジンが全盛期を迎え、その技術が市販車にもフィードバックされることで「ターボチャージャー黄金期」を迎えます。
ターボチャージャーのデメリットと課題
一方で、ターボ車にはデメリットも存在します。
- ターボラグ: アクセルを踏んでからターボが効き始めるまでのわずかなタイムラグがあり、レスポンスが悪く感じることがある。
- メンテナンス: 高温・高回転で動作するため、エンジンオイルの管理がより重要になる。※この管理(クーリング)を容易にするため、「ターボタイマー」なる装備があった
- コスト: 車両価格が高くなる傾向がある。
なお、ターボラグを改善するために登場したのが「シーケンシャルツインターボ」で、これは「まず低回転(排気ガスの流量が少ない)でも動作するプライマリーターボで加給を行い」、その後回転数が上昇し排気ガスの流量が増えるとともに「より大きなセカンダリータービンで」より強い加給を行うという考え方です。※小さなタービンのほうが、少ない排気で回転させることができるものの、発生させることができる加給も小さい。大きなタービンはより大きな加給を行うことができるが、小さな排気ガスではタービンが回転しない
Image:Mercedes-Benz
現代のターボチャージャー
さらに近年の技術革新によってターボラグは大幅に改善され、さらに熱管理や燃調制御が大きく進歩したことで(直噴の採用は大きなステップである)燃費性能も大きく向上することとなり、そのため現在では車種や用途にかかわらず多くのクルマでターボが採用され、高性能と経済性を両立させるための重要な技術となっています。
とくに、現代のターボは「小排気量+ターボ」により、環境性能とパフォーマンスを両立する存在に進化しており、GRカローラの1.6L直3ターボ(300馬力)はその好例かもしれません。
Image:Toyota
加えて、600馬力前後を発生するV6エンジンも登場し、これによってハイパフォーマンスカーにおいても「V8を積まなくても良くなることで」、車両をより”軽量コンパクトに”作れるようになったり、ハイブリッドパワートレーンと組み合わせることが可能となっています。
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スーパーチャージャーは「ターボチャージャーの進化に押され」絶滅の危機に
参考までに、「加給」を行うためにはスーパーチャージャーといった手段も存在するのですが、こちらはエンジン回転軸から直接的に(主にベルトで)加給を発生させるローターやインペラを回すためのパワーをリアルタイムで(エンジン回転数にシンクロして)得ることができるため、ターボチャージャーのように「排気流量が高まるまで待つ必要がなく」ターボラグが実質的に存在しないという特徴も。
ただしベルトなどを介して駆動するという性質上「ロス」があり、そしてターボチャージャーの効率性と即時性が向上する中においてスーパーチャージャーは徐々に優位性を失っており、現代においては「ほぼ消滅しつつある」テクノロジーです。
もう一つ参考までに、過渡期の技術として「ツインチャージャー」なる過給システムも存在し、これは「低回転時はスーパーチャージャーを用いてリニアな(ラグのない)加給を行い、高回転域に達して排気流量が増加し、タービンが回転するようになるとともにターボチャージャーによって加給を行う」というもの。
けっこう複雑なシステムではありますが、2005年から2012年にかけてフォルクスワーゲンがシロッコやゴルフ、トゥーランなどに搭載しており、「ダウンサイジングにおけるパワーの確保」という概念を広く知らしめることに成功した構造です。
ただ、やはりターボチャージング技術の向上、エンジンそのものの改良によって(コストがかかる割に)得られるメリットが薄くなってしまい、現在では「失われた技術」となっています。
未来のターボチャージャー
そしてターボチャージャーはさらなる進化を続けており、直近での有望な技術が「電動(電動アシスト)ターボ」。
電動ターボは、従来のターボチャージャーの弱点であるターボラグを解消するために開発された最新の過給システムですが、従来のターボチャージャーは、上述の通りエンジンの排気ガスの勢いでタービンを回してコンプレッサーを駆動します。
しかし、排気ガスの量が少ない低回転域では、タービンが十分に回らず、空気を圧縮する力が弱いため、加速が遅れる「ターボラグ」が発生し、このターボラグを小さくするために小さいタービンを組み込んでしまうと「十分な過給圧を発生させることができない」というジレンマに。
Image:Porsche
電動ターボは、このタービン軸に小型の電気モーターを組み込むことでこの問題を解決するもので、このシステムは、特に低回転域でのトルクを向上させる「ダウンサイジングターボ」の考え方と相性が良く、小排気量エンジンでも大排気量エンジン並みのパワーと、優れた燃費の両立を可能にします。
- 低回転域: アクセルを踏んだ瞬間、電気モーターがタービンを強制的に回転させて瞬時に過給を開始することにより、排気ガスの勢いがなくても十分な空気を送り込むことができ、ターボラグのないスムーズな加速を実現可能。
- 高回転域: 排気ガスの勢いが十分になると、電動モーターはアシストを停止したり、逆にタービンの回転を利用して発電を行ったりすることもでき、ハイブリッドシステムとも相性が良い。
Image:Mercedes-Benz
ただしこの電動ターボは比較的新しい技術であり、複雑かつ高コストであるため、現時点では主に高性能なモデルや高級車に採用されています。
代表的なモデルとしてはメルセデスAMG SLとGTの一部のモデル、ポルシェ911カレラGTS(T-ハイブリッド)、フェラーリF80が挙げられ、それぞれターボラグを解消するための手段、そして熱回生(MGU-H)の手段として機能しています。※MGU-HはF1由来の技術でもある
Image:Porsche
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まとめ:ターボは「効率」と「未来」の象徴
ターボは1905年に誕生し、1960年代の挑戦を経て、1970年代のポルシェ930ターボでその技術を確立。
その後、効率性と環境性能を武器に「スーパーチャージャーに勝利」したという流れを経ていますが、そして今後は電動アシストや熱回収システム(MGU-H)によってさらなる進化を遂げることになりそうです。
Image:Ferrari
そして現時点だと「電動ターボ」はまだまだ高価な技術ではあるものの、普及とともに価格が下がることも想定でき、「ターボラグのない未来」は、もうすぐそこに来ている、と考えていいのかもしれません。
そしてターボラグがなくなると「ターボ」の存在そのものが当たり前になってしまい、”忘れ去られる(ターボが組み込まれていることが当然になってしまい、存在を意識することがなくなってしまう)”可能性も考えられますが、そこまで来ればターボとしても「本望」なんじゃないかとも考えられます。
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