
| なぜ、他社はどこもテスラのFSDを欲しがらないのか |
テスラの自動運転機能は比較的コストが低いことでも知られている
テスラのフル・セルフドライビング(FSD)は、世界で最も議論を呼ぶ自動運転システムかもしれません。
というのも「ほとんどの」競合がLiDARをその核としているのに対し、テスラは周囲の状況判定をカメラに依存しているためで、しかしそのぶん「コストが安価」なことでも知られます。
そしてテスラCEO、イーロン・マスク氏はここ数年、「他社にライセンス解放する」と繰り返し発信しているものの、驚くべきことに どのメーカーも手を挙げていない、というのが実情です。
サマリー
- イーロン・マスクが繰り返し他社へ「FSDをライセンス提供する」と呼びかけ
- しかし1社も採用せず、契約ゼロの状態が5年以上続く
- 他自動車メーカーが警戒するのは「ベータ版を一般ユーザーに使わせる」テスラ独特の開発手法
- フォード、VW、トヨタなどは独自の自動運転技術を強化中
- 多くのメーカーはNVIDIAなどと組み、テスラ依存を拒む“自前戦略”を推進中
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テスラFSD:他社が敬遠する“決定的理由”とは?
テスラといえばEV分野では圧倒的な影響力を持ちますが、自動運転領域では各社が距離を置きたがる理由が存在し、ここでその背景と市場の動きを整理してみましょう。
1. イーロン・マスクの申し出は5年以上も“空振り”
- イーロン・マスクは5年以上前に、そして2023年にも再度「FSDを他社に提供する」と明言
- その前後で「大手メーカーと交渉中」と示唆(フォード説が濃厚)
- しかし今まで1件も契約成立せず
2024〜2025年にかけても、各社との具体的な合意は報じられていないのが現在の状況です。
2. 最大の懸念:ベータ版を一般ユーザーに試させる開発手法
伝統メーカーが最も警戒するのはテスラの“実験的すぎる”開発スタンス。
- テスラは完成前のベータ版をオーナーへ配布
- 実質的に「公道でのベータテスト」を一般ユーザーに委ねている
- 法規制・安全審査・品質保証の観点から「既存の大手自動車メーカーにはリスクが大きすぎる」
自動車は非常に「リスクの高い」製品であり、よって多くの自動車メーカーが採用するのが「万全を期し、絶対的に安全な製品を世に送り出す(ギャランティー型。それでもトラブルや事故は起きてしまうが)」という方針。
一方のテスラは「”現時点での”最大限の品質向上は目指すが、それでも問題が起きればそれはそれで仕方がない。起きてから解決する」というベストエフォート型。
つまるところ企業文化の違いは決定的で、欧州や日本の自動車メーカーは絶対に真似できない方式というわけですね(未完成のものを発売し、仕上げの部分は消費者の実地テストに委ね、問題があれば修正する)。
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3. “要望”に見えて実は“縛り”が多い?
このFSD提供につき、イーロン・マスクCEOは「レガシー(既存)メーカーは条件が厳しく、少量の試験導入を数年先にしたいと言う」と不満を述べていますが、しかし既存自動車メーカー側から見れば・・・。
- ソフトのブラックボックス性が高い
- 系統統合(ブレーキ・ステアリング・ECU)の仕様が不明
- テスラ側の提示条件が“現実的でない”
という現実があるもよう。
そもそも各社はテスラのFSDを“必要としていない”?──進む自前戦略
1. 主要メーカーはNVIDIAと提携
こういった理由もあり、GM、メルセデス・ベンツ、トヨタ、VW、BMWなど多くのメーカーはNVIDIAの自動運転プラットフォームを採用しており、NVIDIAを軸に自社開発する方が・・・。
- ソフトの透明性
- 開発コントロール
- 規制適合性
- 安全認証のプロセス
といった点で明確なメリットがある、とされています。
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2. “他社のブランドを乗せる”心理的抵抗
さらにはテスラのFSDを採用した場合、「A社の車なのに、頭脳はテスラ」という構造になり、ブランド戦略上のデメリットが発生することも。
特に高級車メーカーはこの点を嫌う傾向が強くなっていますが、ブランドイメージ以外にも、物理的に「ソフトウエア定義車両の”ソフトの部分”をテスラに支配されてしまう」という問題も懸念材料として挙げられます。
3. メーカー側の本音:テスラの次の“急旋回”が怖い
さらにイーロン・マスクCEOは一見すると発言が二転三転しているようにも感じられ、そして直近の「政治との関与」のように何をしだすか、そして言い出すかわからないといった問題もあり・・・。
- イーロン・マスク氏の言動が急で、方針変更も多い
- 長期的なサポート・互換性に不安
- テスラは共同開発・ライセンス契約に向かないと判断する企業も多い
“安定性の欠如”も、採用が進まない理由の一つだと見られているようですね。
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FSDは本当に優れているのか?──市場での位置付け
■ テスラの強み
- カメラのみで自動運転を実現する独自思想
- 膨大な実走行データの蓄積
- OTAアップデートで進化する柔軟性
■ ただし「レベル2+」の枠は超えない
現状のFSDは、米国保安基準ではレベル2の先進運転支援にとどまっており、「完全自動運転」を名乗るにしては法的認可も未取得です(普及がはじまったレベル3自動運転に対しても遅れを取っている)。
競合のGM”Super Cruise”やメルセデス・ベンツの”Mercedes Drive Pilot”と比較しても、法規面では“実質アシスト”の域を出ていないのが現状であり、よって他社としてもテスラのFSDを「最先端ではない」と判断しているのかもしれません。
結論:FSDは優れていても“採用されない理由”がある
イーロン・マスクCEOは「他社がFSDを採用しないのはクレイジーだ」と主張するものの、メーカー側から見れば現実的、かつ論理的な理由が存在します。
- テスラの開発手法への不安
- 法規制・リスク管理の観点
- 自前技術の保持によるブランド価値
- NVIDIAなど既存パートナーの存在
結果的に “FSDは先進的でも、他社にとっては扱いづらい” という構図が生まれており、今後、FSDが本当に他メーカーに採用されるのか、それともテスラは独自路線を貫き続けるのかどうか。
まだまだ現時点ではその行方はわかりませんが、「自動運転戦争」は世界的に見て今後の車両販売を左右する可能性も高く、その行方から目が離せません。
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参照:CARSCOOPS

















