
| はじめに:フェラーリが「フィオラノ」を重視する理由とは |
自社「専用」サーキットを持つ自動車メーカーは比較的珍しい
フェラーリが新型車を発表する際、必ず言及するのがフィオラノ・サーキットでのラップタイム。
これは馬力やデザインの派手さに比べると”地味”な要素かもしれませんが、フェラーリの各モデルにおける、核心的な側面を示す極めて重要な指標です。
フィオラノのラップタイムは、フェラーリが驚異的な速さの車を製造する能力があること、そしてその能力がどれだけ進化したかを証明する、絶対的な性能の証でもあるわけですね。
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フェラーリ296スペチアーレの「フィオラノ・サーキット」ラップタイムは「フェラーリのロードカーでは歴代2位」。そもそもフィオラノ・サーキットとは?そしてランキングは?
この記事は音声(合成)でもお楽しみいただけます | フィオラノ・サーキットのラップタイムをランキング形式にて「ロードカー」「F1」「レーシングカー」別に紹介 | やはり「XX」プログラム車両は別格の速 ...
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1. フィオラノ・サーキットの歴史:レース開発のために生まれた聖地
フィオラノ・サーキットは、元々はF1マシンのテスト開発を容易にするため、その必要性から生まれたという歴史を持っています。
- 1970年代:1972年に全長約2.9kmのコースが完成。以来、モータースポーツ用、ロードカー用を問わず、フェラーリの車両開発に不可欠な場所となる
- 1990年代〜2000年代:シケインの追加やコーナーの改修が行われ、現在は全長約3.03kmへ。スキッドパッドや散水システムも備え、ウェットコンディションのシミュレーションも可能に
フェラーリにとって最初の”スーパーカー”である288 GTO以降、フィオラノ・サーキットはすべての現代フェラーリの性能を証明する場所となっており、それはいまも不変の事実です。
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2. 歴代Halo Carの進化:ラップタイムで見るパフォーマンスの向上
フェラーリのスーパーカー(フェラーリが自社で「スーパーカー」と呼ぶのは6モデルのみである)の進化は、フィオラノのラップタイムの短縮に如実に現れています。
モデル | 登場年 | エンジン | 最高出力 | フィオラノ・ラップタイム |
288 GTO | 1984年 | 2.9L V8ツインターボ | 400 hp | 1分36秒 |
F40 | 1987年 | 2.9L V8ツインターボ | 471 hp | 1分29秒 |
F50 | 1995年 | 4.7L V12自然吸気 | 513 hp | 1分28秒5 |
Enzo | 2002年 | 6.0L V12自然吸気 | 651 hp | 1分24秒9 |
LaFerrari | 2013年 | 6.3L V12ハイブリッド | 950 hp | 1分19秒7 |
F80 | 最新 | 3.0L V6ツインターボHV | 1,184 hp | 1分14秒後半 (推定) |
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驚異的な短縮の歴史
- F40の登場:最初のスーパーカーである288 GTOのタイム(1分36秒)に対し、F40はわずか3年で10秒近くもタイムを短縮し、フェラーリのパフォーマンス基準を大幅に引き上げる
- Enzoの飛躍:F50がF40から約3秒短縮に留まったのに対し、F1黄金期を経て登場したエンツォは、F1技術を全面投入することでF50をさらに約3.6秒上回る速さを実現
- LaFerrariのハイブリッド革命:F1由来のHy-Kersハイブリッドシステムを搭載したラ・フェラーリは、Enzoの記録から5秒以上短縮する革命的な速さを見せる
- F80での「4WD革命」:F80ではこれまでのスーパーカーカーの多くが「F1直系」の技術を採用していたのに対し、ル・マン・ハイパーカー由来の技術をフィードバックすることで、ラ・フェラーリからさらに5秒近く(推定)もタイムを短縮
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3. モータースポーツとXXプログラムが実現した究極の速さ
こういったタイムの進化を見るに、年々「そのペースが早くなる傾向」が存在することがわかりますが、この進化に秘密は、モータースポーツ、特にF1(直近だとル・マンへの復帰)からロードカーへの技術統合とXXプログラムの実施という特別な開発体制にあります。
F1技術のフィードバック
- F40 / F50:F1開発から得られたノウハウを設計に最大限に活用
- Enzo:V12エンジン、カーボンセラミックブレーキ(CCM)ディスクなど、F1技術への依存度が高まる
- LaFerrari:F1ハイブリッドKERSシステムをロードカーに持ち込み、性能を飛躍させる
- F80:ル・マン優勝車499Pに直接インスパイアされたV6エンジンを搭載し、そのアーキテクチャとハードウェアの多くがレース(ル・マン・ハイパーカー)直系
XXプログラムの貢献
XXプログラムはレースカーだけでなくロードカーの改善を目的とした研究開発イニシアティブであり、このプログラムから「公道走行の規制を受けない究極のサーキット専用マシン」「モータースポーツのレギュレーションに縛られない自由な発想を持つスポーツカー」が生まれ、ここで得た知見がロードカーへと活かされています。
- FXX:エアロダイナミクスとパワートレイン技術の理解を深め、当時のロードカーを凌駕する速さでフィオラノを周回
- SF90 XX Stradale:公道走行可能なXXモデルとして登場し、一時期はフィオラノのラップレコードを保持
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4. 最新フラッグシップ「F80」の驚愕のタイム
最新のスーパーカーであるフェラーリ F80は「V12エンジンを搭載していない」ことへの批判があるかもしれず、しかしそのパフォーマンスにはなんらネガティブな意見を差し挟む余地がないのもまた事実。
F80の驚異的な性能
F80の性能比較 | タイム差 |
F40 より | 約15秒速い |
LaFerrari より | 4秒以上速い |
FXX (トラック専用) | 上回る |
FXX-K (トラック専用) | 匹敵する |
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F80は、V12からV6ハイブリッドへとダウンサイジングしつつも、かつてのサーキット専用最強モデル(FXXなど)をも超える、ロードカーとして史上最速クラスのラップタイムを叩き出しています。
これは、V12エンジンを搭載していた約10年前のラ・フェラーリと比べて半分以下の排気量とシリンダー数で実現した偉業であり、これこそが「フェラーリの進化と進歩」ということに。
この記録は、数十年にわたるモータースポーツへの取り組みと技術革新の集大成だとも考えられ、フェラーリが公道車でも規格外の速さを生み出す能力があることの揺るぎない証拠と言えそうですね。
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参照:Ferrari