
Image:Xpeng
| ロボットが「人間」になる時代へ |
EVメーカーの次なる野望は「人型ロボット」
近年、AI技術の進化は目覚ましいものがありますが、その最たる例がヒューマノイドロボットの開発競争。
すでにテスラが「テスラボット(オプティマス)」を公開していますが、今回は中国の振興自動車メーカーであるシャオペン(XPENG、小鵬)が開発を進める次世代ヒューマノイドロボット「IRON(アイアン)」が(同社が開催したAI DAYにて)公開されることに。※同社は「空飛ぶクルマ」の量産を開始したとも報じられ、要注目企業のひとつとなっている
-
-
シャオペンの次世代モデル「E29」公開。P7後継モデルとして2025年登場へ、同社会長「未来を前倒しで届ける」
Image:Xpeng | 今後の中国車では「生き残り」を考えた場合に”脱トレンド”が必要となりそうだ | シャオペンXpeng会長が示すハイパフォーマンスEVクーペの未来像とは さて、中国の新興EV ...
続きを見る
シャオペン「アイアン」はその哲学からして既存のロボットとは一線を画す
この「アイアン」の公開に際してXPENGのロボティクスセンター責任者は「私たちはロボットを作っているのではなく、人間を作っている」と述べており、彼らが目指すのは、将来的に人間のライフパートナーや同僚となる「インテリジェントな人間」なのだそう。※そのわりに「アイアン」という無機質な命名を行った理由は謎である。それにしてもセクシー
Image:Xpeng
このIRONは、現在もR&D(研究開発)段階にあるものの、来年4月にはハードウェアとソフトウェアの両面で量産準備段階に入る計画だともアナウンスされ、テスラボットよりも先に市場投入がなされる可能性が濃厚となっています。
1. 「人間化」を追求したデザイン:柔軟な身体とソフトスキン
XPENG IRONの特徴は、その優雅な動きと人間らしさの追求にあり、従来のロボットに見られたような、歩行時の大きなノイズや床への大きな衝撃を抑え、まるでモデルのように優雅に歩くことを目指しているといい、実際に発表された場では「モデルのような」優雅なキャットウォークを披露したようですね。
そして「(テスラボットの初回公開時のように)中に人間が入っているのでは」と疑われる場面もあり、シャオペンが「中の人などいない」ことを示すため、アイアンの外皮を意図的に剥がすというデモンストレーションも。
Image:Xpeng
身体構造の「バイオニック」進化
IRONは、人間の身体構造を模倣したバイオニックな進化を遂げており、以下のような特徴を持っています。
• 柔軟な骨格と筋肉: 非常に柔軟な骨格とソリッドな筋肉(バイオニック)を持ち、人間のようにかがんだり、立ったり、簡単なジェスチャーや動きを実現可能特に。人間のような背骨が設計され、腰部の柔軟な動きが可能になっている
• フルカバレッジのソフトスキン: ロボット全体を覆うソフトスキンを採用することで、ロボットはより暖かく、親密な存在となり、家庭への導入が期待される。この皮膚は非常に柔らかい触感を持っている
• カスタマイズの自由: 驚くべきことに、IRONは体型(太め、スリムなど)や性別、髪の長さ、服装を選ぶことができ、まるでクルマを買うようにカスタマイズ可能。これは、将来的にロボットが多様な産業で働く「人」になるというビジョンを反映している
人間を超える「器用な手」
ヒューマノイドロボットの開発で最も難しい要素の一つが「手」。
人間にとって最も洗練された器官である手を再現するため、IRONの片手には22の関節柔軟性(自由度)が開発され、これにより、非常に繊細な動きををサポートすることも可能となった、と説明されています。
2. 業界初の挑戦:全固体電池搭載と2,250 TOPSのAI頭脳
IRONが単なるR&Dプロトタイプではないことを示すのがその中核技術。
ヒューマノイドロボットが「全固体電池」量産の鍵に
IRONは業界初となる全固体電池(All solid-state battery)を搭載しており、これは「安全性」と「量産の機会」という観点によるもので、具体的には以下の通り。
• IRONを小型軽量化する必要があったため(のバッテリー容量は2kWh未満と小さい)
• ロボットはオフィス、ショッピングモール、家庭内で使用されるため、自動車よりも遥かに厳格な安全基準が求められる
3. 実用化への現実的アプローチ:工場から受付へ
シャオペンは(アイアンの)早期商用化を目指すにあたり、戦略的に導入シナリオを絞り込んでおり、現時点では後述の「3つの用途」を設定しています。
そしてこの用途を設定する前にいくつかのテストを行っており、開発チームは、まず比較的容易に見える「工場でのねじ締め作業」を検討したものの、ロボットの最も難しい部品である「手」が1ヶ月で摩耗してしまうコストの高さ、そして人件費との比較から採算が合わないとしてこれ中止。
また、多くの人が期待する「家庭内での雑用」についても、現時点では(以下の2つの課題から)導入を保留しています。
- 1. 安全性(Safety): 100平方メートルほどの家庭内には障害物や家具、ペットなどが多く、ロボットが転倒したり、家具に衝突したり、ペットを踏んだりしないよう安全を確保するのが極めて困難
- 一般化(Generalization): 家庭環境はそれぞれ異なるため、ロボットが個々の設定を学習し、適応させる一般化の技術がまだ追いついていない
優先される商用シナリオ
これらの課題を踏まえ、XPENGが最初に商用展開を優先するのは以下の3つのシナリオで、たしかにこれらであれば「現実的」なのかもしれません(様々なテストを行っているあたり、シャオペンがいかに本気であるかが理解できる)。
- ツアーガイド
- ショッピングガイド
- 企業の受付
4. ロボットの倫理と新しい職業:プライバシー保護の「第四原則」
ロボットがインテリジェントになり、家庭や職場に入り込むにつれて、倫理と安全性に関する議論は避けられず、シャオペンは有名な「(アイザック・アシモフによる)ロボット三原則」を拡張して「第四の法則」を提唱。
ロボットの第四原則: ロボットは人間のプライバシーを開示してはならない
ロボットには耳や目があり、周囲のすべてを聞き、見ることができるため、この積極的な安全保護が企業にとって非常に重要であると認識されています。
また、自動車のAEB(自動緊急ブレーキ)のように、衝突を回避するアクティブセーフティ保護機能の開発も進められているといい、70kgのロボットが急に暴走したり、バランスを崩してペットや人に危害を加えたりしないようにするための対策は実用化において極めて重要です。
未来に生まれる「ロボット管理者」という職業
ヒューマノイドロボットが実用化される未来では「新しい職業」が生まれる可能性が示唆されており、それは”ロボットを指導し、指示し、管理する人々”。
例えば、一人のマネージャーが7体のロボットを担当し、数十人分の仕事をこなすようなオペレーションが考えられ、これは技術の進歩によって人間の仕事が奪われるというよりも、ロボットという新しいツールを使いこなすための専門職が誕生することを示しています。
まとめ:IRONが加速させる「共生」の時代
シャオペン・アイアンは、全固体電池、驚異的な計算能力、そしてVLT大規模モデルといった最先端技術を結集し、ヒューマノイドロボットの量産化に向けて着実に歩みを進めていますが、彼らが目指すのは、人間と区別がつかないような「インテリジェントな人間」であり、その実現のために、安全性や倫理(第四原則:プライバシー保護)といった根幹の課題にも真摯に向き合っている、ということに。
現時点で家庭への導入は安全性の観点から保留される一方、ツアーガイドや受付としての実用化は間近に迫っており、アイアンの進化は、ぼくらが遠い未来だと思っていた「人型ロボットとの共生」が、もはやSFではなく、数年以内に現実のものとなることを示唆しているわけですね。
あわせて読みたい、関連投稿
-
-
テスラボット「オプティマス」が鮮やかなカンフーを披露。映画「トロン:アレス」プレミアの場ではアレスカラーに彩られたオプティマスが登場【動画】
Image:Elon Musk(X) | この動きが「自律」なのか、事前にプログラムされたものなのか、あるいは遠隔操作なのかは不明ではあるが | それでもこの「自然な動き」には驚かされる さて、ここし ...
続きを見る
-
-
ヒョンデの「ロボット犬」、SPOTが案内する”カスタマー エクスペリエンス センター大阪”ツアーへ。このSPOTの動物らしさというか人間っぽさには驚きである【動画】
| 過去には何度か動画ではその動きを見ていたものの、実物は「動画以上」である | ロボットにここまで「人間臭い」動きができるとは さて、ヒョンデが今年5月に新しく開設した拠点、「カスタマー エクスペリ ...
続きを見る
-
-
テスラの新章:マスタープラン パート4公開、「持続可能な豊かさ」とは?が描くAIとロボットの未来【動画】
| もはやテスラの思い描く未来には「電気自動車」が存在しない? | これまでのマスタープランに比較すると「内容が曖昧に」 電気自動車(EV)やエネルギー製品で世界をリードするテスラが、次なるビジョンを ...
続きを見る
参照:Xpeng













