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なぜアウディ、BMW、メルセデスは“過去の名車デザイン”を復活させるのか? その背景にある「不安の時代」とアイデンティティの再発見とは

なぜアウディ、BMW、メルセデスは“過去の名車デザイン”を復活させるのか? その背景にある「不安の時代」とアイデンティティの再発見とは
Mercedes-Benz

| 「先行き不透明」な時代になると「リバイバル」が流行? |

不安定な時代に“原点回帰”を選ぶドイツ勢

世界的な緊張、環境危機、そして急速に進むテクノロジーの変化——。

こうした「予測不能な時代」にあって、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツといったドイツのプレミアムブランドは、あえて過去を振り返る道を選んでいます。

つまるところ「レトロ」「リバイバル」といった傾向が強く見られるということですが、しかしそれは単なる懐古趣味ではなく、ブランドの根幹=安心感・伝統・美学の再確認であるとも捉えられており、クラシックな要素を“現代的な文脈”で再構築することで、未来へと続くデザインの方向性を見出しているのだと分析されています。


メルセデス・ベンツ「Vision Iconic」:1950年代の魂を宿す未来車

まず、メルセデスのコンセプトモデル「ヴィジョン・アイコニック(Vision Iconic)」は、過去と未来の融合を最も明確に体現した存在。

そのフロントグリルは1950年代の名車「ポントンシリーズ」や「300SL」への明確なオマージュで、水平クロームバーが並ぶグリル、そして控えめながら存在感のある丸型ヘッドライトが往年のエレガンスを現代のテクノロジーで再解釈しています。

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Image:Mercedes-Benz

一方で低いルーフライン、高いショルダー、そして滑らかなエアロフォルムといった現代的な要素も見られ、これはまるで「テクノロジーによる彫刻」であると理解することも可能であり、ヴィジョン・アイコニックは「伝統的な造形の安心感とデジタル時代の先進性」を見事に両立させているわけですね。

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Image:Mercedes-Benz

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アウディ「Concept C」&BMW「iX3」:垂直ラインが示す“過去との対話”

アウディの新コンセプト「Concept C」は、新デザイン責任者マッシモ・フラスチェッラ氏による初の作品。

従来の「横長・ワイド」なフロントマスクを捨て、縦長でスレンダーなグリルを採用していますが、これは1930年代のAuto Union時代の意匠に通じるものであり、「未来を見据えながら、過去と対話する」姿勢を象徴しています。

Audi Concept C

Image:Audi

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同じくBMWの新型「iX3」も、縦型キドニーグリルを採用しており、これはブランド創成期の象徴”ノイエクラッセ”を現代的に再構築したもの。

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Image:BMW

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EV化が進む中でも「BMWらしさ」を見失わないための意思表示ともいえますが、両車に共通するのは、「過去の装飾」ではなく、「構造としてのデザインの継承」。

すなわち“形ではなく意味”を再発見する試みであるとも考えられます。

BMW iX3
BMW「ノイエ・クラッセ」初の量産モデル、iX3はなぜBMWにとって”もっとも重要なモデルの一つ”なのか?その8つの理由とは

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他ブランドにも広がる「リデザインの波」

この動きはドイツ勢だけにとどまらず、ルノーはR4、R5、トゥインゴをEVとして再構築し、フィアット500やVWニュービートル、ID.Buzzも同様の例。

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ルノーが「トゥインゴ E-Tech コンセプト」最新バージョンを公開、あわせて機能的な内装もアンヴェール。2万ユーロ以下の価格を予定しており魅力あふれるEVに
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さらにはミニのように「単一デザイン哲学」をブランドアイデンティティにまで昇華したケースもある一方、逆に、フォード「プーマ」や「カプリ」のように名前だけを継承したモデルは、ファンの共感を得にくいとされ、デザインの“中身”に歴史の精神を宿すかどうかが評価の分かれ目であると考えてよく、単に「過去のビッグネーム」「過去のデザイン」を復活させるだけではなく、当時そのクルマが支持された時代背景、そしてそのブランドにとっての存在意義をしっかり理解して新型車に落とし込むことが肝要というわけですね。

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結論:不確実な時代だからこそ、形の記憶に“安心”を求める

音楽ではアナログレコードが復活し、映画では80年代リバイバルがブーム。

クルマの世界も同じで「過去の美学を通して未来を語る」ことが新しい時代のデザイン潮流となっています。

それは懐古ではなく、文化的な防衛反応ともいえるもので、変化の激しい今だからこそ、人は「変わらないもの」に心を寄せ、安心感を求めるのかもしれません。

そしてその背景にあるのは、消費者が“新しさ”よりも“意味”を求め始めたという潮流で、テクノロジーが成熟した今だからこそ、「感情的価値」こそがブランドの差別化要素になっているのかもしれませんね。

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参照:Motor1

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