
| 実際のところ、ステランティスが「立ち直る」兆候を見出すことは難しい |
そもそも「なぜこうなるまで」具体的な対策を講じることができなっかったのか
ステランティス(Stellantis)の元CEO、カルロス・タバレス(Carlos Tavares)氏が新著を発売し、その中で「(ステランティスが)分裂するかもしれない」という懸念を(書籍の中で)明かして大きな話題を呼ぶことに。
同氏は2024年12月に「突如」CEO職を辞任していますが、その背景には経営方針を巡る取締役会との深刻な対立があったとされており、今回示した懸念も単なる憶測ではないのかもしれません。
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「イタリア、フランス、アメリカの三つ巴の均衡が崩れる」
まずタバレス氏は(ブルームバーグの報道によると)著書の中で次のように述べており・・・。
「私は、イタリア、フランス、アメリカの三者間のバランスが崩れることを懸念している。ステランティスのリーダーシップは、毎日その均衡を保つ努力をしなければならない。」
加えて同氏はステランティスの成立時(フィアット・クライスラーとPSAの合併)から強力なリーダーシップを発揮してきたものの、自身が離脱したことによって「フランス側の影響力が弱まる」という懸念を示しています。
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「中国メーカーによる欧州ブランド買収」の可能性を示唆
タバレス氏はさらに、中国の自動車メーカーがステランティス傘下の欧州ブランドを買収するというシナリオにも言及(このウワサはたびたび話題に上がり、そのたびに消えていた)。
同時に、アメリカ側(クライスラー、ダッジ、ジープなど)が自国主導で再建を進める可能性にも触れており、これはかつてGMがオペルとボクスホールを売却した事例と似た構図となりますね。
「欧州ブランドを中国勢が引き取り、アメリカ側が自らのブランドを取り戻す可能性もある」
同氏のコメントは現在の多国籍構造そのものが限界に近づいていることを示唆していますが、中国の自動車メーカーがステランティス傘下のブランドに食指を動かすかどうかは疑問であり、というのも現在中国の各自動車メーカーとも「自社ブランドの展開をそれなりに上手くやっており」、ここで大金を投入して”落ち目になった”老舗ブランドを購入する意味を見いだせないためで、もしかすると中国側から「ノーサンキュー」を突きつけられる可能性もありそうです(特に電動化に全精力を傾けるいま、老舗の内燃機関ブランドに対して興味を感じることはないのかも)。
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ステランティスが抱える「14ブランドの重荷」
ステランティスは現在、フィアット、アルファロメオ、マセラティ、プジョー、シトロエン、DS、オペル、ボクスホール、ジープ、クライスラー、ダッジ、ラム、ランチアなど、計14ブランドを抱えていますが、どのブランドも切り捨てず存続させる方針を貫いたことが結果的に経営効率を悪化させたのだと分析されています。
さらにはタバレス時代の経営は欧州市場偏重であり、アメリカブランドの再建が後回しにされたことも指摘されていて、クライスラーは事実上消滅寸前、ダッジは販売不振、そしてジープという「金の卵」も生産コスト増で利益を失っている状態に。
そしてやはり「金の卵」でもあるラムブランドも(電動化戦略から)再びV8エンジン回帰へと舵を切るなどEV戦略も迷走しているというのが現状です。
さらには「頼みの綱の欧州」においても、アルファロメオやマセラティといったプレミアムブランド、さらにはフィアットのような普及価格帯ブランドまでもが大きく販売を落としてしまい、ステランティスの存在感は「世界規模で」小さくなってしまったわけですね。

コスト削減と労組との対立
タバレス氏は徹底的なコストカットを推し進めたことで知られますが、しかしそれはイタリアやアメリカの労働組合との関係悪化を招き、UAW(全米自動車労働組合)は「Sh!t Can Carlos(カルロスをクビにしろ)」というサイトまで立ち上げて抗議したほど。
これらを総合するに、ステランティスはその方針と内部に大きな問題を抱えていて、傘下のブランドはいずれも「新車の開発どころではない」状況だったのかもしれません。
かくして同氏は「電撃」退任することとなるのですが、同氏の退任後、ステランティスの取締役会は彼の方針に「同意できない」と公式に表明し、現状に対する責任はカルロス・タバレスしにあるという旨のコメントを出しています。
よって今回出版された新著は、タバレス氏が自らの立場を弁護する「反撃の書」ともいうべき性格が強いとも報じられ、これは「日産を追い出されたカルロス・ゴーン氏が、日産を批判し日産の将来に懸念を示した」状況と非常によく似ています。
考察:多国籍連合の限界が見え始めたステランティス
ステランティスは設立当初から「世界最大級の自動車連合」として注目されたものの、その多国籍構造は政治的・文化的な摩擦を生みやすく、ついに分裂の危機を迎えているというのが今の状況なのかもしれません。
たしかにこれまでの例を見るに、「大陸をまたいでの」買収や合併がうまく機能した例は多くはなく、多国籍企業の”闇”が垣間見える話でもありますね。
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参照:Bloomberg














