
| ポルシェ、ランボルギーニに続き「フェラーリ」の製造工程 |
フェラーリは「人」によって形作られる
「V12」― この響きは、単なるエンジンの形式を示す言葉ではなく、それはフェラーリというブランドの血統、そしてレースへの情熱の象徴です。
今回、フェラーリの工場にてエンジンそして車両が製造される様子がYoutubeへと公開されていますが、マラネロの本社工場で生み出されるフェラーリのロードカー用エンジンはすべてが自社にて製作され、その設計から製造に至るまで、極めて厳密なクオリティコントロールのもとで行われていることを見て取れます。※動画公開元は最新の映像を加えつつ、以前に公開した動画をアップデートするといったスタイルを取っている
そこで「動画から垣間見える」聖地マラネロのエンジン工場内部に迫り、なぜこのエンジンが究極の高性能エンジンとされるのか、そして最高回転数9500rpmを可能にする技術、その裏側にあるイタリアの職人芸を見てみましょう。
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1. フェラーリがV12にこだわる「完全バランス」の哲学
エンツォ・フェラーリが戦後初のモデルにV12エンジンを選択して以来「V12」はフェラーリの代名詞であり続け、その理由は、V12エンジンが持つ技術的な優位性にあります。
理論上の「振動ゼロ」とスムーズな回転
V12エンジンは、理論上振動がほとんど発生しない「完全バランス」のエンジンです。
これは、ピストンが互いの振動を打ち消し合う構造(直列6気筒エンジンを2つ組み合わせた構造に近い)を持つためですが、この究極のバランスこそが動力伝達を極めてスムーズにし、不快な振動を排した純粋な加速フィールをドライバーに提供することに繋がるわけですね。
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高回転化と高性能の追求
V12エンジンは多気筒化により(より少ないシリンダーを持つエンジンに比較して)1気筒あたりの排気量が小さく、結果としてピストンの上下動距離(ストローク)を短くできるため、極めて高い回転数まで回すことが可能です。
例えば、最新モデルである『12チリンドリ』に搭載されたV12エンジンは、9250rpmでピークパワーを発揮し、レッドゾーンは9500rpmに設定されていますが、この超高回転域のパフォーマンスこそが「フェラーリのエンジニアリングの真骨頂」ということに。
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2. マラネロ:エンジンの「魂」が生まれる場所
フェラーリにとって、エンジンは単なる動力源ではなく「根幹」そのもの。
そのため、ロードカー用のエンジンは、一部の鍛造パーツを除き、すべてが聖地マラネロで生まれており、ぼくが直接フェラーリの工場で聞いたところでは「エンジンの主要構成パーツでは、クランクシャフトのみが外注」なのだそう。
妥協なき製造と品質管理
動画を見ても分かる通り、マラネロの工場では、伝統的な職人技と最先端の検査技術が共存し・・・。
- 精密な機械加工: シリンダーブロックやクランクシャフトの切削加工は、摩擦軽減のために油をかけながら行われ、ナノレベルの精度で仕上げられる
- 非破壊検査: 型から抜かれた後の部品は、内部に亀裂がないかを確認するためのレントゲン検査、そしてポート内部を細かくチェックするための内視鏡検査など、非常に厳密な品質チェックを受ける
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経験が活きる職人による仕上げ
そしてデジタルやロボットによる作業では再現できない、熟練工による「手」作業がエンジンの性能を決定づけることに。
- ポートと燃焼室の研磨: 吸排気の効率を左右するポート内部の仕上げや燃焼室の研磨は職人の手によって一つ一つ行われ、わずかな仕上げの違いが性能に現れるため、長年の経験が不可欠な領域だとされる
- バルブシートの圧入: 吸排気バルブを受け止めるバルブシートは極限まで冷やして収縮させた状態からポートに圧入され、常温に戻ることで外れないように固定される。単純ながら、全シリンダーに対して行う手間のかかる作業である
3. 関連情報:官能的なV12サウンドの秘密
V12エンジンの魅力はパフォーマンスだけでなく、その聴覚を刺激するサウンドにも。
V12は多気筒であるため、各シリンダーで起こる爆発の間隔が短くなりますが、この結果、排気音の「粒」が細かくなり、美しく澄んだ、甲高く艶やかな音色を奏でる事が可能となります。
F1においても、かつてフェラーリのV12エンジンがV10エンジンとは一線を画す官能的なサウンドでファンを魅了しており、これはドライバーが体験する運転の爽快感、オーナーが車両を所有する喜び、そして自身でフェラーリを運転しなくとも聴覚を通じての快感を高める、フェラーリに欠かせないキャラクターの一つです。
まとめ:フェラーリは、やはり「エンジン屋」である
フェラーリのV12エンジン工場は最新鋭の機械と長年の経験を持つ職人の「手」が、「最高の性能と美しさ」という共通の目標に向かって協力し合う場所。
フェラーリオーナーの愛車、または憧れのフェラーリに搭載されているV12エンジンはこの聖地マラネロで、情熱と技術の結晶として生まれています。
こういった「製造の家庭」「誕生の瞬間」を知ることでいっそうV12エンジンに対する理解と愛着が深まり、次にフェラーリの乾いた甲高いエキゾーストノートを耳にした時、その体験がより一層特別なものになるのかもしれませんね。
ちなみに動画では塗装や・・・。
V6ハイブリッドパワートレーンの製造に・・・。
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内装の組付けなども収録しています。
フェラーリの工場にてエンジンや車体が製造される様子を収めた動画はこちら
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