
| 「もう1台メルセデス・ベンツが買える」ほどの値引き |
「マイバッハ」ブランドのイメージを毀損する可能性も指摘される
米メディア、CarsDirectによると、メルセデス・ベンツは現在、マイバッハEQS 680 SUVに最大5万ドル(約775万円)という驚きのディスカウントを実施している、とのこと。
これは、米国市場で販売されるEVの中でも前例のない大幅値引きです。
そしてこの値引きの理由は「売れていないから」ということになりますが、売れていない理由は「高すぎる価格」にあるといい、実際のところ標準仕様の「メルセデス・ベンツEQS 400 4MATIC SUV」が約9万ドルであるのに対し、マイバッハバージョンのEQS 680 SUVは約18万ドルに設定されていて(つまり倍)、消費者にとってこの価格差は許容できるものではない、ということなのだと思われます。
Image:Mercedes-Benz
値引きの内訳と背景:売れ残る「超高級EV」
報道によると、2025年モデルのEQS 680 SUVを購入する場合では最大5万ドルの値引きが適用されるものの、2026年モデルでは2万3,000ドルに減額されるとのこと。
つまるところ「生産済み」の2025年モデルの在庫が積み増しているため、これを処分しようということになりそうですが、これから生産がなされる2026年モデルであっても2万3,000ドルの値引き対象となっているので、「とにかく売れていない」のは間違いないのかも。
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高級EV市場はここ数カ月で明確に冷え込みを見せており、特に「高価格帯×EV」という組み合わせの車両は世界的に販売が鈍化しています。
マイバッハEQSも例外ではなく、メルセデス・ベンツが過剰在庫を抱えた結果、ブランド史上最大級の値下げに踏み切ったという構図となりますが、この「市場例を見ない大幅値引き」は今後のマイバッハにおける展開に暗い影を落とす可能性もあり、しかしメルセデス・ベンツはそれをわかって「値引き」に踏み切ったのだと考えてよく、つまり「背に腹は代えられない(長期的なリスクをわかっていても値引きせざるを得ない)」状況であるとも考えられます。
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他のEVモデルにも波及するディスカウント戦略
なお、さらに芳しくない状況を示すのが「マイバッハEQS以外のメルセデス・ベンツ製EVにも割引が拡大中」ということ。
- 2025年式 EQS SUV(通常モデル):購入で1万ドル引き、リースで1万500ドル引き
- 2025年式 EQB(電動GLB):購入で9,000ドル引き、リースで9,500ドル引き
- 2025年式 EQE(セダン/SUV):購入で7,000ドル引き、リースで7,500ドル引き
- G 580 EQテクノロジー(電動Gクラス):5,000ドル引き
これらはマイバッハほどの衝撃ではないものの、メルセデス・ベンツがEVの在庫全体を整理しつつあることを示す明確な兆候だとも捉えることが可能です。
ちなみにですが、「5万ドル」の値引き額で購入できるメルセデス・ベンツは米国だと「GLB」「CLA」、そしてちょっと足せばCクラス(5万900ドル)も買えるのだそう。
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高級EV市場に見える「供給過多」と「ブランドリスク」
マイバッハEQSの大幅値引きは単なる販売促進策にとどまらず、それは高級EV市場の構造的な問題を浮き彫りにした一種の「兆候」。
近年、EV開発に巨額投資を行ったメーカーは販売ペースが予想を下回る中で在庫処理に苦しんでいますが、特にメルセデス・ベンツやBMW、アウディなどの高級ブランドは、「EV=高価格・高利益率」という戦略が必ずしも成立しなくなっていることから苦戦を強いられています(とくにEV大国である中国では「高級EV」が受け入れられにくいという。参考までにマイバッハEQSは上海で発表され、中国で人気を博するはずであった)。
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さらにはこうした値引きが続くと、ブランド価値の希薄化という副作用も生まれ、「マイバッハ」のように“究極の贅沢”を象徴してきたブランドが値下げ販売によって市場に出回ることは長期的なブランド戦略にリスクをもたらしかねず、中古市場の暴落を招くことも考えられ、状況は「より悪い方へ」と向かうリスクもはらんでいます。
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まとめ
メルセデス・マイバッハEQS SUVの「最大5万ドルの値引き」はEV市場の飽和と高級ブランドの戦略転換を象徴する出来事で、今後、他の高級ブランドも同様の価格調整を迫られる可能性があり、「EV時代の高級車とは何か」が改めて問われる局面へと突入するのかもしれません。
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参照:Jalopnik















