
| ポルシェは「台数よりも利益単価」を追求する方向へとシフト |
高級車ビジネスに亀裂—ポルシェとディーラーの法廷闘争
ドイツの高級スポーツカーメーカー、ポルシェが米国フロリダ州の主要な高級車ディーラー「ザ・コレクション(The Collection)」から提訴された3億ドル(約450億円)の損害賠償訴訟のため、来年3月に法廷に立つことになる、との報道。
この訴訟は、単なる一ディーラーとメーカーの争いにとどまらず、高級車ビジネスのあり方、特にコロナウイルスのパンデミック以降に加速した「ブランド(メーカー)による販売網支配という」業界の深い緊張関係を浮き彫りにしている、として話題となっています。
「フェラーリ化」戦略が招いた販売網の混乱
まず、ザ・コレクションの主張は「ポルシェが単独のポルシェ専用ショールームの建設を拒否した同社に対し、意図的に車両供給を制限した」というもの。
パンデミック後には世界の高級車市場は大きな転換期を迎え、半導体不足が収束した後でもポルシェのようなメーカーは需要超過の状態が続き、「売り手市場」が形成されています。
さらにこの時期、ポルシェの親会社であるフォルクスワーゲンは車両の生産が(半導体不足で)落ち込んだこと、電動化戦略が思ったように進まなかったことで資金繰りに苦しむこととなり、そこでグループ切手の稼ぎ頭であるポルシェへと一縷の望みを託すことに。
そしてポルシェが採用した戦略が「限定モデルを増やし、その単価を引き上げることで利益率を高めること」。
この戦略に従いポルシェは「非常に高額な」リミテッドエディションを多数発売することとなるわけですね。
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1. 希少性と高価格化の推進
この時期、アナリストはポルシェの戦略転換を「ポルシェのフェラーリ化」と表現。
フェラーリのように希少性を演出し、価格を大幅に引き上げる戦略を指していますが、ある独立系高級車アナリストは、「ポルシェは、コロナから脱却した後、価格設定を本当に、本当に強く押し進め、あらゆるものの価格を引き上げ続けた」と指摘しています。
2. メーカーによるコントロールの強化
しかし、この価格高騰の背景には、ディーラー側が独自に設定する「プレミア価格(いわゆるマークアップ=Mark-up)」による価格の乱高下も存在し、これは北米ならではの現象であると言えるかもしれません(北米では価格流動性が高く、ディーラーがプレミア価格を設定して販売することがあり、これは日本では考えられない事象である)。
そして2022年頃からポルシェはこうした「混乱」に秩序をもたらすため、米国販売網に対するコントロールを強化し始めたのですが、その手段の一つが、ディーラーに対しブランド専用の独立型ショールーム(スタンドアローン・ストア)の建設を促すこと。
これは、ブランド体験の統一と、価格コントロールを容易にする狙いがあったと見られ、日本だとこういった手法は一般的で、よって各地のポルシェセンターはCIに則った独立店舗となっていますが、北米では「メーカー(ブランド)がディーラーに対し、店舗の作りを強制することが違法」だと報じられていて、これもまた日本とは全く異なる部分です。※よって、ポルシェとマセラティ、ベントレーなどを「併売」する正規ディーラーも少なくはない
ディーラー「ザ・コレクション」の拒否と「死のスパイラル」
そしてポルシェはフェラーリやアストンマーティンなども扱うザ・コレクションに対し、ポルシェ側がマイアミ郊外の「過疎地でポルシェ市場が皆無に近い場所」として提案した数千万ドル規模の単独店舗建設を”強制”したとされ、しかしザ・コレクションがこれを拒否したことから問題がさらに複雑化しています。
フランチャイズ法違反の主張
ザ・コレクションは、この拒否を受けてポルシェが「プールカー(Pool-car)」の割り当てを制限し始めたと主張。
プールカーとは、ポルシェの裁量でディーラーに分配される車両で、ディーラーの総供給台数の20%にも及ぶことがあり、この供給制限こそが同社のポルシェ販売を「(売れるクルマを減らされたことにより)死のスパイラル」に陥らせた原因で、これはフロリダ州のディーラー・フランチャイズ法に違反すると訴えています。
ポルシェ側の反論
一方、ポルシェ側はこの主張を否定。
ポルシェは、ザ・コレクションが「約10年近くにわたり新車販売が減少傾向にあったにもかかわらず、意図的に新しい専用施設への投資を拒否した」と反論し、訴訟の対象となっている親会社、「ポルシェAG(Porsche AG)」が外国法人であることを理由に繰り返し訴訟からの除外を求めてきたものの、マイアミの裁判官はその要求を棄却している、という状況なのだそう(つまりポルシェ側はある程度の違法性を認識しているのだとも考えられる)。
業界全体を揺るがす「規制の論点」
この訴訟が注目されるのは、訴訟代理人が指摘するように、フロリダ州の規制だけでなく「米国の多くの地域が同様の規制を抱えているため、業界全体に影響を与える」可能性を秘めているから。
高級車ブランドが「希少性」を高める戦略は、確かに短期的には利益を押し上げますが、ディーラーとの関係、そして長年の顧客ロイヤルティに亀裂を生じさせています。
次世代のラグジュアリーカー市場において、メーカーが販売網をどこまでコントロールできるのか、そしてディーラーの権利がどこまで守られるのか。
この3億ドル訴訟は、その境界線を画する重要な判決となることは間違いなさそうですね。
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参照:CARSCOOPS

















