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| 限界を超える挑戦の終焉—ブガッティ・ボリードが残す伝説とは? |
ブガッティ・ボリード「最後の一台」が示す意味
ブガッティのサーキット専用ハイパーカー「ボリード(Bolide)」”最後の一台”が、モルスハイムのアトリエでついに完成。
このマイルストーンは単なる生産終了ではなく、自動車工学における「可能性の限界」を押し広げたプロジェクトの集大成であり、ブガッティが1909年以来守り続けてきた「卓越性への揺るぎないコミットメント」を証明するものにほかなりません。
ここでは、究極のパフォーマンスとブガッティの伝統が見事に融合したボリードの開発秘話、驚異的なスペック、そして最後の1台が持つ特別な意味を探ってみたいと思います。
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その価格6億円オーバー、ブガッティ・ボリード「第一号」が顧客へと納車。ブガッティらしいローンチ仕様のカラーリングを持ち内装にもブルーのアクセント
Image:teamcjworks | ブガッティ・ボリードは何もかもが「規格外のスペック」で作られている | そして細部を見るに、後のトゥールビヨンにもその開発における経験が生かされているようだ さ ...
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ハイライト
- 究極のW16:ボリードはブガッティ最後のW16エンジンを搭載したサーキット専用モデル
- 開発期間:2021年8月の「What If(もしも実現したら)」構想から2025年の顧客への納車まで、約4年半にわたる徹底的な開発を経て完成
- 妥協なき品質:モータースポーツ最優先の設計でありながら「生涯にわたる卓越性」というブガッティの品質基準を達成
- 伝説との繋がり:最終モデルはオーナー所有のType 35にインスパイアされたカラーリングを採用し、ブガッティのレーシングヘリテージを現代に継承
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構想から量産化への【執念】の道のり
ブガッティがボリードの開発で追い求めたビジョンは明確で、それは「ブランドの伝統を尊重しつつパフォーマンスの限界を再定義すること」。
目指したのは、「ジェントルマンドライバーが容易にアクセスでき、ベテランのプロフェッショナルには忘れがたい体験を提供する」という、純粋さとパフォーマンスを追求したマシンです。
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開発を牽引した「ブガッティの精神」
ボリードのプロジェクトは2021年8月にコンセプトが発表されたのちにスタートしていますが、このボリードは当初市販化を前提としておらず、「パワーウエイトレシオがもし0.67だったら」という”仮定の”話からスタートしています。
そしてこの”仮定”に対する実現の要望が多々寄せられ、”仮定から現実に”向けて動き出したわけですね。
「私の最初のプロジェクト関与は2021年8月でした。つまり、私たちは本当に4年以上前に遡ります。当時は非常に初期の設計段階にある新しいコンセプトでした。多くの要素を結びつける必要があり、エキサイティングな時期でした。」
エミリオ・スチェルヴォ(Emilio Scervo)、ブガッティ最高技術責任者
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ブガッティが時速500km/hを達成可能な「ボライド(ボリード)」発表!出力1850馬力、重量1240kg、パワーウエイトレシオは0.67
| これが「もしもブガッティが本気でレーシングカーを作ったら」への回答だ | さて、ブガッティが先日よりティーザーキャンペーンを行っていた新型ハイパーカー、Bolide(ボリード、もしくはボライド。動 ...
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ただし最大の課題は、このサーキット専用ハイパーカーが、ブガッティの代名詞である「卓越した実行品質とクラフトマンシップ」をすべて満たすことであったといい、単に速いだけではなく、ブガッティコレクションの一員にふさわしい品質が求められたことから開発は難航を極めることに。
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ブガッティがボリードのブレーキ開発について語る。ブレンボとの2年にわたる共同開発を行い「フロントブレーキローターはブレンボ史上最大」に
Bugatti | ブガッティ・ボリードの開発が完了し、実際にサーキットを走行しラップタイムを刻むのが楽しみである | ブガッティはドライのみではなくウェット状況においても最大限のパフォーマンスを発揮 ...
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伝説のサーキット、ル・マンでの圧倒的な実力証明
初期の設計が2022年に、エンジニアリングが2023年初頭に完了した後、ブガッティはプロトタイプの走行テストへと移行することとなりますが、2023年のル・マン24時間レース100周年記念イベントは「ボリードにとっての決定的な試練の場」となり、公式テストドライバーのアンディ・ウォレスはストレートで350km/hを記録。その性能は期待を上回ることとなっています。
その後も2023年夏から2024年初頭にかけて集中的な開発がサーキットにおいて続けられ、エンジニアと技術者は早朝から深夜まで綿密に計画されたスケジュールで作業を続け、サーキットのオープンと同時に走行できるよう徹底した準備が行われたのだそう。
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ブガッティ・ボリードの最高速が発表時の500km/hから市販モデルでは380km/hへと引き下げられる。ブガッティが語るその理由とは
| ブガッティ・ボリードは特定環境のみでしか走行せず、その環境で発揮できない性能よりも、その環境で最大の性能を発揮させることに重点が置かれている | ボリードの開発もいよいよ大詰め、あと数ヶ月以内には ...
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競合を圧倒するブガッティの「品質と性能」の融合
ブガッティにとって、パフォーマンスだけでがブガッティを定義するものではなく、ボリードが象徴すべきは、「最高のパフォーマンスと、優雅さ、洗練さ」との融合。
実査のところ、ステアリングホイールは「芸術品レベル」の仕上がりを持ち、車両保管時には「取り外して」自宅内に飾っておくことができるようにデザインされているということもアナウンスされていますね。
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ブガッティがサーキット走行専用ハイパーカー、ボリードのインテリアを公開。「走らないときはステアリングホイールを外して芸術作品のように飾っておけます」
| このデタッチャブル・ステアリングホイールはちょっとうらやましい | さすがブガッティだけあってサーキット走行専用モデルであっても芸術性を忘れない さて、ブガッティがそのサーキット走行専用ハイパーカ ...
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量産化における最大の挑戦
モータースポーツでは「すぐに交換できる部品」が優先されますが、ブガッティの場合は「時の試練に耐える(100年以上の時の試練に耐える)」ために製造されることとなり、極限のパフォーマンスを提供しながらこの哲学を維持することは、エンジニア、サプライヤー、生産チームにとって当然のことながら「非常に大きな課題」として立ちはだかることに。
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「私たちは、サーキットで走行できるだけでなく、世界で最も洗練されたコレクションに属するクルマを作ることを目指しました。だからこそ、塗装からインテリアに至るまで、すべてのディテールに並外れた注意を払い、ボリードを所有することが、他のブガッティと同じレベルのクラフトマンシップを反映するようにしました。」
クリストフ・ピオション(Christophe Piochon)、ブガッティ・オートモビルズ社長
顧客が求めるのは、単なるスピードではなく、最初のドライブから生涯にわたって卓越性を発揮する非の打ちどころのない品質というわけですね。
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ブガッティ・ボリードを所有するということ──富豪の中のさらに選ばれし者飲みが許される「特権」。タイヤ交換は60kmごと、その費用は120万円、そして燃費はリッター「1.3km」【動画】
| 走るだけでも「一回で数十万円」が飛んでゆき、走らなくても同じくらいの維持費がかかるのがこのボリードである | ブガッティの所有には、とんでもない情熱と愛情、そして資金と忍耐が要求される さて、現在 ...
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【詳細スペック】ブガッティ・ブライドの驚異の性能
ブガッティ・ボリードはその極限の設計に起因して具体的なスペックにつき非公開の情報も少なくはなく、しかしこれまでの発表から以下の驚異的な性能が確認されています。
| 特徴 | 詳細 |
| 生産台数 | わずか40台限定 |
| エンジン | 8.0リッター W16クワッドターボ |
| 最高出力 | 約1,600 PS~1,850 PS (公表スペックによる) |
| 乾燥重量 | 約1,240 kg (コンセプト発表時) |
| パワーウェイトレシオ | 0.67 kg/PS(コンセプト発表時)、実際には0.97 kg/PS付近 |
| 最高速度 | 500 km/h以上を理論上達成可能だが実際には350km/hに抑えられる |
| 価格 | 400万ユーロ(約7億2500万円)から(納車開始時) |
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ブガッティのサーキット走行専用ハイパーカー「ボリード」の仕様はこうやって決めてゆく。ブガッティがその歴史やコンセプトを顧客に提示し、そのイメージを形成することに
| ブガッティのクルマはすべてにおいて自由度が高いだけに、仕様を決めるのにも相当な時間がかかるもよう | 仕様決めの段階でデザイナーやエグゼクティブと話すのもまたとない経験となりそうだ さて、ブガッテ ...
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最終モデルのカラーリングに隠された「伝説の血統」
この最終モデルは、長年の献身的なコレクターであり、ブガッティの長年の理解者である顧客によって発注されたといい、上述の通り彼の所有するType 35への愛情がインスピレーション源となっています。
その結果として、ブガッティのレースの歴史を彩ってきた鮮やかなブルーの色合いが採用されたわけですね。
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ブガッティ タイプ35は現役時代に2,500もの勝利を収め、月に12のレースで優勝していた。このクルマによってモータースポーツが再定義されたと言っていい
| ブガッティは常に独自の発想にてよって新しい時代を築いてきた | そしてその基本的な思想は今日のブガッティにも息づいている さて、ブガッティはたびたび「タイプ35」に関するコンテンツを公開しています ...
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- エクステリア:「ブラックブルー」と「スペシャルブルー・リヨネ」
- インテリア:「レイクブルー」のアルカンターラ、フランス国旗のモチーフ、「ライトブルースポーツ」のステッチ
この”最終ボリード”は、オーナーのヴェイロン・グランスポーツ(これも生産最終モデル)と同じカラーリングで指定されており、数十年にわたるブガッティとの絆を象徴する「三部作」を完成させたこととなりますが、どのモデルであっても「最初の一台」に加えて「最後の一台」は非常に人気があり、とくに最後の一台は「もっとも重要なコレクター」へと納車されることが多いようですね。
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ブガッティ・ボリードのための「認定センター」が進化。世界中のオーナーに対し本格的なレーシングサポートを専門スタッフが提供
Image:Bugatti | 近年のハイパーカーは「お金」だけではなく「時間」がないと楽しめない | 「ブガッティ・ボリード」オーナーに本格レーシング体験を ブガッティが誇るサーキット専用ハイパーカ ...
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ブガッティの「Type 35」が現代に継承する遺産
ここで最終ブライドのインスピレーション源となったブガッティ Type 35について簡単に紹介しておくと、このType 35は、1920年代に一世を風靡した伝説的なレーシングカー。
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ブガッティが「世界初の専用設計レーシングカー」、タイプ35について語る。「自動車に関し正式な教育を受けていなかったからこそ、常識外れのクルマを設計できたのです」
Bugatti | ブガッティは創業当初から「並外れた」存在であった | その思想は現代に至るまで受け継がれる さて、ブガッティが「その歴史を語るうえで外すことができない」タイプ35を紹介するコンテン ...
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- 勝利の象徴:Type 35は、グランプリレースで2,000回以上もの勝利を収めたとされ、史上最も成功したレーシングカーの一つとされる
- デザインの源流:美しい流線形のオープンホイールデザインはブガッティのデザイン哲学の源流であり、その後の高性能車に多大な影響を与えている
- ブルーの伝統:フランスのナショナルレーシングカラーであるブルーをまとい、ブガッティのレースにおける「ブルーの伝統」を確立した1台

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100年前に発表されたブガッティ タイプ35と100年後に発表されたトゥールビヨンには意外な共通点があった。「いずれもボルト1本に至るまで目的志向であり、ドライバーとの機械的な繋がりがあります」
Image:Bugatti | ブガッティ「全てのパーツが明確な目的を持って設計され、独自のストーリーを語らなければなりません」 | ブガッティは「ブガッティ・リマック」へと耐性が変化したものの、ブガ ...
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ボリードはこのType 35が示した「最高のレース性能と芸術的な美しさ」というエッセンスを「現代の究極のW16サーキットハイパーカーとして」受け継いでいるわけですね。
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後のブガッティを定義したタイプ35の最初のレースは問題だらけだった。「完璧な状態で生まれることはありません。 完璧は、失敗を認識し、改善することで得られます」
| いかにブガッティといえど、最初から「完璧」ではなかった | ただし完璧を目指し、そのために行動しなければ完璧にはたどり着けない さて、ブガッティが「その後のブガッティのクルマのあり方を定義すること ...
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結論:W16の集大成、ブガッティ・ボリードが描く未来
わずか40台限定のブガッティ・ボリードは単なるハイパーカーではなく、それはブガッティのレガシーがイノベーションを導き、「完璧さの追求」だけが唯一許容される基準であった時に「何が達成できるかを示す証」。
ボリードは、(ブガッティ創業者である)エットーレ・ブガッティが確立したモータースポーツにおける卓越性をW16エンジンの究極のパフォーマンスという形で現代へと受け継いだ存在であり、この物語はブガッティがこれからも自動車工学の限界を押し広げ続けるという「未来への強力なメッセージ」であると受け取ることもできそうです。
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「他と比べられるようであれば、それはブガッティではない」。創業者であるエットーレ・ブガッティの信念、卓越性の追求と経営破綻、そして再生(1)
Image:Bugatti | 序論:ブガッティの不朽の遺産 | ブガッティ創業者の魂はいまも製品に根付いている ブガッティは、自動車の歴史において最も崇拝されるブランドの一つとして、比類のない豪華さ ...
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参照:Bugatti




















