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いったい名門ブランド「ジャガー」に何が起きてるんだ・・・。「空白の1年」と物議を醸すType 00の正体、そしてデザイナー解雇劇

いったい名門ブランド「ジャガー」に何が起きてるんだ・・・。「空白の1年」と物議を醸すType 00の正体、そしてデザイナー解雇劇

| ほとんどの人から見て「自滅への道」を進んでいるようにも思われるが |

この記事のハイライト

  • 販売モデルが実質ゼロの異常事態: ジャガーは現在、ICE(内燃機関)モデルの生産を終了し、完全電動化への移行期間に。ディーラーには売る車がほとんどなく、2025年の販売台数はほぼ100%減少するという、自動車メーカーとして異例の状況に陥っている
  • 物議を醸す「Type 00」とリブランディング: 2024年末に発表されたコンセプトカー「Type 00」と新しいロゴは伝統的なファンを当惑させ、「Copy Nothing(何も模倣しない)」を掲げた斬新すぎるマーケティングがブランドの方向性を不透明にしている
  • 追い打ちをかけるサイバー攻撃: 2025年9月、ジャガー・ランドローバー(JLR)を襲った大規模なサイバー攻撃により、世界中の工場が5週間にわたって停止。約1.9億ポンド(約370億円)もの損失を出し、新モデルの開発スケジュールにも遅れが生じている
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ディーラーに車がない?ジャガーを襲う「戦略的空白」の正体

かつて「E-Type」で世界を魅了したジャガーが今、最大の苦境に立たされており、現在のジャガーを象徴するのは、かつての「Grace, Space, and Pace(優雅、空間、速さ)」ではなく、「販売期間の空白」です。

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ジャガーはもう「終了」か?新型EV「Type 00」が発表延期、完全電動化戦略に再び暗雲が立ち込め、売るクルマがない「空白期間」が長期化するおそれ

Image:Jaguar | ジャガーの電動化戦略に再び“試練” | まさに「泣きっ面に蜂」 ジャガーがブランド再構築の象徴として開発を進める新型EV、「Type 00(タイプ・ダブルオー)。 今回そ ...

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ジャガーは「Reimagine(再構築)」戦略のもと、2025年までにすべての内燃機関車の生産を終了し、2026年から超高級EVブランドとして再出発することを決断し、その結果として、主力だった「F-Type」「XE」「XF」は姿を消し、現在唯一残っているのはデビューから10年が経過したSUVの「F-PACE」のみ。

これはジャガー本体のみではなく、サプライヤー、そして全世界のディーラーを苦境に立たせることをも意味します。

  • 衝撃のデータ: 次世代EVのデリバリーが始まる2026年まで、ジャガーには事実上「新車ラインアップ」が存在せず、このため、2025年の販売実績は壊滅的な打撃を受けている
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JLR(ジャガー・ランドローバー)、8月から今まで「1台も」生産できず。最悪だと11月までこの状態が継続し1日あたり13億円の損失も。その原因は「サイバーアタック」
JLR(ジャガー・ランドローバー)、8月から今まで「1台も」生産できず。最悪だと11月までこの状態が継続し1日あたり13億円の損失も。その原因は「サイバーアタック」

Image:JLR | 現時点で生産再開時期は未定、サプライチェーン崩壊の二次的影響も指摘される | あな恐ろしやサイバーアタック 9月頭には「8月31日に発生したサイバー攻撃の影響で、ジャガー・ラン ...

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Type 00:伝統を捨てる勇気か、自滅への道か

2024年末にマイアミで発表された「Type 00(ゼロ・ゼロ / ダブルオー)」コンセプトは、ジャガーの未来を占う重要なモデルですが、その反応は極めて二極化しています。

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Image:Jaguar

  • 斬新すぎるデザイン: Renaissance(ルネサンス)様式にインスパイアされたという、モノリスのような巨大で直線的なデザインは、従来のジャガーの流麗な曲線美とは無縁のもの
  • リブランディングの波紋: 新しいロゴや、パステルカラーを多用したアバンギャルドな広告キャンペーンは、多くの古参ファンから「ジャガーらしさが失われた」と強い反発を招くことに
  • デザインボスの不在: デザインを主導してきたジェリー・マクガバン氏が「解雇された」という噂が流れるなど、社内の混乱も囁かれている(会社側は否定しているが、同氏の在籍についてはノーコメント)。
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Image:Jaguar

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フェラーリやマクラーレンを手掛けたデザイナー、ジャガーの新型EVコンセプト「タイプ00」を酷評。「自動車的ではない」「どの角度から見ても記憶に残らない」デザインと断言

Image:Jaguar | フランク・ステファンソンがここまで「酷評」する例は珍しい | 同氏は常に愛を持って自動車のデザインを語る人物である 自動車デザイナーのフランク・ステファンソンは、自身の意 ...

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正直なところ、ぼくとしては「E-タイプの再解釈」「XJの再解釈」といったネオレトロ路線を採用したほうが勝算が高く、かつ他とも被らず、そしてジャガーの伝統を主張できるために良かったんじゃないとも考えているのですが、ジャガーがこのデザインを採用したことについては「完全に理解の範疇を超えている」。

伝説の再構築:「巨匠」イアン・カラムが現代版ジャガーEタイプをSNSにて公開、現実世界におけるレストモッドも視野に入れる
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さらには「まちがいなく議論を呼ぶであろう」プロモーションを意図的に採用したことについても理解が追いつかず(これは社内でも反対派が多かったようだ)、ジャガーが「メリットがないのにリスクへと踏み込んだ」という印象も。

泣きっ面に蜂:英国史上最悪のサイバー攻撃

戦略的な困難に加え、2025年9月には予期せぬ悲劇が襲うこととなり、これはJLR(ジャガー・ランドローバー)が大規模なサイバー攻撃の標的となって英国ソリハル工場を含む世界中の生産ラインが約1ヶ月間停止したというもの。

  • 甚大な被害: この攻撃による第2四半期の損失は約1.9億ポンド(約370億円)に達し、サプライチェーン全体を巻き込んだ混乱は2026年初頭まで尾を引くと予測されている
  • 開発への影響: 本来2025年末に予定されていた新型EVグランドツーリング(I-Typeと噂される)の市販版発表は2026年へと延期
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ジャガー
「85%を失ってもOK」として再ブランディングを強行したジャガーCEO、自身の職を失う。さらにドナルド・トランプは「ワケがわからない愚かな戦略」と広告を非難

Image:Jaguar | 一国の大統領なのに一企業の戦略を避難するのは「さすがトランプ流」である | ジャガーが今後「どう転ぶのか」全くわからない 2024年に物議を醸したジャガーのリブランディン ...

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復活へのシナリオ:2026年に「跳躍する猫」は戻るか?

厳しい冬の時代を過ごすジャガーですが、2026年にはいよいよ反撃が始まります。

復活に向けた3つのステップ

  1. 新型EV GTの投入: 約13万ドル(約2,000万円)からという超高級価格帯で、ポルシェ・タイカンをライバルとする新型EVを発売。航続距離はWLTP基準で約770kmを目指します。
  2. JEA(ジャガー・エレクトリック・アーキテクチャ): ランドローバーと共有しない、ジャガー専用のプラットフォームを構築することで唯一無二の走行性能を追求します。
  3. ブランドの再定義: 既存の顧客の8割を失うことを覚悟の上で、ベントレーやロールス・ロイスに近い「超高級・少量生産」ブランドへの脱皮を図ります。

ただ、ジャガーの新しいEVは機能的な新規性や排他性を持たず、「想像できる範囲のEV」にとどまると見られており、反面ジャガーが売りものとしているのは「デザイン」「コンセプト」という不確かなもの。

自動車という工業製品を、さらには2000万円に迫ろうというクルマを売るにはあまりに「曖昧な」付加価値しか持たず、果たして「買う理由が見いだせるのか」という疑問も囁かれています。

結論:2026年がジャガーの「審判の日」

現在のジャガーの苦境は、単なる不振ではなく、「過去のすべてを一度壊す」というあまりに大胆な賭けの結果です。

そして自動車業界史上、ここまでのギャンブルに出た例は類を見ず、まさにジャガーの戦略は「捨て身」とも言えるもの。

2025年の空白と混乱を乗り越え、2026年に登場する市販モデルが、再び世界を驚かせる「美しき野獣」となるのか。それとも、歴史の彼方へ消え去るのか。

ジャガーの90年の歴史の中で、今ほどその存続が問われている時はありません。

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